第3話
次の日、俺はアニメのようにソフィアとの出会いを果たすために、食堂前の庭園にぼんやりと佇んでいた。ただ立っているのもヒマなので俺は学園の庭師がキレイに整えたであろう花を見ていた。
こっちの世界に来るまで花を見ると習慣はなかった。
それなのに俺は、最近時間があると自宅の庭園や学園で花を眺めて和んでいた。
俺って……もしかして花が好きなのか?
自分の好きなものに新たに気付き、今さらなことが少しおかしくて笑っていると……
「きゃあ!!」
「っ!!」
誰かにぶつかって飛ばされ、俺は地面に倒れてしまった。
ぶつかってきた相手を見て俺は息を呑んだ。
ソフィア……可愛い……ああ……これはアニメのエドワードが執着するのもわかるな……
俺はアニメと同じようにソフィアとの出会った。
ちなみのヒロインはドジっ子設定だ。
アニメのエドワードはソフィアのあまりの美しさに一目惚れをしてその場で『私と共に新入生歓迎パーティーに行ってもらえませんか?』とパーティーに誘っていた。
よし、俺も誘おう、あれ……どんな風に誘えばいいんだ?
俺が誘い文句を考えている時だった。
「ソフィア嬢!? 大丈夫ですか!?」
ヒーローのアレクがこちらに向かって走って来た。
アレクは颯爽とソフィアに手を差し出して立たせた。
あ……しまった。アレク、もう来ちゃった……
俺が誘い文句を考えている間に、ヒーローのアレクがこの場に到着したようだった。
アニメではソフィアに『申し訳ございません。すでにアレク様からお誘いを受けておりますので、あなたとは出席することはできません』と断られた直後に、断られる原因となったアレクが姿を見せたためエドワードは頭に血が上り、アレクにケンカを吹っ掛けた。
だが、うっかり誘う前にアレクが登場してしまったのでケンカのしようがない。
「ええ、ありがとうございます。アレク様」
ソフィアはアレクに立たせてもらって嬉しそうにお礼を言っていた。
もはや二人とも俺のことなど眼中にないだろう。
今から誘うというのは、どう考えてもおかしい。
まぁ、次の機会があるか……。
俺はゆるい悪役令息を目指しているので、今回、悪役になるのは見送ることにした。
そうと決まれば……昼食を摂ろう。お腹空いた……二人の世界を壊さないように去ろう……
俺は二人に気付かれないようにこの場を去ることを決めた。
「エドワード、大丈夫か?」
すると信じられないことにヒーローのアレクが俺に手を差し伸べて来た。
まさか、アレクが俺に手を差し伸べてくれるとは思わなかったので驚いてしまった。
エドワードがケンカを仕掛けなければ、アレクはエドワードと敵対しないのか……
俺はふと心に浮かんだことを口に出していた。
「アレクって優しいんだな……」
「そんなことない、普通だ。ほら、手」
アレクが照れたように言って手をさらに俺の前に差し出した。
俺がその手を掴もうとした時だった。
「エドワード、姉がすまなかった。大丈夫か?」
アレクに伸ばした俺の手を別の大きな手が掴んだ。
「ゲイル殿……」
俺が名前を呼ぶと、ガラードは微笑みながら言った。
「ゲイルなど……どうか私のことはガラードと呼んで欲しい」
ガラードはそう言うと、俺の腰にもう片方の手を当てて立たせ、お尻についた草を優しく撫でるように払い落とし、衣服を整えると、俺の腰を抱き寄せ今度はソフィアを見ながら言った。
「姉上が何も考えずに走り出すから、まるで天使のように清らかな姿で花を愛でていたエドワードを突き飛ばしてしまったではないか!!」
ソフィアは、双子の弟のガラードにたしなめられて眉を下げながら言った。
「そのことについては……エドワード様、本当に申し訳ございませんでした」
そしてその後深く頭を下げた。
「おやめ下さい。私こそあなた様をお支えするべきでしたのに……」
俺が急いで頭を上げるように言うと、ソフィアが俺の顔のすぐ近くでにっこりと笑った。
俺とソフィアの目線はほとんど同じだ。つまり、彼女と俺の身長差はほとんどない。だが、アレクもガラードも私よりも頭二つ分ほどは高い。
「姉上、距離が近い。不用意に近付くな。またエドワードを突き飛ばしそうで怖い」
ガラードが腰をさらに抱き寄せて、ソフィアとの距離を取った。
こんな言い方をしているが、やはり自分の姉に俺のような男が近付くのは不快なのだろう。
ガラードは腰を抱き寄せたまま、俺の顔を覗き込んできた。
「エドワード殿。実はあなたを探していたのだ。姉が、こちらのアレク殿と新入生歓迎パーティーに行くそうなので、私にはパートナーがいない。だから私とパーティーに出席して欲しい」
え?
俺……ガラードにパーティーに誘われた??
どうして?
不思議に思って俺は、ガラードを見た。
彼は、侯爵家の跡取りでとんでもなく美形。
そういえば、婚約者もいないモテる男性は、下手に女性をエスコートすると後々勘違いされたりして揉めるという話を聞いたことがある。
もしかして……女性をエスコートするより、俺と一緒に会場に入った方が面倒事が少ないということだろうか?
パートナーが見つけられなかった男女は、友人同士数人でパーティーに参加する。
つまり俺はまだ学園に入って友達も少ない可能性のあるガラードの友人枠?
念のために俺はガラードに尋ねた。
「ガラード殿……大切な人をお誘いした方がよろしいのではないですか?」
「大切な人などいないし、私はエドワードと一緒に参加したい」
やっぱりそうだ。
ガラードの家のゲイル侯爵家は、『自分たちの選んだ相手との結婚』を推奨している。
それに貴族は元々学園で相手を見つける人々も多い。
俺と出席するということは、ガラードにとって学園にいる間にゆっくりと相手を選びたいという願いを実現させるためのカモフラージュになるのかもしれない。
「それでは、俺と一緒に参加してくれますか?」
ガラードが目を大きく開けてながら笑った。
「ああ、よろしく頼む」
こうして俺は、ヒロインの弟のガラードからパーティー出席の誘いを受けたのだった。
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