25話 俺のスキルは逆テイム!?③

 俺はその場に座り込んだ。その背中にリンがのぼってきて、いつもの肩車の格好になる。


「えっ、あれ、何で……?」


「どうしたの?トーマ君、立ち眩み?大丈夫?」


 混乱している俺を心配したのか、母さんが声をかけてくる。


「今、体が……体が勝手に座ったんです」


「体が勝手に?」


「そうなんです!俺の意思とは関係なく、まるで誰かに操られているみたいに!」


 俺の話を聞き、攻撃をしている敵がいるかも、とリンが肩から降りてキョロキョロとあたりを警戒する。しかし、それらしいものは見つからない。


「まさかとは思うんだけど……」


 俺の様子を見て、しばらく考えた後、母さんが口を開いた。


「ちょっと気になることがあるの。トーマ君が指示するんじゃなくて、リンリンがトーマ君に指示してみて」


「俺がリンに、じゃなくて、リンが俺に……ですか?」


「そう、とにかくやってみて!」


 何だかよく分からないが、俺はリンにお願いしてみた。


『分カッタ!ヤッテミルネ』


 そうリンが返事をした途端、俺の体は、俺の意思と関係なく歩き出した。リンを中心に一周して止まる。


『リンノ周リヲ歩イテッテ、念ジタヨ!』


 えっと、つまり、これは……。


「このスキル、どうも「俺がリンを操る」んじゃなくて、「俺がリンに操られる」スキルみたいです……」


 俺の言葉に母さんが、うーん……と悩みながら言った。


「まさかとは思ったけど……それなら、もう一つ確かめたいことがあるの。いいかしら?リンリンが同調をする時に聞こえる声が、何と言っているのか正確に教えて欲しいの」


 リンに説明すると、分かったと言い、その言葉を正確に教えてくれた。

 

 その声は……


『発動者が同調を求めています。発動者を同調させる事に同意しますか?』


 だった。


「同調「する」じゃなく、同調「させる」だったんだ……。つまり、リン「が」同調するんじゃなくて、リン「に」同調する……」


「要するに、お願いして操ってもらうスキルって事ね。本来なら逆なのに。ふふっ、変わったスキル!これじゃ、リンリンがマスター様になっちゃうわね!」


 母さんは笑いをこらえようと口元を抑えている。あまりにへんてこな事実に、俺も困惑を通り越して笑いそうになった。


 従魔を操ると思っていたスキルは、実は全く逆の効果だったのだ!


「従魔に操られるテイマーって……!そんなテイマーいる!?なんの冗談だよ、従魔にお願いして「操ってください!」なんてさ!」


 俺がそう言った途端、母さんがこらえきれずに吹き出してしまう。


「想像したら笑っちゃった。ごめんねトーマ君!」


 多分、リンが俺に命令しているところを思い浮かべたんだろう。母さんは笑ってしまった事を、恥ずかしそうに謝ってくれる。その仕草も可愛らしい。


「それにしても普通の「同調」とあなたの「同調」、なんで効果が逆になっているのかしらね?」


 それは俺も知りたい。なんで俺の同調は効果が主従入れ替わるんだろう?テイムしたのに逆に操られるんなら、「逆テイム」じゃないか。

 

「うーん、関連があるかどうか分からないけど、俺の同調スキルは、ステータスに「固有スキル」っていうのが付いていて……」


「固有スキル!?」


 それを聞いた母さんの顔色がサーッと変わった。え?俺、何かまずい事を言ってしまったのか?


「母さん、顔色が悪いよ、ひょっとして体調が……?」


「ううん、何でもない、何でもないわ」


 母さんは首を横に振るが、その顔はこわばっていて、何でもなさそうそうにはみえない。


「ごめんなさい……。やっぱり急に体調が悪くなったみたい……。悪いけど今日の訓練はここまでにするわ。家に戻って休んできていいかしら……?」


「大丈夫?俺、肩かすよ!やっぱり病み上がりで無理していたんじゃ……」


 付き添おうとすると、母さんは大丈夫だからと俺を制止し、おぼつかない足取りで屋敷に戻って行った。


『エリス、ドウシチャッタノカナ?』


「分からない……」


 だが、俺の同調に「固有スキル」がついていることを伝えた時、顔色が変わった……。この固有スキルには何かあるのだろうか?だが、ここで考えていても答えは出ない。 ひとまず、母さんも心配だし、オスカーにも伝えておいたほうがいいか。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 

 俺とリンは、オスカーのいる訓練場に走った。

  

「えっ!母さんが!?分かった、すぐ戻るよ!」


 訓練をきりあげたオスカーと一緒に急いで屋敷へ戻った。母さんは自室に居たのだが、扉の外から声をかけると、


「大丈夫だけど、夜まで休んでいるわ。少し、疲れたみたい」


 と返事があったものの、部屋から出てくる事はなかった。オスカーに昼間あった出来事を話す。


 ただ固有スキルの事はオスカーには伏せておいた。母さんがあれだけ驚いた事なのだ、人に伝えてはいけなかった事なのかもしれないと思ったからだ。


「そうか……。やっぱり心配をかけまいとして無理していたのかもしれない。でも、疲れたのなら起こさない方がいいし、しばらく様子をみようか?」


「大丈夫ですかね。かなり顔色が悪かったんですが……」


「病気が治って、すぐあんな事になったから母さんも疲労がたまったんだと思う。でも大丈夫、母さんは元冒険者なんだ。きっと明日になったら、また元気な母さんに戻っているよ。トーマ、僕はまだやらなきゃいけない事がある。悪いけど夜まで母さんを頼むよ」


 オスカーは防衛隊の活動や、村の雑事で忙しいらしく、また何かあったらすぐに呼んで、と言って屋敷を出て行った。

 

 リンも固有スキルの事は分からないと言うし、ひょっとして固有スキルってこの世界では禁忌タブー的なものだったのか?もし良い事ならば、母さんは喜んでくれたはずだし。


 何だか急に見捨てられてしまったような、どこか寂しい気持ちになった。


 夕食時にも、母さんは部屋から出てこなかった。部屋をノックしたが返事がなかった。母さんの夕食は残しておいて、いつでも食べられるようにしておく。


『エリス、大丈夫カナ……?』


「俺も心配してる。でも今は待つしかないな……」


 二人だけの食事を終え、部屋に戻った俺たちは、また同調スキルについて話し合った。俺とリンで比べた場合、戦闘センスは明らかにリンの方が上だ。思い切りよく、覇気もある。訓練でも上達しているのが分かる。そういう意味では他力本願でもリンに操ってもらう方が、自分で戦うよりいいかもしれない。


 その場合、ネックになるのは有効範囲だ。これを克服するには……。


 そう考えていた時、部屋の戸がノックされた。


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