第9話 年寄りからの頼み
わたしは、仕事を受けた者が他にいた時点で、あの仕事を降りるつもりだった。あの仕事を受けようとしたのは、ノアールの食事のため。
だから、ノアールの正体がバレるかも知れない状況なら、最初からお断りだ。腕試しだの何だのと言い出して、話をややこしくしたのは、レイバー達の方。
「ここ最近、あんたらにやって貰ってる雑用の依頼はな。以前はレイバーのパーティが受けてたんだ。割りに合わない仕事でも、街に為になる仕事はできる限り受けてくれていた。そう言う奴なんだ」
確かに、街の住民にも評判はいいらしい。まあ、名が知れてチヤホヤされたせいで天狗になっていたのだろう。話し合いでの説得よりも、力を誇示したいお年頃だったと思っておく。
危険な仕事に他人を巻き込みたくなかった……か。
年配の元冒険者の言葉が、わたしの心に引っかかる。それなら、どうしてサリアと言う弓使いの女をパーティに加えているのだろう。彼女は、特別に身体を鍛えているわけでもなく、誰にでも使える魔弓を射ているだけだ。
もし、魔弓が使えなくなったら、満足に逃げることもできない。
「サリアって弓使いは、レイバーの何なの?」
「ああ、死んだサリオンの妹か」
わたし自身も剣使いだが、弓使いにも厳しい修練が必要なのはわかる。弦を引くにはそれなりの
そんな素人を、どうしてパーティに入れているのか?
「サリアは、レイバーが好きなんだよ。サリオンが死んだ後『これでレイバーと縁が切れてしまう』と不安になったんだろうな。それからレイバー達に付き纏って、レイバーが根負けしてパーティに加えたんだ」
「ふーん」
「レイバーにしても、勝手に危険なことをされるより、自分の目の届くところに置いた方が安心だったろう」
そうか……と思いつつ、面倒くさい展開になりそうだったから、わたしは話を切り上げて貰うことにした。
「そう言うわけなんだ。この年寄りからも頼む! せめて、奴の話だけでも聞いてやってくれ」
年配の元冒険者にも、頭を下げられてしまった。
「話を聞いたって、どうしようもないよ。レージェの弓を返してくれ……って言われたって、わたし達は持ってないから返しようがないの」
ノアールが喰らってしまった、とは言えない。しかし、持っていないのは真実だ。それを、あのレイバーは頭から信用してくれない。
人に話を聞いて欲しいなら、自分も相手の話を聞け!
……と、わたしは言いたい。
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