第5話
「エドワード、待っていた。さぁ乗ってくれ」
「ありがとうございます」
ガラードに言われて馬車に乗ると俺だけしか乗っていなかった。
「あの……お姉様は?」
「ああ、今は友人と話をしているが、姉をあなたに近づけるのは危険だからな。もう一台の馬車を用意しているのでそちらに乗って帰ることになっている。それにレンディ伯爵家にもすでに早馬で帰りが遅くなることを連絡しているので問題ない」
「そう……なのですね」
いつの間に!? と言う感じだが、兄が心配するといけないので連絡をしてくれたのは有難かった。
その後俺たちは、ガラード行きつけの高級紳士服店に行き、俺はガラードに言われるがまま衣装を何着も試着した。
「ん~~このデザインだとエドワードの良さが活かせないな。だが、こちらだと少々遊び心が足りない」
ガラードが『ああでもない、こうでもない』と唸っているが、値段もわからないこの店の中で、もはや俺に出来ることはガラードが満足してくれる物を見つけてくれるようにひたすら着替えるだけだ。
大丈夫だ。俺は姉と妹の買い物にも頻繁に付き合っていたので、買い物が長いというのは経験済みだ。まぁ、彼女たちと行くと、試着するのは彼女たちなのだが……
俺は石のように心を無にしてひたすら服を着替えたのだった。
◇
「ガラード殿、美味しかったです。ごちそうさまでした」
「いや、想定の時間よりも遥かに長い時間付き合わせて悪かった。せめて食事を気に入ってくれてよかった。だが今度はゆっくりと食事のために来よう」
ガラードと一緒に衣装を選んだ後に、小物などを選び、遅くなったからとお高そうな店で夕食まで御馳走になった。
そして家に帰る頃にはすでに陽が落ちていた。
「それではまたな、エドワード。いい夢を」
「今日はありがとうございました。ガラード殿もお気を付けて」
俺がエントランス前で、家まで送ってくれたガラードを見送ると、屋敷の中から侍女が飛び出して来た。
「エドワード様~~~!!」
俺は首を傾けた。家には遅くなるとの連絡をしてくれたと言っていたが……行き違いになってしまったのだろうか?
「……どうした?」
慌てている侍女に向かって俺は声をかけた。
「実は……もう何時間もゲイル侯爵家のソフィア様とクライス伯爵家のアレク様が、エドワード様のおかえりをお待ちしております~~」
「は? え? な、なんで?」
「理由はわかりませんが、『今日中にどうしてもお会いしたい』とおしゃっています!!」
どうして、二人が俺を訪ねて来るんだ!?
俺は予想外の客人に固まっていると侍女が慌てるように言った。
「エドワード様。とにかく、中へ」
「ああ」
俺は侍女に促されて、二人が待つというサロンに向かった。
「エドワード……」
「エドワード様……」
サロンに着くと、悲壮感の漂うアレクとソフィアが俺の名前を呼びながら立ち上がった。
「あの……お二人ともどうされたのですか!?」
俺が二人の前まで行くと、アレクが真剣な顔で言った。
「エドワード。やはり私と一緒にパーティーに出席してもらえないだろうか?」
「はぁ?」
あまりにも斜め上な提案に俺はおかしな声を上げてしまった。
すると、今度は今にも泣き出しそうな顔でソフィアが声を上げた。
「申し訳ございません。私の不注意でエドワードにぶつかったばかりに、エドワード様が……エドワード様が……」
ソフィアはついには泣き出してしまって、俺の方がオロオロとしてしまった。
「ソフィア嬢、とにかくこれをお使い下さい」
俺は咄嗟に胸ポケットからハンカチを差し出すと、ソフィアに差し出した。
「ありがとうございます、ああ、なんてお優しいの!! こんな私にまでこんなに……」
本当に何があった!?
俺はアレクを見ながら言った。
「アレク。一体、どうしたっていうんだ?」
いい加減に今の状況を知りたくて俺が尋ねると、アレクはつらそうに言った。
「エドワードは知らないかもしれないが……学園では、『エドワードがソフィア嬢を執拗なまでに追いかけまわしている』という不名誉な噂が立っている」
ああ、なんだ……そのことか……
俺は平然と答えた。
「知ってるけど……エントランスで聞いたし……ついでにガラード殿が俺を監視するためにパーティーに誘ったっていうのも聞いた」
つい数時間前に俺もその噂を聞いた。
ガラードとの買い物がとても長く感じたのでもう数日前の出来事のように思えるが……
「知っているにもかかわらず、私を責めないのですか!?」
再び泣き出したソフィアをなだめながら言った。
「責めるって……ゲイル様だって、わざとぶつかったわけではないではありませんので……誰でもぶつかることはありますから、責めたりなどしませんよ」
俺は泣き止んで欲しくて優しく言った。すると、ますますソフィアは泣き出してしまった。
「エドワード様ぁ~~なんて、お優しい」
「噂を知ってもなお、それほど冷静に……エドワード。君はなんて器の大きな人物なのだ!!」
ん~~世間では無事に悪役令息になったが、ヒーローとヒロインは俺のことを悪役令息だと思っていないという雰囲気だ。
「お二人のおっしゃることもわかるのですが……」
俺は、今日のガラードとの買い物を思い出して眉を下げながら言った。
「私はアレクと出席しても構わないのですが、ガラード殿はとても真剣に服をお選びになって下さり、その服に合わせた小物や靴までも用意して下さったので……今さらお断りするのは難しいかと……」
ガラードはとても真剣に『待て、やはりエドワードにはこちらが似合う』とか『いや、これも捨てがたい。やはりこっち……いや、ああ~~仕方ない。一度と言わず何度か夜会に出席するぞ!!』と俺の服や小物を選んでくれたのだった。
「はぁ……ガラードはずっと一人で侯爵家を継ぐために勉強したので……エドワード様のような心優しいご友人を持って嬉しくて仕方ないのだと思います」
それは俺もなんとなく感じた。
ガラードの距離感がなんとなくおかしい気がするな~って。でもそうか、ガラードって、友人があまりいないのか……それなら仕方ないな……
ソフィアは大きなため息をついた後にそう言うと、顔を上げて真っすぐと意思の強い目で俺を見ながら言った。
「わかりました!! ガラードは私がなんとかいたします。エドワード様の名誉回復、汚名返上のためにもわたくし何としてもあの頑固で偏屈な弟を説得してみせますわ」
「はぁ」
俺はソフィアの圧に押されて弱い返事しか出来なかったのだった。
その後、俺は侯爵家の馬車に乗り込む二人を見送ったのだった。
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