22話 魔剣木刀?
ヴィラン率いる山賊の襲撃の翌日。俺は防衛隊の訓練に参加していた。
「あたたたたっ!」
別に、ケン〇ロウの真似をしたわけではない。剣の稽古でしこたま打ちすえられた俺の魂の叫びだ。
「ごめんよ、ちょっと強く打ちすぎた。でもトーマ、こんなに弱かったっけ?」
対戦相手のオスカーがすまなそうに言う。今日一日、鋭い太刀筋で俺を指導していたのだが、疲れも見せず涼しげな顔をしていた。
木剣は真剣のように斬られない代わりに、当たると骨に響くように重い衝撃が走る。さらにこっちからの攻撃は簡単にかわされて、その度にカウンターを喰らって悲鳴をあげることになったのだ。とほほ……。
……過去にヴィランが防衛隊を解散して以来、山賊達が村の護衛を担っていたが、それは護衛に名を借りた監視で、村人を守るという本来の機能とは程遠いものだった。
ヴィランと山賊団を村から追い出したのを好機さて来るべき戦いに備えてグラントさんは防衛隊を再結成した。正式名称は「ミサーク防衛隊」。対象は村の男全員だが、主力は若者を中心としたメンバーだ。
防衛隊は賊から村を守る他、村を襲う魔物を対処する事も任務に含まれている。もっともここ数年、魔物が単独で侵入してくる以外は、村には特に脅威と呼べる勢力は来ていない。
それがミサーク村にとって幸運だったのか、不幸だったのかは分からないところがある。もし、山賊達を壊滅させるような魔物が来ていれば、ここまでヴィランの圧政に我慢している事はなかったはずだ。ただその場合は村の存続そのものが危ぶまれていたかもだけど。
それはともかく山賊にしろ、魔物にしろ相手が襲ってくるなら、こっちも武器をとって戦わねばならない、のだが……。
「いいかいトーマ。こう攻撃が来たら、こうかわして、こうなった時は、こう動くんだ……分かるかい?」
あまりにも呑み込みの悪い俺に、オスカーが動作も交えて丁寧に教えてくれているのだが、これがなかなか上手くいかない。どうにも動きについていけないのだ。
いやいや、俺もこんなぴちぴちの体に転生しているから動くことはできると思う。しかしそれはあくまで剣の使い方を習得していて、なおかつきちんと経験を積んで動きをモノにできていれば、の話だ。
俺自身、前世で剣技なんてもちろん習った事はない。学生の頃、習った剣道がせいぜいだ。トーマの記憶から引き出せないかと思ったが、それもあやふやで、どうにもあてにならない。ひょっとしたらトーマ、剣の練習はサボりがちだったのかも。
結局、今日は構えといくつかの型があることぐらいしか理解できなかった。剣聖への道は果てしなく遠いようだ。
それともう一つ困った問題があった。
訓練用の木剣が異様に重く、思ったように使いこなせなかったのだ。最初は俺の木剣だけ重いのかと思って、取り替えてもらったのだが、やはりその木剣も重かった。おかげで周りからは
「おいおい、トーマ。子供でもその木剣を振り回せるんだぞ。大丈夫か?」
「口だけじゃなくて体も鍛えないとな!」
と、言われる始末。時間がたっぷりあるのならじっくり腰を据えて訓練を頑張ろう!と思えるが、山賊達はいつ攻めてくるか分からない。母さんや村人の活躍によって、今回手痛い損害の出た奴らだが、このままひきさがるとは到底思えない。いずれ戦力を立て直してから復讐しに来るのは確実だろう。それまでに俺は間に合うのだろうか……。屋敷へ戻る足取りが重かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その夜、今日の訓練の成果を母さんに報告した。まるで、点数の悪いテストを見せるような気持ちだ。でも正直に言うしかないんだけど。
「でも、不思議なのはトーマが木剣を持つと、ものすごく重そうに見えるんだよね。最初はふざけているのかと思ったくらいだよ」
オスカーがその不思議な現象を説明してくれた。それを興味深く聞いていた母さんは、少し考えた後、
「……うーん、ちょっと気になる事があるの。トーマ君が今まで持った武器のなかで重くなかったものってあるかしら?」
「重くないかぁ……。あ、あった。ありました。俺の木刀、これは全然重くなかったです」
記憶をたどり俺はマジックバッグから木刀を取り出した。これは日本にいた時より軽くて、さすが体が若いと違うな!と思ったもんな。
木刀をオスカーに手渡す。
「えっ!?何これ。
受け取った瞬間、オスカーは驚いた表情をする。まるでいきなり鉄アレイでも渡されたような動きをした。
「え、何言ってるんですか。これは昼間の木剣より軽いですよ。ただの木刀なんですから」
俺が笑いながらオスカーに言うが、母さんはオスカーのもつ木刀を凝視したままだ。そして、しばらく木刀を見つめた後、言った。
「その木刀、纏っている魔力が変わっている……というかおかしいわ。通常の木刀とは明らかに違う」
「魔力?それ、どういう事ですか?」
「おそらくこの木刀は……魔剣よ」
……は?魔剣?
俺とオスカーは思わず顔を見合わせた。
「魔剣?でもこれ木刀……ですよ?」
普通、魔剣ってもっと伝説の……とか
「多分……この木刀が軽く感じるのは、トーマ君がこの木刀に『選ばれた』からだと思うわ。そして他の剣が重く感じたのは、きってトーマ君がこの魔剣に取り憑かれているせいよ。その木刀が意思を持って、他の剣を持たないようにされているからだと思うの。自分を使わざるを得ないようにしている」
「な、なんで選ばれたら他の剣を使えないんですか!?」
「その状態を『剣に魅入られた』状態っていうんだけど、簡単に言うと、剣に嫉妬されているって感じかな?この木刀も街で手に入れたの?」
「た、多分そうだと思います」
前世からの持ち込みです、なんて言えるわけがない。にしても前世ではただの木刀だったはずなんだけど……。
「つまるところ俺は、めんどくさい性格の剣に選ばれたって事ですか……。じゃあリンのナイフも?」
リンのナイフは日本からの持ち込み品だ。これは俺には特別な効果はない。普通の果物ナイフである。ただリンが持つと信じられないような切れ味を発揮する。その事を母さんに説明した。
「リンリンのナイフもきっと似たような感じね。ただ……」
「ただ?」
「ナイフはトーマ君が持っても重くはならなかったんでしょ?ナイフはリンリンを『選んだ』。トーマ君は木刀に『魅入られた』違うのはそこね。あと自分で持ち主を選ぶ剣は、他の魔剣より秀でているって聞いたことがある。きっとただの剣ではないはずよ」
母さんはそう言ってくれるが……魔剣の中でも優れた剣。でも、でもなぁ……。
「これ、木刀ですよ?」
「そうなのよねぇ……」
「木刀に魅入られてもなぁ」
三人で「うーん」と何とも言えない声をだしてしまう。
「ま、まぁ今日はたっぷりしごかれて、トーマも疲れたんじゃない?早く休むといいよ!」
「そうよ、一生懸命やっているんだから、きっと何とかなるわよ!」
二人とも俺に気を使ってくれる、とはいえいくら魔剣といっても木刀だからなぁ。
「今日は訓練で疲れたでしょう?早く休んだほうがいいわ。明日も訓練、頑張ってね」
「トーマがその木刀に気に入られてるならきっと何かができるはずだよ。さっそく明日の訓練からそれを使ってみるといいよ!」
……そうだよな。魔剣なら秘められた何かがあるかもしれないしあれこれ考えるよりまずは実戦あるのみ、だよな!
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