第34話 言い訳なんて聞かせてどうする


 静まり返る車内で口火を切ったのは鷹田たかだだった。


「言い訳をさせろ」


「今更、聞きたくないです」


黒井くろいが悪い」


 ——なんでここで鷹田さんの友達の黒井さんが出て来るの?


「アイツがそうしろと言った」


 ——どうやら黒井さんが美人秘書や受付嬢と飲み会をしたいと言ったらしい。


 と誤魔化す鷹田。


 本当はやきもちを焼く夢乃ゆめのを見たかっただけ。


 鷹田とお別れしてから勘が良くなった夢乃はすぐにピンと来る。


「黒井さんのせいにするんですか?」


「……」


 押し黙る鷹田の脳裏に、黒井の姿がよみがえる。


 ——約束だよ、鷹田チャン!




 そうだ。


 黒井ほど俺のことを気にかけてくれるヤツはいない。ソイツとの約束を反故ほごにしていいのか?


 その友人を生贄にしようとしたのは置いといて、鷹田は助手席の夢乃に向き合った。


 ビクッと震えた夢乃が窓に張り付くように下がる。


「夢乃」


「な、なんですか?」


「わ、わ、わ……」


「わ?」


「わ、わる……」


 言いにくい。


 鷹田は心から悪いと思っていない謝罪は普通にできる。カッコつけて『すまない』とか『悪いね、迷惑かけたな』とかは言える。


 だが今、ここでしなくてはならないのは、心からの謝罪だ。


「わ、わるる……」


「?」


 鷹田の額から汗が落ちる。何度もセリフを噛んで、いつもの男前もかたなしだ。


「わる、かった」


「……!」


「ごめん、夢乃」


 そこまで言い切ると、鷹田は目を閉じて大きく息を吐いた。


 ——許して欲しい。


 それが今の鷹田の願い。





 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る