21話 熱狂
襲撃の翌朝。日の出とともに村人達が村長の屋敷前に集まった。昨夜、グラントさんと一緒に行動していた若者が声を上げる。
「皆さん、今日は早朝より集まっていただき感謝します。昨夜の襲撃事件について隊長のグラントより報告があります。隊長!」
村人たちの前にグラントさんが進み出る。村人が集まったのを確認し、報告をはじめた。
「みんな、昨夜は御苦労だった!もう知っていると思うが、昨晩、南の検問所とエリスの家が山賊に襲われた。襲撃してきた人数は二か所合わせて十人。だが、我々は見事、撃退に成功した!」
グラントさんの力強い口調に、村人たちから歓声と拍手がおこった。その声が収まると、再びグラントさんが話し始める。
「今回の襲撃の首謀者は、村長のヴィランとみて間違いない。彼は村長という村をまとめ、村を守るという己の使命を忘れ、あろうことか山賊団と手を結び、今まで村人を苦しめ続けてきた。今回も己の自尊心を守るだけの為に山賊達に検問所を襲わせ、火を放ち、エリスの家を襲うという暴挙にでた。子供と女しか居ない家を、だ!」
村人達は無言で話に耳を傾ける。
「今回、エリスの機転で無事に山賊達を撃退できた。しかし、このような行為は決して許されるものではない。これは重大な犯罪行為である!それがよりによって村の長であるヴィランによって引き起こされたのだ。このような人の道に外れた愚行を行う
「そうだ!そうだ!」
「ヴィランを追い出せ!」
「あんなやつは村長なんかじゃない!」
村人たちが口々に同意し、こぶしを突き上げる。
「本来ならすぐにでもヴィランを縛り上げ、責任を追及するところだが、奴はこの村から逃げだし行方知れずだ。だがおそらく逃げた先はネノ鉱山の山賊達の根城だろう。今回、我々は村から山賊共を追い出すことに成功した。ミサーク村がやっと俺達の手に戻ってきたのだ!」
再び歓声が巻き起こる。それが収まると再びグラントさんが口を開いた。
「しかし、この中にはこう考えるものもいるだろう。「逃げたヴィランが、このまま大人しく引っ込んでいるはずがない。それに山賊だって全滅したわけじゃない。もし、復讐に燃えるヴィランと山賊団が徒党を組んで村に攻めてきたらどうするんだ?」とな」
そう言うと会話を切り、村人たちをゆっくりと見回す。村人たちは興奮が静まり、互いに顔を見合わせる。確かに村から山賊を追い出したと言ってもその全てを壊滅させたわけではない。「どうするんだ!グラント!」という声も飛ぶ。
先程までの高揚感から一変。不安そうになる村人たちを見て、グラントさんは力強く笑みを浮かべた。
「だが、みんな安心して欲しい!我々には今日、大きな大きな戦力が帰ってきたのだ!……それは」
そこで一呼吸いれた。村人たちの期待に満ちた眼差し。そして再び口をひらいた。
「エリスだ!暴風のエリスが魔法と共に復活したのだ!」
村人たちからどよめきと歓声がおこった。
「昨夜の山賊の襲撃もエリスの魔法がなければ、我々は苦戦を強いられたはずだ。だがエリスの風魔法が復活した事で、我々は大きなアドバンテージを得た!エリス、こちらへ!」
グラントさんにうながされて、エリスさんは皆の前に立ち、村人達に語りかける。
「今、グラントから説明がありました。私、エリスの魔法が復活しました!実は私の魔法は五年前のあの日以来、何者かに封じられていました。いえ、おそらくヴィランの手の者によって封じられていたのだと考えられます」
村人たちからやっぱり、そうだったのかと声がもれた。
「今回、私の魔法が戻って来たのは、私の息子トーマが危険をおかして街に行き、キュアポーションを持ち帰ってきてくれたからです。彼の活躍なくして私の魔法は復活はありえませんでした。まずは彼に感謝したいと思います!」
その言葉と共にまわりの村人から声援と拍手を受けた。「頑張ったな!」「一人でよくやった!」と肩をたたかれた。
もちろん俺は街なんて行ってない。俺の頑張りじゃないんだけど、みんなの賞賛に照れ笑いするしかなかった。
「山賊とはいえ、一人一人は技量はそれほど高くなく、おそるるに足りません。アジトに残っている山賊団は、二十人程度と推測されます。そして山賊団のボスであるアンガスは力は強いものの、魔法の知識は乏しいと記憶しています。ですから私の風魔法と皆さんが団結さえすれば、私たちが負けることはありません。皆さん今こそ立ち上がる時が来たのです!この村を、平和で穏やかだったミサーク村を!わたしたちの手で取り戻そうではありませんか!」
エリスさんの演説に村人たちは興奮し、ひときわ大きい歓声と拍手で応えた。
「エリスの言う通り、我々は山賊団に立ち向かう力がある!この戦いで勝利をおさめ、ミサーク村をヴィランと山賊達の支配から取り戻そう!」
グラントさんが叫ぶ。それに応え、おおー!と歓声が上がった。
「やろう!戦おう!平和なミサーク村を取り戻そう!」
「山賊どもにこの村を渡してなるものか!」
自分たちで山賊を追い払えた事、そしてグラントさんやエリスさんの演説が、村人たちを熱狂のうずに巻き込んだ。興奮冷めやらぬ歓声が山あいの村に何度もこだましたのだった。
そして、グラントさんから防衛隊の復活が宣言された。村の男は全員が村を守るための防衛隊に強制加入になる。併せて襲撃に備え、早速、明日から防衛の為の剣の訓練が開始される運びとなり、集会は解散となった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ~、さすがに……疲れたぁ」
集会が解散になった昼過ぎ。俺はベッドに倒れ込んでいた。俺たちの家は山賊の襲撃による惨状がまだそのままだったため、村長の家をしばらく借りる事になった。さすが村長の家のベッドは立派でふかふかだ。
ベッドに身体を横たえると至るところに痛みが走り、さらに疲労感がどっと押し寄せる。
はぁ、昨日の夜は襲撃で完徹して、集会解散までずっと動き回ってたしな。こりゃいくら若い身体でもしんどいわけだよ。てかこの
隣ではリンがスースーと寝息を立てている。知らない人間ばかりだったんだ。リンも大変だっただろうによく頑張ってくれたよ。ありがとなリン。
ヴィランと山賊達の襲撃事件は、俺たちの勝利で幕を下ろした。今回の出来事によって、ヴィラン達の圧政に苦しめられていた村人たちの中に、ヴィラン達を恐れなくても良いという、希望と気概のようなもの生まれた気がする。
希望が見えた事で村人たちが団結し、村を取り戻す一歩を踏み出せたのなら、こんなにうれしい事はない。
俺もミサーク村を取り戻す為に、何かできないかな……?でも、スキルも魔法も全然使いこなせてないんだよな……。それをこれから何とかできないだろうか?せっかく転生したんだ、今度こそ……うん、今度こそ……!
まずは明日の防衛隊の訓練からだな。
そんな事を考えながら、俺はいつしか深い眠りに落ちていた。
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