第18話 どうしても思い出しちゃう夢乃です


 ——金曜日。


 朝、コーヒーを買いにコンビニ寄った夢乃ゆめのはなんとなく鷹田たかだの分も、とサンドウィッチに手を伸ばした。


 冷たいビニールの包み紙に触れる前に、ふと我に帰る。


 ——なんで私が彼の食事の心配をしなくちゃならないの?


 私は恋人じゃない。


 これ以上気を許したらつけ込まれる。


 夢乃は結局、コーヒーすら買わずにコンビニを出た。




 同じフロアにいるからこんなに悩むことになるのだな、と夢乃は思う。初めは別の仕事をしてて、他のフロアだったから異動で同じ階になった時は素直に嬉しかった。


 それから鷹田が夢乃を見つけて、どんどん距離を詰められ、気がつけばあっという間に恋人同士になっていた。


 周りには内緒にしていたけど、自然とわかるようで、随分とからかわれたり嫌味を言われたりしたものだった。


『えー? 鷹田さんがあの娘と? 嘘でしょ?』


『ふーん、あの娘なんだ?』


『貧乏くさくない?』


『ねえ、鷹田さんと付き合ってんの?』


 それらのねたそねみが小さくなっていったのは鷹田の方が堂々としていたからだ。その態度に夢乃も安心して一緒にいられたのに。


 急に騒がしくなったのは鷹田がいろんな女性に声をかけていると噂になった頃だ。


『ふーん、やっぱりね』


『チャンスじゃない?』


『私も声をかけられたわよ』


 ——あーあ、めんどくさいな。


 思い返すとモヤモヤが溜まる。


 夢乃は時折感じる鷹田からの視線を無視して、キーボードを叩くことに専念した。




 つづく

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