第8話 助けておくれ

「そう言う玩具おもちゃは隠しといた方がいいよ。の大好物だからね」


「何を言ってやがる! よくも、ザンをりやがったな」


 いや。ったのは、あんただよ……と言っても通じないだろうな。

 一見すると、ただの円い筒だが手元の辺りに四角い護符が差し込まれている。あの護符に刻んだ魔力を炎にして、筒の先から撃ち出すらしい。

 ゴルザーンは、呪具を寝台に寝ている男に向けた。


「大人しくしねえと、此奴こいつに向かってコレをぶっ放すぜ」


 人質……のつもりらしいな。


「その女の物騒な剣を取り上げろ!」


 ジーンが近づいてきた。人質を取って、わたしを黙らせたつもりか、無防備に海賊の剣ヴァイキングソードに手を伸ばす。

 ガッシャーン!

 横なぎに振るった海賊の剣ヴァイキングソードで、ジーンの身体を小屋の扉へ叩き付けた。丸太を組んで荒縄で縛っただけの扉は、縄が千切れてバラバラになる。

 壊れた扉の脇でジーンは痛みに蹲った。


「てめえ、此奴こいつがどうなっても……」


 わたしも男も口封じのために殺すつもりではないか。それがわかっていて、おとなしくするとか本気で思ったのか?

 意外におめでたい連中だ。

 ようやく、人質の意味がないことに気付いたゴルザーンは、わたしの方へ呪具の先端を向けた。

 ……ちぃ。

 海賊の剣ヴァイキングソードで斬り込むには、少し距離がある。その間に炎の玉を撃たれてしまうか。躱せるとは思うが、もしも躱し損なうと火傷をするかも。

 ここは仕方ない、素直にお願いすることにしよう。


「ノアール。助けておくれ」


 扉が壊れたので、雨と風が小屋の中に入ってくる。雨音と吹き荒ぶ風のせいで、わたしが何を言ったかはゴルザーンには聞こえなかっただろう。

 だが、それに応じたノアールの声は小屋の中に大きく響いた。


『はい。すぐに参ります』


「誰だ!」


 突然に聞こえた声に、ゴルザーンは辺りを見渡す。次の瞬間、わたしとゴルザーンの間に黒いローブを羽織ったノアールが現れた。


「ど、どこから来やがった!?」


 ノアールは、ゴルザーンの持つ呪具を見つめる。だが、直ぐに興味を無くしたようだった。ノアールの視線がゴルザーンに向いたと同時に、雨音も風の音も聞こえなくなる。壊れた扉から入っていた雨も風も止まり、小屋の中は静寂に包まれた。

 ノアールが、世界をズラしたのだ。

 ゴルザーンは、呪具をノアールに向けて炎の玉を撃ち出そうとする。しかし、何も起こらなかった。


「何だ! なぜ、炎が出ねえんだ?」


「ここは、わたしがズラした世界です。ここでは何も起こりませんよ」


 ノアールは、ゴルザーンに向かって歩き出す。黒いローブの右袖から、ノアールの鉤爪が覗く。

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