23話 俺のスキルは逆テイム!?
二人に見送られ部屋に戻るとリンがちょこんとベッドの上に座っていた。
『あ、ミナト、おかえり〜!』
「あれ、まだリン起きてたんだね」
『ウン、ミナトヲ待ッテタノ!』
ベッドからぴょんと降りたリンが俺の隣にやって来る。
「ははは、ありがと。にしてもこの部屋すごい豪華だよなぁ。いったいどこからお金がでてるんだろ?普通の村人はこんな部屋に住めるわけないしなぁ」
リンの頭を撫でつつ抱きかかえる。
『フトン、フカフカ!コンナノ見タコトナイヨ!』
「そうだろうね。俺もぐっすり寝られたし」
リンは俺たちが訓練に行っている間は、母さんと留守番を扉していた。村人たちが訓練に集中できるようにとグラントさんからの指示があったからだ。まあ、なんだかんだ母さんと楽しそうに過ごしていたらしいけど。
それでも時折、窓から訓練している方を見つめていたらしい。やっぱり寂しかったかもしれないな。
「ところで、今日はエリスさんと何をしていたんだい?」
俺はリンに尋ねる。
『エリス、人間ノ言葉教エテクレヨウトシタ。面白カッタヨ!……ソレヨリミナト。剣ノ訓練、ウマクデキナカッタノ?』
「えっ……いや、あれ?聞こえてた?」
『念話デ、ミナトノ声ガ聞コエテタカラ』
「あ~、そういえば念話が発動したままだったか。ははは、そうなんだよ。実は全然できなかったんだよね」
リンに前世では剣なんて触った事がないし、ましてや実戦形式の剣術なんて全く経験がない、と説明した。
リンは話を聞き終わると、俺の目をじっと見つつ、真剣な表情で言った。
『明日カラ、リンモ一緒二行クヨ!訓練ニ、リンモ出ル!』
「え、リンも行きたいのかい?」
「ウン!」
うーん、グラントさんは何て言うかな。足が悪いから足手まといだ、というかもしれない。けど、リンの眼差しは真剣そのものだ。俺がテイマーだからという事にして、何とか訓練に参加できるように頼んでみよう。
「分かった。リンも訓練したいんだね。やっぱり家で留守番しているだけじゃ、寂しいもんな」
俺がそう言うと、リンは違う!と言うように首を振る。
『リンガ、ミナトヲ守ルノ!ダカラ安心シテ!』
「え?お、俺を?」
「ウン!ダッテミナトハ、リンノマスターダモン!ダカラ、リンガ守ッテアゲルノ!」
そう言ってリンは俺の体に抱きつく。そんなリンの頭をなでなでしながら、もし俺に子供がいてお父さんだったら、こんな気持ちなのかなあと考えた。
出会って数日なのに、俺には過ぎた愛情を貰っている気がする。こういうのを無償の愛情っていうんじゃないだろうか。リンのその気持ちが俺には、とてもうれしく思える。
「ははは、リンは本当にかわいいなあ!分かった。それじゃ頼むよ。明日も朝から訓練だから一緒に頑張ろうな!」
そう言うとリンも嬉しそうに何度も頷いた。そうして二人でにっこり笑い合い、ベッドに入った。リンも安心したのか、目をつぶって「オヤスミ、ミナト」と言ってから、すぐに寝息が聞こえてきた。
明日はあの「魔剣木刀(笑)」で頑張ってみよう。使いこなせるようになるといいな。嫉妬するくらいなんだから、きっと今日よりはマシな訓練になるに違いない!
こうして俺は希望に満ちた気持ちで眠りについたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あくる日、リンを訓練に参加させたい、という俺の願いは受け入れられた。リンはゴブリンだが俺の従魔だ。グラントさんとしても戦力は少しでも多い方がいいらしい。俺は魔剣木刀(笑)を引っ提げて、グラントさんに手合わせを願った。ギリギリの戦いの中で、俺と魔剣の能力が開花するのでは、と期待したからだ。
「ほう、その木刀を使うのか。俺が貸してもらった時、何かずっしりと重くておかしなモノだと思っていたんだが、トーマは扱えるのか?」
「はい。母さんの話では、これは魔剣らしいんです。だから今のうちから扱いに慣れておこうかと思って……だからグラントさんとの打ち合いの中で、何かが掴めるかと思ったんです!」
「分かった。遠慮はいらん、どこからでもかかってこい!」
「お願いします!……おりゃー!!」
そして結果は……普通の木刀と同じだった。確かにこの木刀は木剣よりは軽くて持ちやすい。その為か打ち合いに喰らいつけた場面もあったが、経験の差はいかんともしがたい。
結局前日同様、俺は幾度も打ち倒されて土の匂いを嗅ぎながら、うめくことしかできなかった。
「トーマ、打ち合いの時に目をつぶるな!剣の動きを把握しないと話にならん。恐怖心に打ち勝て!」
グラントさんの檄が飛ぶが、訓練用の木剣とはいえ、当たればもやはり痛い。木剣の切先が迫れば恐怖で目をつぶってしまう。そして腰が引ける、の悪循環。全然反撃につながらないのだ。何かが掴めるどころの話じゃなかった。
それでも武器が軽くなっただけ初日より、動けている気がする。気がするだけかもしれないけど。
おい、魔剣木刀。お前は嫉妬するしか能がないのか?こう、雷とか炎とかオーラをまとったりはしないのか?
魔剣の答えはない。つれないやつだ。
痛む体をさすり、休憩がてらリンの訓練を見てみた。
オスカー相手に、リンは子供用の木剣を持ち、体格的に不利でリーチも短いにも関わらず果敢に攻撃していた。だが、相手がいる以上、攻撃だけできるわけじゃない。当然反撃を受ける。足が不自由で機動力に欠けるリンは、とっさのジャンプはできても離脱は難しい。逃げようとしても追いつかれてしまうだろう。
……よし。
「兄さん!リンと二人で一緒に戦ってみてもいいかな?」
「おっ?トーマもかい?いいよ!入っておいでよ!」
俺達二人を相手にオスカーは巧みに木剣で防ぐ。だが防戦一方ではなく、隙があれば即座に攻撃を繰り出してくる。オスカーの剣が俺に迫ると、リンが飛び出してきた。
「あっ、リン!危ない!」
俺に当たるはずだった剣がリンに当たり、地面に転がる。
「リン!大丈夫か!?」
『大丈夫!リン、チャント守ッタデショ!』
リンが土を払いながらにこっと笑う。
「トーマ、リンにこんな戦い方させたらダメだよ。テイマーならもっと工夫した戦い方をしなくちゃ」
「う、すまない……」
俺は二人に謝った。それを見ていたグラントさんが俺達の所にやってくる。
「トーマ。お前はテイマーだと言うが、従魔に的確な指示を出せていない。だからリンが自分で動いてしまっている。それにリンはただやみくもに攻撃してるわけじゃない。お前が危ないと思った時、相手の注意を引きつけようとあえて突っ込んでいる。お前の盾になっているんだ。リンは一度突っ込むと離脱が難しい。今は訓練だからいいが、このままでは将来、不幸な結末を迎えかねない。その事をよく考えて訓練にのぞめ」
と言われてしまった。
この言葉は心に深く刺さる。俺は自分が剣をどう躱(かわ)すかで精一杯になって、リンに全く指示を出すことができなかったのだ。
リンは自分自身を盾にしてでも、俺を守ろうとしてくれる。その気持ちはうれしいけど……でもそんな戦い方、俺は望んでいない。
リンを守りながら、リンと俺がお互いに補い合う。そんな戦い方……。
「どんな戦い方をすればいいのかな……」
答えが見えないまま、この日の訓練は終わったのだった。
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