放課後の空き教室にて

海猫

思い出

 これは、私が高校二年生の時に体験した話です。


 中間テストが終わり、文化祭を控えたある日の放課後。


 吹奏楽部に所属していた私は、職員室から練習場所の教室の鍵を借りそこに向かいました。


 うちの校舎は農業系で、職員室や音楽室等、特別教室の集まる棟と学生達の居る普通教室棟、農業系実習室のある棟で構成され一本の渡り廊下で繋がっており、上空から視ると漢字の『王』の形をしています。


 職員室と目的の教室は同じ階の為、渡り廊下の窓からでも目的の教室の中がよく見えます。


 そこにはロングヘアーの女子生徒が明かりも着けずにこちらに背を向けて立っていました。


 時間は放課後、鍵は私が持っています。


 不思議に思いながら教室に着くと女子生徒の姿は無く、代わりに教卓と黒板の間を直径50〜60cm程の玉が七色に光りながら音も無く飛び跳ねていました。


「誰?」


 声をかけるも教室内から返事は無く、


「フフッ」


 と声がしたのは廊下からでした。


 そちらに顔をやると萌木色の肌の女子生徒が。


 何故真っ先に肌の色を書いたかと言うと、おかめ顔と言いますか、センター分けを鼻筋まで下ろしている為顔の上半分が見えなかったからです。


 口元は笑っていましたが……。


 そこで怖くなり、慌てて職員室に駆け込みました。


 近くに居た顧問の先生に今視た事を話すと、十年近く前の今頃、農業系高校の甲子園である農業クラブに代表として選ばれた生徒が交通事故で亡くなっていたそうです。


 亡くなってから数年は命日が近くなると目撃証言があったらしく、顧問の先生は


「ここ二、三年は視てなかったけどまだ出るんだ」


 と仰っていました。


 話を聞いた後その教室でビクビクしながら練習しましたが何も起きませんでした。


 数カ月後に自分の教室に入ろうとした時、後ろの出入り口付近の廊下からしゃがみ込んで引き戸越しに中を覗く女子生徒が居たので、「どうしたの?」


 と声をかけた事があります。


 友人の「おい、どうした」という声に振り向き、


「いやそこにしゃがんでる子が居たから……」


 と指差しながら説明を終えた後には消えていました。


 私の教室は農業クラブの彼女の教室とは渡り廊下を挟んで反対側に在り、農業クラブの時期でもないので彼女ではありません。


 しゃがんでいた子はクラスメイトの誰を探していたのでしょうか?


 誰も死傷する事なく卒業しましたが……。


 既に十五年以上経ち、確かめる術もありませんが不思議な体験でした。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

放課後の空き教室にて 海猫 @manntetsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ