第29話 押しが強い元カレは、私の声が聞きたいそうです


 水曜日。


 あいにく朝から外回りの鷹田たかだ


 黒井くろいと打ち合わせをしながら移動する。


「今日は社に戻るのは遅くなりそうだねー」


 そう言われた鷹田は昼休みに会社へ電話するなぜなら夢乃ゆめのの声が聞きたいからだが、夢乃のスマホにはかけられない。


 着信拒否されているからだ。


 一方、会社では夢乃が彼女宛に回ってきた電話をとる。


『俺だ』


「鷹田さん? どうしました?」


 仕事の話かとメモをとる為にペンを手に取れば『別に』と聞こえてくる。


 ——別にって、何よ。


「用事がないなら切りますね」


『いや、待て』


 夢乃の言葉に鷹田は慌てて話を繋ごうとする。夢乃の声が聞きたいだけの鷹田だが、どうやら夢乃にはお見通しであった。


 プツッと切られた通話に、鷹田は思わず舌打ちする。すかさずそばにいた黒井が「誰?」と聞いて来た。


「別に……」


「あ、そう? まさか夢乃チャンじゃないよね〜。用もないのに電話なんて、ドン引きだよぅ」


 冗談めかしてニコニコッと笑う黒井を、茫然と見つめる鷹田。何かを勘付いて慌てて黒井が確認する。


「——まさか夢乃チャンにかけたの? 着信拒否されてるんじゃなかった?」


「されてる。だから社にかけた」


「——!?」


 ——うわー、俺でもひくわ!


 だが心優しい気遣いの男・黒井は本音を心にしまうと、フォローに入る。


「ま、ま、あれだよね。夢乃チャンも許してくれたのかなぁ?」


「許す?」


 なんのことだ、と真顔の鷹田。


「ほら、女子社員をナンパしてた奴」


「ナンパしてたわけじゃない」


「えーと、夢乃チャンから見たらナンパだよ……?」


「は?」


 ゴトン、と鷹田のスマホが落ちる。


「うわー! 壊れてない?」


「……いや、無事だ」


 無事じゃないのは鷹田のメンタル。


 ——そうだった。夢乃をちょっと嫉妬させたくて。


「……黒井。お前が提案したんだったよな?」


「へ?」


「責任取れ」




 つづく

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