第10話 黒い美人
元冒険者のギルド職員との話を切り上げて帰ろうとしたら、人集りができていた。入口で待たせていたノアールの周りに、冒険者の男どもが集まっている。
艶のある長い黒髪、それと同じ色の黒い眸は
まあ、見かけだけは美人だから仕方ない……と思っていたら野太い罵声が聞こえた。
「この
ノアールには「美人なんだから、ニコニコしてれば大抵は何とかなるよ」と言ってある。その言い付け通りにニコニコ笑っていると、稀にカン違いする輩がいる。
「ヘンテコな服、着やがって!」
あ……これはヤバい。新調した緑の服はお気に入りなのだ。
ノアールのために特別にしつらえた服で、鉤爪の右手を通すために右肩から先はバッサリと切り落とした。その、右手を外から見えないようするために、右半身を覆う同じ色のマントが留めてある。
そのマントで隠れているが、スカート部分も右足を包む部位と左足を包む部位が別れており、それぞれ胴回りのくびれ部で留めてある。
端から見たら奇妙な服かも知れないが、ノアールにとっては初めての自分の服なのだ。
「申し訳ありません。彼女は僕の知り合いなんです」
ノアールの左腕を捻り上げようとした冒険者に、声をかける者が現れた。
……ノアールの知り合い?
フードで顔が見えないが、金髪の若い男だ。見覚えのあるローブで、右肩の辺りに繕った跡がある。
「何だ、アデルの知り合いか? じゃあ、仕方ねえな」
そう言うと、ガラの悪い冒険者は離れて行った。人集りも間もなく消えた。
アデル……ああ、レイバーのパーティにいた魔法使いか。
「ありがとう」
一応、ノアールを助けて貰った形なので礼を言っておく。当のノアールは不服そうだ。お気に入りの服をバカにした者を八つ裂きにでもしたかったのだろう。
去っていく冒険者を追いかける視線は、とても冷たい。
「いいえ。少し態度は悪いけど、彼も冒険者仲間です。彼に怪我をさせたくなかっただけです」
ノアールの殺気を感じたか?
確かに、もう少し遅かったら、あの冒険者の右手くらいは潰れていただろう。
ノアールは人間ではない。だから、人間の倫理や道徳や常識では行動しない。そして、魔物とも違う。神話の、気まぐれな神々のようなモノだ。
「言っとくけど、レージェの弓は持ってないよ」
どうせ、その話になるだろうから先に言っておく。
「でしょうね」
あれ?
レイバーと反応の違いに少し驚く。
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