第11話 女神像
歩きながら、ノアールの視線が一点を見つめているのに気付く。
「あれは?」
石像……女性を
「天使……それとも女神の像か」
砕けて無くなっているが、背中には翼が作られていたようだ。女神なのか天使なのかはわからないが、台座だけは割と新しく見えた。新しいと言っても数十年は経っている。女神像はとにかく古いものだ。
決して大きくはない。台座が人の腰より少し高いくらいで、その台座を含めて、人の背と同じくらい。女神像だけなら、赤子より少し大きい程度だろうか。
何かの目印と言うより、古い信仰の御神体のような雰囲気だった。
「大昔には、村と森の境界の場所に、神殿があったそうだ。神殿と言っても、掘っ立て小屋みたいな物だったようだが、そこにあった女神像らしい。この女神像の向こう側は、女神の結界に護られた森として特別なことがないと立ち入りを禁止されていたそうだ」
ケビンが割と丁寧に説明してくれた。先乗り組として、村の歴史や言い伝えも調べているらしい。
わたしは、歩くのを止める。ノアールも、わたしに従って止まった。
「どうした?」
先を歩いていたケビンが、怪訝な顔でわたし達を振り返る。
「今の話が本当なら、おかしくないかい?」
「何がおかしいんだ?」
どうやら、わたし達はケビンにいっぱい食わされたらしい。ケビンは、驚いた風を装っているが演技が白々しい。
「東へ向かう旧街道へ繋がっている近道が、女神の結界で立ち入り禁止の森を抜けるなんて有り得ないよね」
旧街道に出る近道を案内すると言いながら、ケビンはわたし達を森の奥に連れ出したのだ。ケビンの口元がニヤついている。
「おお、来たか。麗しき盾の乙女と美しい魔法使いよ」
カイルの声だ。声の方向に視線を向けるとそこには、ルイスとアーレンの姿もある。ゾロと言うケビンの弟子の魔法使いもいた。
魔物によって旅人や商人が襲われているのは、この辺りだと言う。カイル達は、その現場検証として周辺を調べているとのこと。
そして……ケビンは、わたし達をこの仕事に巻き込もうとして、騙してここへ誘導してきたのだ。
「わたしは、この村の魔物にもアンタ達にも関わりたくないんだよ。やるコトが汚いんじゃないのかい?」
ケビンは、悪びれもせず大口を開けて笑っている。
「真面目な話、俺はアンタが気に入ったんだ。騙されたついでに、カイルと一度仕事をしてみてくれ。腕と度胸には、惚れ直すぞ」
惚れ直しはないぞ。そもそも惚れていないのだから。
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