第7話 力持ち

 翌日、冒険者ギルドから仕事を紹介された。何でも「この街への案内板が壊れてしまったので、その修理」だそう。

 手間のわりには報酬は低い。しかし、街の住民からは感謝される仕事だそうだ。

 街に来たばかりの新参の冒険者が、住民に名前を憶えて貰うのに都合が良い仕事なので、登録したばかりのわたしに紹介してくれた。

 正直なところ、この街に長居をするつもりはなかったが……あるから受けることにする。



 ノアールと一緒に、街の大工が作った新しい案内板を持って現場に向かう。東側に崖がそびえていて、西側には森が広がっている。崖の上の方からの落石で、木で作られた案内板が潰されていた。

 取り敢えず、細い街道に転がっている大小の岩をどかさないとならない。


「ホントに力持ちだね」


 人間の子供くらいあろうかと言う大岩を、ノアールは軽々と持ち上げている。


「ありがとうございます」


 女性の姿の相手に「力持ち」が褒め言葉になるのかは疑問だが、ノアールにはニコニコしながらお礼を言われてしまった。わたしが持ち上げられるのは、せいぜい人の頭くらいの大きさまで。大きな岩はノアールに運んで貰うことになる。

 一段落したしたところで、ノアールを連れて西側の森に入った。森の奥に行くと綺麗な小川が流れていると聞いてきたのだ。


「ノアール、ここで身体を洗っていくよ」


「はい、わかりました」


 お気に入りの緑の服を脱いで、ノアールは小川の水に入ってゆく。わたしも裸になって、木炭から作った石鹸を持ってノアールの傍に向かう。

 今なら落石があったばかりで街道が使われていない。誰も通らない場所だから、右手の鉤爪と左脚の蛇を見られずに身体を洗える。



 ノアールの黒髪は長いので、乾かすの時間がかかってしまう。案内板を取り替える場所に戻ったのは、そろそろ空が赤くなりかけた頃だった。


「よう。長い休憩だったな」


 レイバーだった。わたし達が身体を洗っている間に、壊れた案内板を引き抜いて、新しい案内板を設置してあった。


「何のつもり?」


「いや。早く仕事が終わったら、その分だけでも話を聞いて欲しくてさ」


 案内板の傍で立ち上がると、図々しく昨日の話の続きがしたいと言い出す。どうやら、わたし達の仕事を手伝いに来たつもりのようだ。


「結構大きな岩が街道を塞いでいたはずだ。どうやってどかしたんだ?」


 レイバーの問いかけは無視して、わたしとノアールは街の方向へ戻る道を歩き出した。


「気が変わってくれるのを待つよ」


 レイバーは、ヘラヘラと笑いながら離れて後を付いてくる。

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