第4話 三頭の火竜

 3人の男たちは、自分のことを『三頭の火竜サラマンダー』と名乗った。そう言えばさっき火を操る呪具を使っていた。3人が3人とも魔法使いには見えないが、火の魔法に自信があるのだろう。


「ゼークトの街の冒険者ギルドじゃあ、結構知れた名前なんだぜ」


 リーダーらしい男は、ゴルザーンと名乗った。他の2人より大柄な身体に、筋肉も厚い。幅広で大柄な剣を背中に背負っていたところをみると、相当な力自慢なのだろう。剣の重さなら、わたしの海賊の剣ヴァイキングソードより重そうだ。

 後の2人が持っているのは普通の十字型ロングソードだ。ザンと言う名前の男は、リーダーのゴルザーンと近い年齢で、華奢ではあるが身のこなしに隙がない。力よりも速さで戦うタイプだと思える。もう一人はジーンと呼ばれている若い男で、下っ端らしく雑用を命じられて従っている。魚と鳥を焼いているのもこの男で、他の2人は食べるだけだ。



 3人とも人相は良くない。美醜のことではなく、オーラとでも言うのか……醸し出す雰囲気に卑しさを感じさせる。


「ラサンティスの村で、魔物に襲われる被害が出ているらしくてな。ゼークトの街の冒険者ギルドから俺たちが派遣されたんだ。なんと、領主様から直々の依頼だぞ」


 ゼークトの街で領主と言うならバーガムディ公のことだろう。わたしが仕えていたレイドリク伯の主である。

 ゼークトの街は、この辺りでは大都市だな。行ったことはないから、詳しく街の慣例を知らないのだが……領主自ら「魔物討伐」依頼を冒険者ギルドへ出すのは、確かに珍しい。領主ならば、自分の一存で動かせる兵を持っているのだから冒険者へ依頼する必要はない。

 わたしの脳裏を過ったのは「面倒な連中を、辺境の地へ追いやる」ための方便ではないか、と言う憶測だ。

 ゼークトでは知れた名前……どう言う意味で有名だったのか?



 通常、冒険者としてギルドに登録するなら身元を保証するものが必要だ。

 魔物討伐やら奇怪な場所の探索やらで、武器や道具を持って街々を移動することが多い。冒険者を装って禁制品の密輸や人身売買をする盗賊や闇商人が後を絶たない。


「冒険者になる前は、何をやっていたの?」


 わたしの問いに、ザンとジーンは顔を見合わせる。正当な冒険者なら、身元を証明できる仕事をしていたはずだ。


「バーガムディ公領で、兵役に就いてたのさ」


 リーダーのゴルザーンが答えた。バーガムディ公領では5年の兵役を務めれば市民権が貰えると聞いたことがある。

 なるほど、それが事実なら冒険者にも登録できそうだ。

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