第5話 悪夢……死体の服

 ガタン!!

 木樵小屋の扉が乱暴に開けられて、人が倒れ込んできた。


「!」


 冒険者を名乗る3人組は、警戒して武器に手を掛ける。わたしも海賊の剣ヴァイキングソードに反射的に手を伸ばしていた。

 木樵小屋に倒れ込んできたのは、男のようだった。雨をしのぐマントの類いは羽織っておらず、服はずぶ濡れで、倒れ込んだまま動かない。

 3人組は警戒しているのか、顔を見合わせている。

 男を襲った賊が近くにいるかも知れないし、あるいは倒れたのが演技かも知れない。

 わたしも海賊の剣ヴァイキングソードを握って、扉のところで動かなくなっている男に近づいてみる。男は生きてはいるが意識を失っていた。上質な生地の服は、背中から裂けて赤い血を滲ませている。背中から剣で斬り付けられたのだろう。

 裂けた服に滲んだ血を見た瞬間に、わたしの意識が飛んだ。



 の身体を包む、服を探そうと思った。

 わたしの身体は、集落にいる人とは形が違う。妾の右手は、鷲や鷹のような鉤爪がある。この鉤爪で魔を斬り裂く。左脚には蛇の頭を持つ触手が伸びている。この蛇の牙が魔を噛み砕いて、蛇の口から魔を喰らう。服を手に入れれば、この異形の身体も隠せるはずだ。

 服を手に入れるのは不可能ではない。

 いつもの森から離れて、別の森へ行く。空間をに繋げれば、すぐに移動できる。

 大きな街道に近い森。

 馬車に乗った人を、鉄の武器を持った者たちが襲う。荷物を奪い、命を奪う光景を何度か見てきた。荷物ではなく、人の肉体を貪る者もいる。

 その、街道に近い森を歩き回ってみたら、2つの死体を見つけた。

 ……運がいい、まだ新しい死体だ。

 時間の経った死体は腐敗して、服もベトベトになり厭な臭いが染みついてしまう。でも、これはまだ腐敗していない。

 ……この2つの死体は、異なる形をしてる。

 一方の死体の胸は、柔らかく膨らんでいる。もう一方は固くて平らだ。胸が平らな方には両足の間に突起物があるのに、胸が膨らんでいる方にはない。

 ……ああ、思い出した……これは男と女だ。

 妾が生まれる前のの記憶……は女だった。

 男の死体は鉄の剣で切り裂かれていた。服も切り裂かれて、どす黒くなった血で固まっている。女の死体は首を絞められていた。女の服は力ずくで引き裂かれていて、腰から下を覆う部分はズタズタだ。

 妾の身体は、胸が膨らんでいるし、両足の間の突起物もない。だから、女の身体に違いない。

 女の方が身に付けていた服を貰おうとしたのに、この女の服は纏えない。

 ……せっかく見つけた新しい死体なのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る