第6話
「――じゃあ、俺たちぁこれで」
「お話してくれてありがとう! とても楽しかったわ」
「こちらこそですぜ。ひっさしぶりに、美味しいモン食ったし、あんなに笑いやした」
「俺もです!」
「俺も俺も!!」
「私もよ。……それじゃあ、続報待ってるわ」
「えぇ、任せてください! 最初のうちは心配でしょうから三日に一回は報告に来やす!」
「ありがとう! ここまで来るのは大変よね、ドラゴンでも迎えに行かせるわよ?」
「ここの城の位置を道具に記録しても良けりゃあ、それで大丈夫ですぜ。どこからでもこの城に飛べるようになるんで」
「構わないわよ」
「へへへ、ありがてぇ。それじゃ、遠慮なく」
ドラァドはランタンを出すと、それを持って城の入口まで向かい、暫くして戻ってきた。
「できやした! これでこのランタンがあれば、いつでもこの城に戻ってこれやす!」
「……随分と、珍しい道具を持っているのね」
「こう見えて俺ぁ、骨董品を集めるのが趣味でして。市でたまたま見かけたんで買ったんでさぁ。……あ、良かったらセリカ嬢もどうで? そんときゃたまたま二個売っていて、偽物つかまされる確率減らしたかったもんで、両方買ったらなんとふたつとも本物だったんでさ!」
「えぇ!? 凄い強運……」
「ほら、これ」
ドラァドはどこからもうひとつランタンを出した。まったく同じものがふたつ、セリカの目に映っている。
「すごい……。……本当に貰っても良いの? これ珍しいし、売りに出したらかなりの値が付くと思うんだけど……」
「ぶっちゃけると、この城からの脱出手段は、多いに越したことがねぇんで。なにがあるか一寸先の未来だってわかりゃしないんですから。ねぇ、ブルックスの兄貴」
「そうだね。それはドラァドに同意だよ」
「じゃあ、セリカ嬢にコイツを渡しても?」
「あぁ、良いよ」
ドラァドはランタンの片方をセリカに渡した。小ぶりのランタンは、ユラユラと炎をその身に灯している。
「……綺麗」
「俺が行った国や町は、全部登録してありやす。もちろん、さっきこの城も登録させてもらいやした。この国から逃げ出すことも、この城に戻ってくることもできるんで。いざってときには」
「ありがとう!」
「それじゃ、俺たちぁこのへんで。お茶会、ありがとうございやした!」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
「こちらこそ。それじゃあ、お知らせ待っているわ」
「どうかご無事で。ブルックスの兄貴、また来やすぜ」
「あぁ、頼んだよ」
「入り口まで送るわ」
「それなら、僕も」
「良いのよ! 私が行くから。……このランタンの使いかたと登録してある場所をもう少し詳しく聞いておきたくて。ブルックスは、ゆっくりしてて?」
「……そうかい?」
「ブルックスには、このあとも守ってもらうことになるんだもの。休めるときは、少しでも休んでもらいたいの」
「そう言われたら仕方ないな。お言葉に甘えて、少し休むことにするよ」
「えぇ。送ったら、すぐに戻るわ。お城の入口でちょっとお話するだけだし」
「……いってらっしゃい」
「いってくる」
セリカは笑顔でブルックスに手を振ると、ドラァドたちとともに城の入口へと向かった。
「ありがとうドラァド! 良くわかったわ。……それにしても、本当にすごい道具よね。一瞬で登録した場所に飛べるなんて」
「使い方次第じゃ、どうとでも転ぶアイテムなんで。どうか、扱いと盗みには気を付けて」
「もちろんよ! ……十二分に気を付けるわ!」
「それに、飛んだ先で万が一誰か敵対している人間に見つかっても、別の場所に飛べばいいだけですから。そのときは、焦らずに対処してくだせぇ」
「そうするわ。良いことにも悪いことにも使えそうだから、本当によくよく気をつけなくちゃね」
「ブルックスの兄貴もしますし、きっと大丈夫だと!」
「……そう、ブルックス。……ねぇ、ドラァド、ひとつ聞いても良いかしら?」
「へぇ、なんで?」
ドラァドにランタンの使いかたを確認し、行き先についても聞き終わると、セリカは一番聞きたかったことをドラァドに耳打ちした。
「どうして、このランタンを私に渡しても良いか、ブルックスに確認したの?」
「……あぁ、そのことですか。……いえね、ブルックスの兄貴、かなりセリカ嬢にご執心のようでしたんで。俺が勝手にモノあげたら、勝てtに捨てられたり壊されたりしねぇか心配だったもんで」
「そんなに!?」
「いやー、だって、あんなに『セリカのことが大好き』って顔に書いてあったら、聞かない方が無理でしょうよ……」
「も、もしブルックスが『ダメ』って言ったらどうしてたの?」
「そこは一旦ブルックスの兄貴に渡して、使い勝手とか安全性とか、なにより俺が一切セリカ嬢に下心も恋心もないことをわかってもらうために全力を尽くしたはずですぜ」
「……ありがとうドラァド」
「いやいや。セリカ嬢もブルックスの兄貴も初対面だが、まぁセリカ嬢に惚れるブルックスの兄貴の気持ちはわかりますぜ。……あぁ! 今の話は絶対! 内密にお願いしやす!! 俺が殺される!!」
「こ、怖くてとてもじゃないけど言えないわよ……。絶対にいわなから安心して?」
「よろしく頼んます。それじゃ、今度こそ俺たちぁこれで。……あんまり長居して、ブルックスの兄貴に怒られたかねぇんでさぁ」
「えぇ、いろいろとありがとう。それじゃあ、また」
「それじゃあ、また!」
「また来ます!」
「俺も!」
三人はセリカに大きく手を振りながら去っていった。
「……賑やかな三人だったわね。……さて、ブルックスはどうしたものかしら……」
ブルックスから向けられるあの熱烈な思いを、セリカはどう対処して良いのかわかっていなかった。『嬉しくないのか?』と聞かれたら答えはノーだ。嬉しい。ただ、今までこんな風に異性から愛情を向けられたことがなく困惑していた。果たして、ブルックスの気持ちは本物なのか。一時の気の迷いではないのだろうか。話した感じそんなことはなさそうだったが、誰か違う女性と間違えているのではないか。魔王である私を確実に殺すために、油断させる術なのではないか。
「考え始めたらキリがないわね」
まだ死にかけたことはないが、ドラァドの言葉を信じるのならばこれから先は命の危険にどんどん晒されていくのだろう。ある日突然魔王にされ、精神的にはとっくに限界を迎えていた。いくら迎えてくれた魔族たちが優しくとも、自分のことを気にかけてくれようとも、不安と焦り、敵視される恐怖と悲しみは拭えなかったのだ。それがブルックスと出会ったことで、薄まろうとしていた。同じ人間で同じように神託を受け、敵対するはずの人が無条件で味方になってくれる。好きだと言ってくれる。守ると言ってくれる。どれだけ心強いことか。
なんてことを考えながら、ブルックスの元へセリカはゆっくりと戻った。
「遅かったねセリカ。なにかあった?」
「え? あ、ううん。ちょっと考え事しながら戻ってきたの。……彼の言っていたことが本当だったら、とても怖いな……って」
セリカは思わず誤魔化した。嘘を吐くことは得意ではないが、自分が考えていたことを知られるのも、気恥ずかしいと思ったからだ。
「そうなの? てっきり、ドラァドとの話が弾んで、戻って来たくないと思っているのかと思っていたよ」
「そんなまさか……! ドラァドには、ちゃぁんとこのランタンの使いかたを教えてもらったわ」
セリカは笑ってランタンを見せた。
「そう。……一度、使ってみても良いかもね。じゃないと、いざ使おうとしたときに手間取ってもいけないから」
「確かに! じゃあ、一回飛んでみようかしら……?」
「どこか気になる場所はあった?」
「……この国のラスタシア城。神託を受けた時に一度行ったの。ブルックスも行ったでしょ? すごく綺麗だった。……ちょっとだけ、内装をもう一度見たいと思ってたの」
そう言って、セリカはランタンが映し出した【ラスタシア城】という文字に触れた。
「……あっ」
「!?」
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