第33話 もうちょっと私の気持ちも考えてください


 ——もしかして私、海に沈められちゃう?


 散々鷹田たかだのアピールを無碍むげにして来た夢乃ゆめの復讐しかえしされる心当たりが多すぎる。


 ——でもそれなら私の方が先に復讐してもいいよね。


 夢乃の中で弱気と強気が交互に湧き上がって来た。


 とは言え、どこへ連れて行かれるのかちょっと怖くなって固まっていると、こっちも久しぶりに夢乃を隣に乗せて緊張している鷹田が「どこへ行く?」とか聞いてきた。


「いえ、帰りますってば」


「でもせっかくだからどこか寄らないか?」


「……連れて行きたい場所があるから私を(無理矢理)乗せたんじゃないですか?」


「……」


 夢乃と話をすることだけ考えていた鷹田。行き先など考えていない。




 無計画をなんとか誤魔化して、コーヒーショップのドライブスルーでコーヒーとソイラテを買って少し景色の良い所を走り続ける。景色が変わる度に「わぁ」と喜ぶ夢乃に少しずつ緊張がほぐれていく鷹田。


 夜景の見えるパーキングエリアに車を停めて、指輪の入った小箱を夢乃の膝に放り投げる。


「?」


「……」


 中身を確認して青ざめる夢乃。間違いなく婚約指輪だ。


「こ、これは……」


「つけてやろう」


「遠慮します」


「おい」


「もらう理由がありません」


 夢乃にきっぱりと拒絶されて今にも心折れそうな鷹田だが、表情かおには出さない。


 他の女性ひとを口説くのを見る前だったら喜んで受け取っていただろうな、と寂しく思う夢乃。そっと小箱の蓋を閉じると、乾いたその音がやけに車内に響いた。





 つづく

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