第5話 魔物の被害
カイルが申し出た依頼に、わたしは返事をしなかった。ノアールをこの村に関わらせたくない……それが本音。
仕事を受けるかどうかは保留のまま、カイル達と村長の家に向かうことにする。
村長の家はひどく質素なものだった。カイル達が宿にした飯屋の方が、広くて立派な造りだ。おそらく、あれは村の外からの来訪者向けに新しく築造したのだと思う。
村長の家も、そのうち立派になるのかも知れない。
村長の家には、村に先乗りした2人がカイル達を待っていた。
裏方役と聞いていたので、斥候とか技師とかと思ったが、2人とも魔法使いのようだった。1人は年配で、もう1人は若い見習いか弟子なのだろう。
古い、木のテーブルを挟んで手前にカイル達5人、向こう側に村長と他2人の若い男が座る。2人の若い男は、村で組織した自警団だと自己紹介した。
わたしとノアールは、部屋の隅で壁にもたれかかっている。わたし達の分の椅子はない。冷遇されたのではなく、この村長の家には余計な家具がないのだ。
魔物に関する情報は、先乗りしていた2人が既に整理しているらしく、カイル達へは2人が説明している。時折、村長や自警団の若い2人に確認を求めたり、意見を聞いたりしながら会合は進んだ。
年配の方の魔法使いが進行役だ。そう言え
ば、領主や商人が金を出してギルドへ依頼した仕事だっけ?
当の村人を無視して話が進んでいるのかも知れない。
魔物に襲われた被害者は、村人よりも商人や旅人が多いらしい。だから最初は野盗や山賊による仕業だと思われていた。しかし、死体の状態が人の手によるモノでは有り得ない。
カマイタチ、鋭く斬り裂かれているのに血が噴き出していない傷。土に飲み込まれて息が詰まった者、高いところから地面に叩きつけられた者。木の幹に引きずり込まれた死体もあったと言う……確かに、人にできる殺し方ではない。
魔物が人を襲うのなら……
ノアールと似た何かなら……できるのかも知れない。
そこまでの説明で、カイル達3人も言葉を失って押し黙ってしまう。おそらく、彼らを一番困惑させているのは「魔物の姿」がわからないことだろう。
この村で、魔物に襲われて逃げ延びた者がいない。だから、魔物の姿を証言できる者が誰もいないのだ。
正体不明のモノを相手にする恐怖が、彼らを黙らせている。
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