第7話 夜が明けて

 妹さんの部屋を使いなさい……と言ってくれたのだが、わたしとノアールは毛布を借りて納屋を使わせて貰うことにする。野宿には慣れているので、屋根があるだけで十分だ。

 ノアールは緑の服を脱ぐと丁寧に畳んで荷物袋にしまう。ノアールにとっては初めての自分の服。畳んでいる時が一番嬉しそうに見える。

 裸のノアールが、毛布を持って壁際に向かう。乳房や尻は丸みを帯びており、確かに女の身体ではある。右手の鉤爪と左脚に巻き付いた蛇の頭なければ。

 ノアールは裸の身体を毛布に包むと、壁を背にして腰を下ろした。毛布から伸ばした左脚には蛇の目が光っている。


「今夜は、その左脚も毛布に入れておきなよ。この家の誰かが、不意に入って来たら驚かせちゃうからね」


 納屋に内側から掛ける鍵はない。ノアールは少し躊躇ためらう様子だったが「はい」と返事をすると、左脚を毛布の中へ入れた。左脚の蛇は外敵を警戒する見張り役だから、それを仕舞い込むのは抵抗感があるのだろう。

 わたしも革鎧を脱いで、下着だけで毛布にくるまる。



 夕食を頂きながら、村長の家族から改めて話を聞いたのだが……村としては、魔物のことは深刻には考えていなかったそうだ。

 襲われた被害者と言われているのは、旅人や村外からの移住者ばかりで、生粋の村人で危険な目に遭った者はいないのだとか。

 村としても、人が増えて賑わいはじめたところに不穏な噂が立つのも嫌なので、商人や領主の好意を素直に受け取ったということだ。

 要するに「村人が魔物に襲われている」と言う話ではなかった。襲われた連中の素行を調べてみたら、もっとハッキリするのかも知れない。

 そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。



 朝方。日課にしている剣の素振りをしていると、妙の会話が聞こえて来た。ノアールも緑の服を着て、わたしの素振りを見ていたのだが……聞こえてくる会話の内容に首を傾げている。

 聞き覚えのある声、カイルである。


「君のような可憐な乙女がいたなんて昨日は気付かなかった。いやあ、申し訳なかった。このカイル、地の底よりも深く反省し、お詫びとして君に似合う首飾りをプレゼントしたい。オレの生まれたモルガルの街には、腕の良さで評判の細工師がいる。君をモルガルの街へ招待しよう」


 水を汲みに外へ出た妹さんが、朝から村長のところに来訪したカイルに見つかってしまい、いきなり口説かれている場面だった。

 いや。気付かれないよう、わざと隠れていたのだ。

 だから、お詫びの必要はない……はずだが。

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