第16話 決してヤキモチなどではありません


 水曜日——。


 少し寝坊した夢乃ゆめのは慌ててお弁当を作る。今日は簡単に前の日に作ったキーマカレーを持って行く。詰めるだけの簡単レシピだ。


 だけど残念ながら朝ごはんを食べる時間がない。


 夢乃は会社近くのコンビニでサンドウィッチとコーヒーを買う。朝会が始まるまでに食べる時間くらいはあるだろう。


 バタバタと席に着くとコーヒーをデスクに置く。サンドウィッチのビニールを剥がそうとしたその時、目の端に鷹田たかだの姿が見えた。


 ——なんかふらついている。


 ちょうど夢乃の後ろを通り過ぎた女子社員たちが鷹田の噂をしているのが耳に入る。


「鷹田さん、体調悪いのかしら?」


「心配よね」


 ——いろんな人に心配されてるじゃん。


 ちょっとだけ、ムッとする。


 別に夢乃の彼氏ではないが、他の人が心配してると気になる。


 ——どうせまた食べてないとか言うんでしょ。


 夢乃は食べようとしていたサンドウィッチとコーヒーを手にすると鷹田のところへ行く。


「ほらこれ。昨日からずっと食べてないんでしょ?」


「夢乃……」


「手作りじゃないけど」


 そう言ったが、鷹田は素直に受け取る。


 ——夢乃が用意してくれた物なら。


 食べられるようである。


 どこか安心したような鷹田の様子に、また夢乃は心がざわつく。


 ——あーあ、朝ごはん食べ損ねちゃった。






 つづく

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