第9話 カイルの保護者

 わたしは、飯屋を出て村長の家に戻る。ノアールを迎えに行くためだ。

 緑の服に綻びを見つけた妹さんが、服のつくろいをしてくれると言うので、ノアールは村長の家に残してきた。

 村長の家に着くと、ノアールは黒のローブを着て、妹さんの側で緑の服の繕いが終わるのを待っていた。妹さんの指が動かす糸と針の動きを、真剣な眼差しで追いかけている。


「まるで魔法のようです」


 裁縫を知らなかったノアールは感激していた。いや、実際に妹さんの裁縫の技術は素晴らしいもので、母である村長の奥さんから習ったそうだ。

 長旅になるのならと、村長が保存食の用意もしてくれていた。日持ちするように、固めに焼いたライ麦パンやチーズを頂く。

 そして裁縫道具も頂いてしまった。わたしも、妹さんほどではないが裁縫には自信はある。ノアールの服を直すのも、わたしの仕事だし。



 ノアールが緑の服に着替えるのを待っていたら、カイル達パーティの年配の方の魔法使いがやってきた。

 カイルが妹さんに付き纏った件を謝罪に来たかと思ったら、わたし達に用があると言う。カイルが言い出した「助っ人して雇いたい」との話だ。


「女を側に置きたいだけなら、他を当たっておくれよ」


「腕の立つ戦士だと聞いた。女かどうかは関係ない」


 そう言う評価をして貰えるのは有り難いのだが、ノアールと旅をする今のわたしには重荷でもある。

 そして、この村のにはノアールを関わらせたくない。

 折角の申し出だが、わたしは断った。そして、村を出るつもりだとはっきりと年配の魔法使いに伝える。



 年配の魔法使いはケビンと名乗った。若い方の魔法使いは、ケビンの弟子でゾロと言うそうだ。カイルは、ケビンの相棒だった剣士の遺児で、亡き相棒の代わりにカイルの保護者をやっているとのこと。


「あの女にだらしない点さえ治れば、保護者は要らないのだがな」


 それには同感だ。

 助っ人の依頼も、ケビンは無理強いはしなかった。カイルの側に女を置きたくないのだろうから、その点は利害が一致している。


「この村を出て、どこへ向かうんだ?」


「取り敢えず、東に行きたいと思ってるよ」


 ケビンの問いかけに、曖昧な答えを返した。『東』のキーワードで、ノアールの頭の中に響いてくるモノがあったらしい。ノアールが行きたいと言うなら、わたしが連れて行くだけだ。


「それなら、森の中を少し長く歩くことになるが近道がある。東へ向かう旧街道へ繋がっているんだ。案内しよう」


 若干の悪意めいたものを感じたが……一刻も早くカイルの周囲から女を引き離したいのだろうな。

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