第9話 弱ってる元カレにぐらついてしまいます


 しばらくすると鷹田たかだがシャワーを終えて出て来る。ちゃんと部屋着に着替えているので夢乃ゆめのは安心した。


 ——付き合ってる時みたいに腰にバスタオル一枚で出て来たら殴るところだった。


 鷹田は夢乃の姿を確認すると少しだけ表情を柔らかくした。


 ——ななな、なに今の。拾ってやった野良ネコか?


 夢乃は妄想を振り払うと水の入ったコップと例の薬を差し出した。


「さ、ちゃんと飲んでください」


「……夢乃が帰るから嫌だ」


「ほら見て。メイク落としちゃったから外に出ないですよ」


「あ、うん……」


 理解した鷹田は素直に薬を飲む。


 ——うわわ、こんな従順な鷹田さん、初めてかも!


 ちょっと感動。


 ベッドルームへ連れて行くと、その部屋も散らかっている。夢乃はベッドのシーツを伸ばして整えてやる。


「さ、休んでください」


「君は……?」


「リビングでテキトーに寝ますから気にしないでください」


 予防線を張る。


 その気が無いことをアピールしておかないと。


「別れたんだから変な気を起こさないで」


「そ、そんなつもりは——」


 夢乃は慌てる鷹田ににっこり余裕の笑みを返す。


「おやすみなさい」





 夢乃の作り笑いを見て、そうとは気づかず鷹田は安心したように目を閉じた。


 ——夢乃が笑った。


 それだけで満足して眠りに引き込まれる。昨日まで薬を飲んでも眠れなかったのに。


 ——明日こそ……。


 明日こそ謝ろう。こんな情けない姿じゃなくて、普段の俺に戻って謝ろう——。




 一方夢乃は毛布を一枚、鷹田の寝室から持って来てソファに寝ることにした。横になりながら明日のことを考える。


 この散らかった部屋を片付けて、作り置きのご飯を作る。終わったら帰ろう。昔のよしみで世話してるだけなんだから——。




 つづく

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