第3話 似たモノ

 先乗りしている裏方役2人の仕事の一つに「女にだらしのないカイル」の噂を広めておくのがあるそうだ。

 予め、女達がカイルを避けるように仕向ける工作も大切らしい。

 ふと、思ってしまう。


「ギルドで厄介払いしたい冒険者をラサンティス村へ派遣しているのではないか?」


 そんな疑惑がわたしの脳裏を過ぎる。



 ラサンティスの村で人を襲っている魔物、それもかなり強力な魔物らしい。それを聞きつけてからの、ノアールの足取りが心なしか速くなる。


「気になるの?」


 3人に聞こえない声で、ノアールに訊いてみる。


「もっと近づいてみないとわからないです。特に、わたしの頭の中に響いてくるモノではないかも知れません」


 ニコニコとしている裏でをしているかと思ったが、そうでもなさそうだ。ノアールの「頭の中に響いてくるモノ」が何を言っているのか、わたしにはわからない。まあ、ノアールは美食家らしいので、意外と選り好みがあるのかも知れない。



 村の入り口に近づいたところで、ノアールがわたしの袖を引っ張った。それで、わたし達は3人と別れることにする。

 カイルに口説かれてついて来た……などと思われたら心外だから時間をずらして村に入る、と言うとルイスとオーレンは「その通りだ」と頷いた。

 当のカイルは、荷物の重さにゼイゼイと息を荒らげながらも「せっかく知り合ったんだから、一緒に行こう」と誘ってくる。


「男性には知られたくないもあるんだと察してやれ」


「何だよ、それ?」


「トイレとか、女性には言い出しにくいこともあるだろうが」


「オレは女が糞尿を垂れ流しても気にしないぞ。オレは女の全てを受け入れる寛容な男だ!」


 ルイスとオーレンが小声で話しているのに、カイルは頓珍漢なことを大声で返している。結局、ルイスとオーレンに引きずられて村の中へ入っていった。

 確かにあれなら、女には相手にされなくなるだろうと納得。

 実際のところ、ノアールがトイレに行きたいわけではない。食事もしないのだから、出すモノもないだろう。



 街道から少し細い道に曲がるとラサンティスの村に繋がっている。森の木々の間から、数軒の家の屋根が見えていた。

 ノアールは、その方向をじっと見つめたまま動かない。


「どうかしたの?」


 いつの間にか正午を過ぎて、太陽が真上に来ている。村の方へ向かう馬車が、何台か通り過ぎて行った。ノアールはかなり時間、村の方を黙って眺めていた。


「ここには、妾と似たモノがいます」


「え?」


 わたしは愕然とする。それは、カイル達にとっての死刑宣告ではないか?

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