第4話 金貨20枚

 レイバーと言う剣使いは、街の住民からの評判はいいらしい。神官助手が、気軽に食事に誘うと、彼も応じた。

 炙った腸詰め肉とチーズを4人の前に取り分けて並べられる。


「サリア様とアデル様の怪我の具合は如何ですか?」


 神官助手は、彼の仲間の怪我を真剣に案じているようだった。サリアは弓使いの名前だったから、アデルが魔法使いの方だろう。


「アデルはもう大丈夫だ。サリアの怪我は、少し時間がかかるかも知れない。3日くらいで腕は動くはずだと、アデルは言っていた」


「アデル様の医療の腕前は、教会の神官長も認めていますからね。サリア様も直ぐに回復なされるでしょう」


 レイバーが、わたしの方を怪訝な目で見る。わたしとノアールが何も言わないのが、気になっているようだ。


「おい、あんた」


「……」


 レイバーは、ノアールに声をかけたが返事はない。ノアールには、わたしがように言い含めておいた。神官助手には、チーズを頬張るのに夢中に見えていたかも知れない。

 チーズの味も、腸詰め肉の味も、わかっていないのだが。



 神官助手を教会に送り届けて報酬を受け取る。それから、冒険者ギルドへ仕事を終えた報告に行くのを、レイバーはずっとついて来た。


「話がある」


 ギルドの建物を出たところで、そう言われたが無視した。わたしには話はない。


「頼むよ。話を聞いてくれ」


 頼む……と言われて仕方なく、わたしはレイバーの方へ振り向いた。



 レイバーは馴染みの酒場へ、わたし達を案内した。いつもは二階の小さな個室で、パーティの3人で打ち合わせをしているそうだ。


「酒でも食い物でも好きに注文してくれ。俺の奢りだ」


 レイバーは、顔なじみらしい店主に酒と料理を適当に注文する。注文の品がテーブルに並んだ頃に、小さなズタ袋を差し出した。


「金貨が20枚入ってる。これでを返してくれ」


「レージェの弓?」


「サリアが使っていた、光の矢を射る呪具じゅぐのことだ」


 ……あ。返してくれ、と言った?

 レイバーによると、サリアと言う弓使いの怪我も、魔法使いの治療のおかげで酷いものにはならなかったそうだ。しかし、あの魔弓を無くしてしまったせいで気落ちが激しいのだと言う。


「あれは、サリアの兄の形見なんだ。サリアにとって、この世界で、あれに代わるものはないんだ。頼む」


 そう言ってレイバーは、頭をテーブルに着くまで下げた。もう、この世界から消えてしまったことを知らずに。

 わたしはため息をつく。ノアールは、わたしの言いつけ通り一言も喋らずニコニコと笑っていた。

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