第10話 黒い美人

 わたしのような戦士と、カイル達冒険者は役割が違う。戦士は戦場で、主の命を受けて敵の戦士と戦う。人同士の戦いの専門家だと言えるだろう。

 冒険者は、ざっくり言えば『何でも屋』だ。草むしりから要人の護衛、害獣や魔物の討伐、未踏地の調査や探検……依頼があれば何でもする。それぞれの領域の専門家が連携したりパーティを組んだりして様々な仕事に対応している。


「どこかの街に腰を据えて、ちゃんとした冒険者にはならないのか?」


 森を歩く道すがら、ケビンが問いかけてきた。旅の路銭稼ぎに、着いた街で冒険者に登録して仕事をすることもあるが、わたしのようなだけを頼りにするのは、できる仕事は限られる。


「旅をする方が目的なんでね。一箇所に定住する気はないよ」


「そうか」


 心なしかケビンはガッカリしたように見えた。


「そっちの魔法使いは、名前は何と言う?」


「この娘はノアールだよ」


 ケビンは、ノアールの頭から脚の爪先までを舐めるように眺める。緑の服のマントに隠れているから鉤爪は見えないはずだ。


「何が得意分野なんだ?」


 魔法使いも色々だ。薬草の専門家もいるし、魔の特性を利用した呪具や護符を作る者、それを人並み以上に使いこなす者。


「美人で、力持ちだよ」


「……はあ?」


 世界をズラしたり、空間を捻って別の場所に繋げたりするのは魔法と言えなくもない。

 戦ったら最強だ。冒険者が束になって対処する魔牛ミノタウルスでも、鉤爪の一撃で消滅させてしまう。

 あと、魔や呪いに関する知識も凄い。ただし、それはいにしえの神々のモノで、人が得られるべきモノでもない。

 これらを不用意に説明して、魔物扱いされたら面倒だ。


「スゴい美人が、傍でニコニコしてくれているんだから、それでいいじゃないか。重い荷物も運んでくれるんだからね」


「……」


 ケビンは納得していない様子だった。薬草に詳しいと言っておけばよかったか?

 まあ、どうでもいいさ。



 ケビンは、恐い顔になってわたしの方を向いた。ノアールのことを誤魔化しているのに気付かれたか?


「おい。アンタ、カイルの嫁にならないか?」


「はあ?」


 今度は、わたしが頓狂な声を上げてしまった。


「カイルは、あれで剣も体術も一流だ。そのカイルを、アンタは気絶させたんだ。相当な腕利きに違いない。カイルを支えてくれる訳にはいかないか?」


 開いた口が塞がらなくて返事ができない。


「アンタの目が光ってれば、カイルも他の女に手は出せなくなる。モルガルの街も悪くないぞ。一度来てみないか?」


 ああ、やっぱりカイルの保護者だった。

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