第62話 その頃のA国 4

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#A国 ウィリアム


 「全員。私とライラであのデカサハギンにあたる。他のメンバーは周りの雑魚を頼む」

 

 サハギンは決して雑魚ではない、だが周りを囲うように展開するサハギンは実に四体。

 そいつらを、四人で倒してもらう必要がある。


 「ウィリアム。こっちは大丈夫だ。ちょっと数が多いだけのだしな!」


 ディーンの意気の良い言葉に、他のメンバーも頷く。


 「それじゃあ、作戦は決まりだ。必ず生き残れ!!オープンコンバット!!!」




 「ライラ、私がタンク、君がアタッカーで問題ないな?」


 「ええ。問題ないわよ。やっと、全力が出せそうで、良かったわ!」


 自信にあふれる言葉で、頼もしい限りだ。

 

 「それでは、手早く片付けよう。」


 デカサハギンあらため、サハギンリーダーと呼称したモンスターとの戦いが始まった。


 「まずは、小手調べ。喰らいなさい!一ノ舞!!」


 ライラが早速スキルを使用し速攻を仕掛ける。

 二本の剣がリーダーに向かって突き進む。

 だが、リーダーの持つ三又の銛によって、簡単に払われてしまった。


 「あら。この程度では効かないのね。」

 

 ライラはちょっと嬉しそうだ。


 「ライラ。あまり油断するなよ。次はこちらの番だ。」


 私は、強度変化を自分に掛けなおし、リーダーに向かう。

 近くに来ると、リーダーは思ったよりも大きい。

 私の身長は180cmを超えているが、それよりも頭一つ分は大きいか。


 タンクをやるなら、盾が欲しかった。

 そう思いながら、軍用ナイフで切りかかる。

 

 リーダーは銛で応戦してきて、その力も強く、捌くので精一杯になってしまう。

 だが、私の役目はそれでよい。


 「ライラ!」


 私が叫ぶと、背後に回っていたライラが、剣を振りかぶる。


 「スラッシュ!!」


 ライラのスキルが発動し、鋭い一撃が放たれた。

 その一撃は確かにダメージを与えたようで、リーダーが苦悶の声を上げる。


 「よし。この調子で・・」 


 最後まで言い終わる前に、リーダーの様子が何か変なことに気づく。

 動きを止めたリーダーに不審な点を感じた私は様子をみることにした。


 だが、ライラは好機と見たのか、攻撃を仕掛けていた。


 「待て、ライラ。何か様子がおかしい!」


 「そうね、確かに様子がおかしいわよ。だからこそ、何かが起こる前に仕留める!」


 ライラの理屈は分からなくもない。

 だが、リスクをとるべき場面ではないのだ。

 命は一つしかなく、何度でもやり直せるわけではないのだから。


 だが、ライラは攻撃に入ってしまい、今更止めることはできない。

 せめて、カバーできるように自分の位置を調整する。


 「スラッシュ!!」


 ライラのスキルが当たるかと思われたその時、リーダの体から無数のトゲが形成され、ライラを襲う。


 「ぐっ。こんなもの!」


 ライラは、何とかトゲを避けようとするが、避けきれずにトゲが何本か刺さってしまう。


 「ライラ!ひとまず下がって、ポーションを使え。」


 ライラは痛みに顔をしかめているが、動けはするようで、一度治療をするためポーションを飲みに離脱する。


 ライラが復帰するまで、私はリーダーとタイマンとなる。

 

 「少し、私と遊んでもらおう。」


 私はリーダーに向かいあい、お互いのナイフと銛を打ち合わせる。

 リーチの差では負けているが、生半可の攻撃では私の強度変化を突破することができないため、多少無理して懐に潜り込む。


 「これでどうだ。」

 

 私のナイフが、リーダーの腹部に迫るが、そこでまたトゲが発生し、ナイフを防がれる。

 それどころか、こちらへ攻撃してきたため、私はトゲを掴みながら、後方に下がる。


 「やはり、あのトゲは厄介だな。」


 倒し方を模索していると、ライラが戻ってきた。

 どうやら、ポーションはちゃんと飲んだようで傷は治っている。

 ライラは、どこかばつの悪そうな表情で謝ってきた。


 「ウィリアム。その、ごめんなさい。私が先走ったから貴方にも傷を負わせたわ。」


 神妙なライラは非常に珍しく、もう少し見ていたかったが、そうもいっていられないので、喝をいれる。


 「ライラ。君の判断は、結果的には裏目にでた。だが、問題は仲間とのコミュニケーションをとらなかったことだ。それは理解しているな?」


 ライラは、はっきりと頷いた。

 それを見て、大丈夫そうだと把握したので、リーダーの勝ち方について相談する。


 ライラは、作戦内容に異論はないようで、再度攻撃を仕掛ける算段はついた。

 リーダーは悠然としており、その場から動いていない。


 「それでは、いくぞ。ライラ。」


 私は、タックルするかのようにリーダーに突っ込む。

 リーダーは銛を突き出すが、最早私の体には効かない。

 先ほどの攻防の中で、強度変化を仕掛け済みであり、私の体に触れた瞬間、銛は砕け散る。


 流石のリーダもこれには驚いたようで、一瞬硬直する。

 その隙に、私は再度懐に潜り込む。

 

 当然、トゲも出てくるが、こちらも先ほどの攻防でトゲを掴んだ際に対策済み。

 トゲは私に突き刺さることはなく、脆く崩れ去る。


 そして、障害がなくなった腹部に向けてナイフを突きさし、体に手を触れる。


 「強度変化全開だ。」


 残りのMPをほぼ使用して、リーダーのDEFを下げる。

 

 「準備はできたぞ。ぶちかましてやれ!ライラ!!」


 「言われなくても、わかってるわよ!!スラッシュ、一ノ舞!!」


 ライラも全力のようで、スラッシュを使いつつ、十本近い剣を生成して、一斉攻撃を敢行した。


 流石のリーダーも防御力を下げられた状態では耐えきれなかったようで、全身を剣で貫かれ沈黙した。


 「何とか倒せたか。他のメンバーは?」


 後ろで戦っていたメンバーの方を振り返ると、何とか皆無事だったようで、手を振っている。

 結局、ポーションを全員使用していたが、この困難を乗り越えることができたようだ。


 「いや~。こんなモンスターにも勝てちゃうなんて、俺らは人類の中でも最強なんじゃね?」

 

 ディーンは、サハギンを倒しLV3になっていたため、若干調子に乗っている。

 だが、私やライラもLVが上がり、強くなった実感があるため、あながち間違いでもないかもしれない。


 そう思いながら、全員の無事を確認したところで、キャンプに帰ることにした。

 近くに高台があったため、帰る前にそこに登って周囲を見渡すと、はるか遠くの湖付近で何か土埃が舞っている。


 偵察用の双眼鏡を最大倍率にして辛うじて見える程度だったが、何か巨体のモンスター同士が戦闘しているようだった。


 その戦闘は、先ほどまでの戦いが子供の喧嘩に見えるような光景だった。

 他のメンバーもそれぞれ確認しているが、誰も声を発せない。


 そうして、決着が着き、猿のようなモンスターが勝ったと思ったら、再度何かと戦い始めた。

  

 「クレイジーだ。まさか、人間・・なのか?」


 そう、小さすぎて個人の特定は不可能だが、あのサイズ感は間違いなく人間だろう。

 そして、あの巨体のモンスターは、ボスモンスターの一体と想定される。


 なぜ、戦いになったのかの理由は分からないが、人間が勝てるはずがない。

 そう思っていたが、結果はまさかの人間の勝利だった。


 「信じられない。まるでハリウッド映画だ。」


 私達は、そのままキャンプに戻った。

 あのライラでさえも、サハギンリーダーの時のような元気はなく、静かにしている。


 「俺たち、最強じゃなかったんだな。」


 ディーンが、ぽつりと言った。

 あのボスモンスターには、逆立ちしても勝てそうにないことは全員理解している。

 だから、人類で最強なのはあの人間になることは想像に難くない。


 「だからって、負けを認めるつもりはないわ。」


 ライラが高らかに宣言する。


 「今は勝てないかもしれなけど、いつか必ず勝つわ。あのボスモンスターにも、そしてあの人にもね。」


 そうだな。

 そもそも、あの人間は別の国だが、一応味方だろう。

 万が一敵対する国だったことを敢えて考えずに楽観的に判断する。


 「よし、全員。とりあえず無事で何より。本日の探索は終了として、明日の九時まで待機とする。」


 こうして、三日にわたるサバイバルを我々は誰一人失うことなく、完璧にクリアした。

 だが、あのボスモンスターに勝利した人間の正体を知りたい。

 そして、どうしたら、あの強さを得られるのかを聞いてみたい。


 多少方向性が違うが、私とそしてライラには、あの人間への強い興味が芽生えていた。


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