第6話 魔弓
レイバーがいなくなってから、わたし達もすぐ酒場を出る。レイバーと親しいらしい店主は渋い顔をしていた。
薬草採取の時に食べているので、夕食を抜いて宿へ戻ることにした。
ノアールは空腹も感じない。魔を喰らうノアールには食事も不要。人のフリをするために、わたしが「食べろ」と指示した時だけ人間の食べ物を口にする。
部屋に入ると、ノアールは新調した緑の服を丁寧に脱いでベッドの上に畳んで置いた。
ノアールの裸はなかなかに壮絶だ。身体そのものは、人間の女の身体なのだが、右腕は猛禽類のような鉤爪になっている。
この鉤爪にはもう慣れてきたのだが、蛇が巻き付いた左脚には慣れきらない。
ノアールの左脚からは蛇の頭を持つ触手が4本生えており、それが普段は左脚に巻き付いている。ヌメヌメとした鱗と闇に光る八つの眼が宿る左脚は、いつ見ても背筋が凍り付きそうになる。
ノアールは裸の身体を毛布で包むと、部屋の壁を背に床にペタリと座り込む。右脚の膝を立てて両手を添え、そこに顔を埋めて眠りにつくのだ。伸ばした左脚からは蛇が鎌首をもたげて、主であるノアールを護るように眼を光らせる。
ベッドに寝れば良いと勧めるのだが、この姿勢で寝る方が都合が良いらしい。
「あのさ……」
「はい?」
もう眠ったかと思ったが、わたしの問いかけに返事が返って来た。
「レージェの弓だっけ? あの魔弓って、使い手に応じて能力は変わるのかな」
「能力……ですか?」
ノアールは、わたしの問いの意味を解りかねているようだった。
「例えばさ。持ち主が身体を鍛えた弓の達人だと光の矢の威力が上がるとか……そう言うのはあり得るの?」
「ありません。霊木が千年以上の時をかけて貯めた魔力を少しずつ放出するだけです。誰が使っても、同じことしか起こりません」
「それじゃあ、霊木に貯まった魔力を使い果たしたらどうなるの?」
「魔力を失ったら、ただの木片です。すぐに枯れてしまうと思いますよ」
そうか……もう魔弓ではなくなるのか。
「いつまで、魔力は保ったのかな」
「長くは保たなかったでしょう。かなり魔力は薄まっていましたから」
そう言えば、魔弓を喰らった後で不満を漏らしていたっけ。ノアールが喰らわなくても、あれはもうすぐ魔弓ではなくなったんだろうな。
そう考えると、あのレイバーと言う冒険者に対する怒りが、更に込み上げてくる。
あの、弓使いの女は訓練された戦士ではなかった。素人同然の女に、魔弓を持たせて危険な仕事に巻き込んでいるのだ。
その魔弓も、いつ枯れ木になるか知れない代物だ。
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