第14話 元カレが何か言いたそうです



 月曜日——。


 ぐったりと疲れた夢乃ゆめのは眠い目をこすりながら出社する。


 土曜日の鷹田たかだの家での出来事を考えすぎて疲れてしまったのだ。


 ——私は鷹田さんのこと、好きじゃない。


 ぶつぶつとそれだけをつぶやきながらエレベーターに乗る。


 ぐうん、と軽い揺れを感じたあとにあっという間に目的の階に到着する。あの日、エレベーターを使っていれば鷹田を拾うこともなかったのに、と後悔する。


 ため息と共に席に着けば、遠くからの視線を感じる。


 ——鷹田さんの席の方だ。


 見たら目が合いそうなので無視する。


 本当に部署が違って良かった。こんな状態で一緒に仕事するなんて考えられない。


 夢乃はミーティングをすますと、デスクトップの画面を開いた。





 ——そして昼休み。


 夢乃はかわいいお弁当箱を開いた。一人暮らしの強い味方、手作り弁当である。


 ふたをぱっと開けば、小さなハンバーグと甘いたまご焼きのつまったお昼ご飯が顔を出す。


「いっただきまーす」


 手を合わせて食べようとしたそのとき——。


 男らしい大きな手が横から伸びて来てたまご焼きを連れ去った。


「え?」


 たまご焼き誘拐犯の顔を見れば、鷹田だ。


「なっ、なにするんですか!」


「……」


 鷹田は答えない。


 というより夢乃のたまご焼きを頬張っている。端正なキリッとした瞳がいつになく満足そうだ。


「勝手に食べないでください」


「……もう食べるものが無くてね」


「は?」


「夢乃が作ったものは全部食べた」


 全部食べたことを褒めて欲しいのか、鷹田はにこっと笑う。


 ——う。顔がいい。


 夢乃の胸が高鳴る。


 ——いやいや、気のせいだ。


 気を取り直して、毅然とした態度で答えなくては。夢乃は背筋を伸ばすと、きりっとした顔で言った。


「無くなったらお店で買えばいいじゃないですか」


 夢乃にぴしゃりと言い切られて、鷹田はたじろぐ。思っていたのと違う答えだったみたいだ。


「そ、そういうことじゃ……」


 何か言おうとする鷹田に背を向けると、夢乃はたまご焼きが無くなったお弁当を食べ始めた。





 つづく

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