24話 俺のスキルは逆テイム!?②

 「困った時は、まず初心に帰って自分の能力を確認すること」

 

 俺が悩んでいるのを見かねて、リンを抱っこした母さんが助言をくれたのは、その日の夕食の後だった。


 ちなみにオスカーは、村の警備当番の日らしく、帰宅は夜遅くになるらしかった。


 確かに、今までリンとの連携と剣の上達の事ばかり考えていたが、俺のスキルや魔法の事を、母さんに聞いてみてもいいかもしれない。


「実は俺、水魔法と回復魔法に適性があるんです。でもやろうとしても上手くいかなくて……」


「水と回復!?すごいじゃない!特に回復魔法は適性のある人が少なくて貴重なのよ。トーマ君にそんな才能があったのね!」


 この世界フォルナに来る時、パナケイアさんは回復魔法が使えるって言ってた。でもどうやったら魔法ができるのか、いまだにさっぱり分からないんだよな。


「魔法は詠唱で発動させるの。詠唱は知っている?」


「詠唱?そうすれば魔法ってすぐ使えるんですか?」


「魔法って、体内の魔力と体外の魔力や魔素を集め、練り上げて魔法に変換、具現化させるもの。その際に行うのが詠唱なの。初歩の詠唱が記載された書物は家にもあるわ。でも最初は魔力を集める練習からね。ただ、魔法は個人の得手、不得手の差が大きいの。戦いに使えるレベルまで鍛えるのは時間がかかると思うわ」


 なるほど詠唱かぁ。もし魔法が使えたら戦闘でも、大きなアドバンテージになるのは確かだ。なんせエリスさんの風魔法で、村にいた盗賊たちを殲滅させたといっても過言ではないし。


 でも話を聞く限り、すぐに強力な魔法をポンポン使えるわけではなさそうだ。少しずつでも教えてもらうしかないか。


「スキルは他に何があるの?」


「えっと、まず『念話』ですね。リンとの会話はこれで。敵に聞かれなくて便利ですよ」


「リンリンとも念話で話しているものね。うらやましいな~。それから?」


「次に『念写』です」


「ねんしゃ?」


「目の前にある風景や人なんかを、瞬時に記憶して絵にできるんですよ」


「瞬時に?本当?トーマ君、そんなスキルを持ってるの?」


「はい。ただそれを記憶しても、人に見せる方法が分からなくて」


「いまいちピンとこないけど、戦闘向きのスキルではなさそうね」


 衛星写真でも撮れれば、地形とか敵の位置が把握できたりするんだろうけど、普通に考えれば確かに戦闘には直接関係はない。でも、この世界にはないスキルだろうから、希少なスキルと言えば希少だし、そのうち出番があるかもしれない。


「それにしてもトーマ君、母さんの知らないうちにこんなにもたくさんのスキルを覚えてたのね!そういう事はちゃんと母さんに報告しなきゃダメよ?」


「は、はい。すいません」


「ふふっ、大丈夫よ。所持スキルはなるべく知られないようにするのが冒険者の鉄則だからね。いい心構えよ。スキルはこれで全部かしら?」


「いえ、あと一つ謎のスキルがあって」


「謎のスキル?」


「うん、同調っていうんですけど、これが何の事やらさっぱりで」


「同調!?それ、テイマーのスキルよ!」


「えっ?本当!?」


「契約した従魔をマスターの意思に同調させて操るスキルなの。それがあれば複数の従魔でも、組織だった戦法が可能になるわ」


 なんと!そんな便利なスキルだったのか!でもトーマに体を乗っ取られた時は、何も起きなかったんだけどな。まあ、練習なしのぶっつけ本番だったから、しょうがないけど。


「このスキルで、リンが危険な突撃をしようとしたら止めることも?」


「可能なはずよ」


「本当ですか!それならリンともっと連携した動きができる!」


 早速試してみたい!リンが俺をかばって大怪我を負ったりするのだけは、御免だからな。


「もう、トーマ君ばっかりずるいわ!私だってリンリンと話をしたり、一緒に戦ったりしたいのにぃ〜!」


 母さんが拗ねたふりをしたあとに、温かな目でリンを見つめる。本当に従魔が好きなんだな。


「私だって言葉を教えて、リンリンと話せるようになってみせるんだから!ね?リンリン」


 そう言われて、リンもニコニコしている。


 母さんはなにやら決意を固めたようだ。でも、もし普通に会話ができたらリンもきっと嬉しいだろう。周りは人間ばかりだから、俺以外にも話せる人がいれば心強い。母さん、頑張って!


「今日はもう遅いし、スキルや魔法は明日見てあげるわ。明日は訓練もないでしょう?」


 明日は村の防衛設備の点検・強化の日でグラントさんがいない。と言うわけで各自、自主訓練をする事になっていた。俺のスキルや魔法を見てもらうには丁度いい。


 それにしてもグラントさんは忙しいな。ヴィランがいなくなって、村長代理と村の防衛隊長を兼務している。オーバ-ワークになっていないだろうか。

 

 俺も何か手伝います、とグラントさんに言うと、まずは戦力になれるように頑張る事、夜はゆっくり休む事、と訓示され家に帰されてしまったのだ。確かに体中あざだらけであちこち痛い事この上ない。


 休むのも仕事のうち……。俺とリンは母さんに「おやすみ」と挨拶をして、寝室に向かった。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 次の日、俺たち三人は庭に集まった。オスカーは訓練場で村の人たちと自主訓練だそうで、早くに屋敷を出ている。


「まず、スキルの有効範囲を確認するわ。同調を発動してみて」


「有効範囲?それって人によって違うんですか?」


「適性や能力、技量、習熟度によって個人差があるの。まずは自分のスキルの現状を知っておく必要があるわ」


 なるほど、同じスキルでもその人、その人で範囲が違うのか〜。


「分かりました。じゃあリン、スキルを発動してみるから、あそこに立ってくれるかい?」


『分カッタ!』


 リンに5m程離れた場所に立っていてもらう。いよいよだ、息を整えリンを見る。


「同調発動!」


 リンを指さし発動を宣言する。


 1秒、2秒…5秒…変化はない。


「……どうかな?リン」


『エ?何モ変ワラナイヨ』


 リンが首をかしげている。


 あれ、失敗?


「うん、ちょっと遠かったみたいね。次はもう少し近く……そう、そのくらいからやってみて」


 どうやら有効範囲には個人差があるようで才能のある人は最初から広い範囲でスキルが使えたりするらしい。とりあえず現状を知るため、リンが反応するまで少しずつ距離を詰めていく。その結果……。


『同調キタヨ、同意スルネ!』


 リンの声。今、俺はリンの目の前に立っている。


 リンとの距離は1m。つまり俺の同調の有効範囲はそれだけしかないという事だ。さらに少しでも離れると同調が切れてしまうようだった。


「大丈夫よ、訓練しだいで有効範囲は広げられるから。さあ、リンリンに指示してみて」


 俺ががっかりしていたのを感じ取ったのか母さんが明るく言う。うん、そうだ。範囲の事はひとまず置いておいて、まずは同調の効果を確かめないとな。


 同調は発動させると従魔が人語が理解できなかったり、念話を使わなくてもマスターの意思で従魔の身体を動かす事ができるようになるらしい。すごいスキルだ。


 さっそくリンに向かって「その場でジャンプ!」と念じる。


 リンは……動かない。あれ?もう一度同じ指示を出す。が、やっぱりリンは動かない。不思議そうに首をかしげている。


「……全然動かせない。母さん、何でかな?」


「私にも分からないわ。同調のスキルは発動しているのに……。どうなっているのかしら?」

 

「何か、条件とかあるのかな?リン、何か変わった感じはない?」


『エ?全然変ワラナイヨ?』


 他にもいろいろ念じてみたり、指示を出してみたりしてみたが、結果は同じ。試行錯誤を続けているうちに三人とも疲れて果ててしまっていた。


「二人とも、こういう事は難しい顔をしてても上手くいかないものよ。こんな時はね……!」


 母さんが持ってきたバスケットから何かを取り出した。


「アニー特製のクッキーよ!今朝おやつにって貰ったの!」


 村長宅で下働きをしていたアニーは、今も村長宅で掃除や食事の手伝いをしている。今までは雀の涙の給金しか与えられていなかったみたいだが、とはいえ急に仕事が無くなっても暮らしていけない。


 そこでグラントさんはアニーや使用人たちに、屋敷や庭、村の公共施設の管理を担ってもらう事にしたのだ。もちろん適正な額の給金を払って。(資金は逃げたヴィランが、持っていけなかった宝石類や金貨だ)


「二人とも、あそこの木陰に座りましょう。お茶も持ってきたのよ」


『ワーイ!』


 確かに現状では答えが見つからない。気分転換もいいかもしれない。

 

 リンが嬉しそうに俺を見た。その時だった。 



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