第26話 気がつくとそばにいる元カレです
リビングで毛布にくるまりながら、
——あれは、
全部鷹田のせいである。
夢乃は自分も了承して鷹田の家に来たことを棚に上げている。
——だって、変なことしないって約束したじゃない!
夢乃は怒って眠れなくなってしまった。
「そうよ! なんで私、ここにいるの!?」
帰るために着替えようと、がばっと起き上がる。その瞬間に眠りに落ちた時の鷹田の姿がよぎった。
夢乃に手を握られて、安心したように眠る鷹田——。
下ろした前髪がいつもと違う優しげな印象を与えて来たのを思い出して、夢乃は胸が痛くなる。
——バカバカバカ! 私のバカ! 何を惑わされてるのよ!
結局、絆されて帰るのをやめた夢乃はゴロンと横になった。
——こうなったら料理のことでも考えようっと。明日の朝はレーズンと胡桃のパンにチーズを乗せて焼いて、玉ねぎとベーコンのオムレツを作って……作り置きは何にしようかな……炊き込みご飯と……小松菜と油揚げのおひたしと……。
料理の手順を考えているうちに、夢乃もまた眠りに落ちていった。
朝、夢乃が目覚めると、目の前に鷹田がうずくまっていた。
ソファにうつ伏せにもたれて、夢乃のそばで寝たらしい。
——いつの間に……。
やれやれと思いながらもそんなに嫌じゃない自分に気がつく夢乃——。
買出しに二人で行って、夢乃が料理をする。
2、3日分のおかずを作って冷蔵庫へ。
作りながら二人で味見をすれば、付き合っていた頃を思い出してしまう。
少し楽しいと感じた夢乃は、未練を断ち切るように切り出した。
「それじゃあ帰ります」
「今日も泊まっていかないか?」
「……私だって自分の家を片付けたいです」
「片付けが終わったら戻ってくればいい」
「な、何言ってるんですか」
夢乃が後退りすればそのまま壁際に追い詰める鷹田。夢乃の好みの良い顔が近づいてくる。
——ヤバい。
無言で唇を寄せてくる鷹田を渾身の理性でガードする夢乃。気を許したらまたいつもの繰り返しになる。
——ダメなんだってば。
「わ、私じゃなくてもいいんでしょう?」
「なんでそうなる?」
鷹田は疑問符の浮かんだ表情をする。
——お前じゃなきゃだめに決まってるだろう。
彼にしてみれば夢乃でなければ駄目なのだ。だが、夢乃は鷹田がたくさんの女子社員に声をかけていた理由を知らない。
「浮気者」
「してない」
「見たもん」
「あれは——」
いまさら夢乃のやきもちを焼く所を見たかったから、なんて言えない。言葉に詰まった鷹田の様子を見て、夢乃は「やっぱり」と思い込む。
「とにかく私たち付き合ってないんだから」
「付き合えばいい」
「またあんな思いしたくない!」
自分の想いを振り切るように出て行く夢乃。
そして夢乃の最後の言葉に追いかけられなくなった鷹田は、ただ一人立ち尽くしていた。
つづく
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