第8話 成り行きでお泊まりしそうな勢いです



「さっきまで会社で倒れてたくせに」


夢乃ゆめのの手料理で元気になった」


 鷹田たかだはそうウソぶくが、あながち嘘ではない。夢乃がそばにいればなんだかなんでもできるような気がする。


 結局スーパーまでついて来ることになって、二人で買い物をしている。


「冷蔵庫空っぽだったから適当に買いますよ」


「ああ」


「何日食べてないんですか?」


「ずっと……今日まで食欲が無かった」


 水分とゼリー系の物ばかりを口にしていたらしい。そもそも鷹田は手のこんだのもは作らない。


「……少しだけ作り置きしておきますね」


 夢乃がそう言ったのは彼が処方された薬の袋を見たからだ。


 ——心療内科の袋だった。


 何かが原因で病んでるのね。


 自分がふったのが原因とは気づかず、ようは病人に対するお世話のつもりである。


 ——ついでにお高いアイスも買っておこう。


 会計はさすがに鷹田持ちである。




 鷹田のマンションに戻ると、夢乃は彼にシャワーを済ませるように伝えるとその間に自分の食事を済ませる。


 レンチンで簡単に出来るパスタにした。


 手早く食べると、スーパーとは別にコンビニで買った旅行用の洗顔セットでメイクを落とす。


 買う時に急な店員にお泊まりだと思われたかな、と思うと少し悲しくなる。おまけに以前ここに泊まりに来ていたことを思い出してしまった。


 ——あの頃はいつも楽しかったっけ。


 些細なこと一つ一つがドキドキした。すっぴんの夢のを見て、鷹田は優しく頬を撫でながら『かわいい』と言ってくれた。


 ——ダメダメ! もう終わったんだから!


 思い出に蓋をすると、夢乃はリビングに戻った。





 つづく

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