第2話
ヒロインのソフィアは俺の一つ下の学年なので、まだ学園には通っていない。
しかしヒーローのアレク・クライスは俺と同学年でさらに同じクラスなのですでに学園に通っている。
アレクとは同じ伯爵家で家同士は仲が良くも悪くもない。あまり関わっていないという感じだ。
『エドワード、このノートをクララ教授から預かった』
『ありがとう、アレク』
去年一年で、アレクと話をしたのは以上だ。
つまりお互い知らないわけではないが、それほど親しくもないと言ったところだ。
ちなみにアレクはソフィアと、彼女が入学式の時に迷っていた所を助けたことで出会う。
俺は出会いイベントを知っているので邪魔をすることもできるが、あくまでもゆるい悪役令息になるつもりなのでとても重要な二人の出会いイベントを邪魔するつもりはない。
俺の目的は明確だ。
――俺がソフィアが好きだと社交界で噂が広まり、ソフィアにフラれること。
俺は……女性が怖い。
だから、結婚はしたくないというのが本音だ。
聞けば、貴族の次男というのは一生独身というのも珍しくないらしいので、俺はそうなりたいと思っている。
だから、俺としても二人の出会いは絶対に成功して欲しいイベントなのだ。
◇
そして入学式当日。
ちゃんと出会うかな……あの二人。
俺は、二人の出会いを見届けるために二人が出会う学園の端の庭園に向かった。
大きな木の影に隠れて二人を待っていると、アレクが通りかかったところに、ソフィアも居合わせた。
『あの……ここはどこですか?』
『もしかして、道に迷われましたか?』
『はい……』
『では、教室までお送りいたしましょう』
『ありがとうございます』
木の影に身を潜めていると、無事にアレクとソフィアの出会いイベントが発生した。
ああ、よかった。無事に出会ったのか……。
俺が二人の出会いにほっとしていると、後からソフィアと同じ銀色の髪を揺らして必死で何かを探している男性が走って来た。
「どこに行った!?」
男性は、何かを探してとうとう「あ~~見つからない……だから動くなとあれほど言ったのに!!」と言って座り込んでしまった。
「大丈夫ですか?」
俺は男性に駆け寄ると、男性が俺を見て慌てて声を上げた。
「大丈夫だが……人を……ここに私と同じ銀色の髪に翡翠色の瞳の女性が来なかったか?」
「みえましたよ」
「姉を見かけたのか?」
男性は大きな声を上げた。
姉?
そういえば、ソフィアには双子の弟がいると言っていた。アニメではほとんど姿を見せなかったが、弟がいたおかげで、アレクの家クライス伯爵家に嫁げるという設定だったことを思い出す。
「銀色の髪のご令嬢でしたら、クライス伯爵家のアレクに案内されて教室に向かったと思いますよ」
男性は、安心したように「そうか……」と言って本格的に芝生の上に座り込んだ。
よく見ると、全身汗だくで真新しい制服は汗で濡れていた。髪も顔に張り付いている。どうやら相当走って探したようだった。
「これ、よかったらどうぞ。まだ口を付けていません」
俺は自分用に持っていたハーブ水の入った持ち運び用のガラス瓶を差し出した。水筒だと思ってくれたらいい。
「これはあなたのだろう? いいのか?」
「はい。どうぞ」
俺がガラス瓶を差し出すと、男性はまるでスポーツ飲料水のCMのように喉を鳴らしながら爽やかにボトルの水を飲み干した。そして男性はにこやかな笑顔で言った。
「ありがとう、助かった。走り回ったので喉が乾いていたのだ」
そして俺にガラス瓶を返しながら言葉を続けた。
「私はガラード・ゲイルだ。今度改めて礼をしたい」
やっぱりヒロインの弟か……関わり合いたくないな……
俺はガラス瓶を受け取りながら言った。
「お礼なんていいですよ。それより、お姉様をお迎えに行かなくていいのですか?」
「ああ、そうだな。では」
ガラードを見送ると、彼はすぐに振り帰ってこちらに向かって走ってくると俺の手を取った。
「すまない。君の名前は? 恩人の名前を聞き忘れるところだった」
恩人!? 大袈裟な……
面倒そうなので名乗りたくはないが、相手は侯爵家だ。名前を聞かれれば名乗らないわけにはいかない。
「私は、 エドワード・レンディです」
「エドワード、またな!!」
ガラードは今度こそ爽やかに走って去って行った。
うわ……いきなり後輩に呼び捨てされた……貴族、怖っ!!
元の俺の感覚では先輩をいきなり名前で呼び捨てというのはかなり違和感があるが、こっちの世界は階級が全て。公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家という地位で言うと、侯爵家の地位は貴族で二番目。そして、俺はその下の伯爵家なので侯爵家の彼が、伯爵家の俺を呼び捨ても普通だ。 ちなみに同じ階級同士も呼び捨てが普通だ。
しかも出来る貴族は家の名前をいうだけで俺の家の位までわかる。
俺は、ガラードを見送ると小さく息を吐いた。
「さてと……あの二人は無事に新入生歓迎会のパーティーの約束をしたかな?」
アニメでは、俺(エドワード)は明日あたりにソフィアに出会い一目惚れして、新入生歓迎パーティーに誘う。その場でアレクと約束していることを告げられて、俺とアレクが対立するようになる。
対立まではしなくとも、大勢の前でソフィアをパーティーに誘えば、俺がソフィアが好きだという噂も広まり、縁談も来なくなるだろうから、俺は明日フラれる前提でソフィアをパーティーに誘うことにしたのだった。
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