第18話 魔樹
人の頭蓋骨が3体。2体は大人の大きさで、残りの1体は小さい……両親と子供の遺体だろうか。土にまみれてボロボロになっているが衣服は上等な布地のようだ。
「街道で野盗に襲われて、ここで殺されたのか」
「この家族の無念と憎しみが呪いとなって魔を呼び込んだんですね。でも、それなら集まった魔は、この遺体のどれかを依代にするはずなのに……」
不思議そうな顔で、ノアールは魔樹を見上げた。幹から広がる枝には紫の葉が茂り、枝から垂れ下がる紫の蔓は、ノアールの蛇に絡み取られている。
「もしかしたら、身代わりになったのかも知れませんね。家族を離ればなれにしないために」
そう言えば、霊木になるはずだった木だっけ。仮にそうだったとしても、数百年も溜めた魔力を使って暴れられたのでは人の身でたまったものではないな。
「今度は、ノアールの番だよ。魔を喰らい尽くせば、この木を呪いから解放してやれるんだろう?」
わたしの声に返事をする前に、既にノアールの口は耳元まで裂けていた。鋭い牙が並んでいる真っ赤な口は、ガリガリと音をたてて魔樹を噛み砕いている。同じく左脚の蛇も、魔樹の幹に取り付いて貪り食っている。
噛み砕かれた部分からは黒い砂が吹き出す。しばらくすると魔樹は全体が黒い砂になって風に流されてしまった。
正直、わたしは驚いている。霊木になり損なったと言え、数百年分の魔力を貯めた魔樹ではなかったか?
それを、見る間に喰らい尽くしてしまった。
「満腹したかい?」
「満腹って言うのはわかりませんが、まあまあでした」
まあまあ……か。多分、地上の魔を全部食い尽くすまで、本当の満足はないのだろう。
魔樹を食い尽くすと、森の空気が一気に軽くなったように感じた。周辺の草木や葉も、緑色に戻っている。
しかし、やけに尖った殺気が背後から近づいてくる。
「あれは、どう言うことなんだよ。説明して貰おうか」
レイバー達が、追いついて来たか。
手にした剣でノアールを指し示した。鉤爪と蛇の頭の触手が露となったノアールを。
「返答によっては、この場で征伐しないとならないぜ」
腰を落としロングソードを両手で構えるレイバーは、既に戦闘態勢を調えていた。レイバーの後ろにはアデルとサリアがいるが、二人はオロオロしてレイバーを見ている。
「何も見なかったってことでいいじゃないか。騒ぐんなら、死体が3つ増えるだけだよ」
「冒険者が魔物を見つけて、見て見ぬフリができるかよ!」
「じゃあ。冒険者を辞めて貰うか、死体になるかだね」
わたしは、使い慣れた
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