第5話 レージェの弓

 レージェの弓は、サリアの兄であるサリオンと言う男が作ったそうだ。

 サリオンは呪具の研究家で、レイバーのパーティの裏方的な仕事をやっていた。そのサリオンが、魔法使いのアデルの協力を得て作ったのがレージェの弓だとか。


「ずっと東にレージェの森と呼ばれる場所がある。聖域とされた場所だったのに、魔物が住み着いてしまったからと探索を依頼されたんだ。その森の奥で落雷に砕けて焼け焦げた大木を見つけた」


 その大木が聖域を護っていた霊木で、結界が弱まり魔物に侵入されたわけか。


「魔物を追い払って、焼け残った霊木から切り出した部材で呪具を作り結界を張り直した。そして、その余った部材で作ったのがあの魔弓だ」


 で……魔弓を得たことで、サリオンも裏方から冒険者の一人として戦うようになった。


「サリオンはもともと研究者だった。やっぱり戦うのは無理があったのかも知れない」


 サリオンは、戦いの中で命を落としてしまった。


「サリオンの死後、サリアは兄の意志を継ぐと言ってパーティに加わったんだ。サリオンの形見の魔弓を持って」


 レージェの森の霊木で作った魔弓だから、レージェの弓と呼んでいるそうだ。

 ノアールは、樹齢千年を超える杉の木の芯を使ったと言っていたっけ。



 わざわざ、こんな話をするのは「サリアにとって掛け替えのないもの」であるのを訴えているつもりだろう。

 しかし。


「申し訳ないけど、わたし達はそのレージェの弓は持ってないよ。だから、いくら頭を下げられても何もお返しできないわ」


「おい、金貨20枚じゃ不足だってのか」


 わたし達がレージェの弓を持っていないとは一片たりとも思っていないようだ。


「これまでレージェの弓を売って欲しいと言う奴は結構いたんだ。金貨20枚は、その中でも最高の値段だ。さすがにそれ以上で買い取る奴はいないと思うぜ」


「持ってないんだから、お金の問題ではないんだけどね」


「そっちの魔法使いとやり合って怪我をしたサリアを教会に運び込んだ後、俺は直ぐに戻ってレージェの弓を探したんだ。でも見つからなかった。あんたら以外の誰が持ち去って行けるんだよ!」


 レイバーの両手が、酒や料理の載ったテーブルを叩いた。そして、ようやく酒にも料理にも手が付けられていないことに気付く。


「いや、先に剣で斬りかかったのは俺の方だったな。まず謝罪して、あんたらに無礼を許して貰うのが先だった」


 わたし達が、ここの料理に手を付けないのが自分への不信感だと思い当たったようだ。


「出直してくるよ」


 そう言って酒場を一人で出て行った。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る