15話 エリス②
ヴィランの件が無事解決し集まった人たちも各々家路につき、俺達も自宅に入る。グラントさんもさっきのお礼がてら家に招いた。
家は外から見た時は石造りの様だったが、中に入ると石造りと木造がうまく調和した、なかなかにしっかりした造りだ。
「そうだったの……。トーマ君は記憶が……」
家に入り落ち着いた所で、俺が帰ってきた時の状況をオスカーが母さんに説明した。
「ごめんね、トーマ君。母さんのせいでこんな事になってしまって……」
「だ、大丈夫ですよ!俺はこの通り元気だし、薬だって手に入った。それに病気だって治ったんだから!」
「そうだよ、母さん。トーマはちゃんと帰ってきたんだ。記憶だってきっとすぐに戻るよ!」
「そうだぜ、まずはトーマの無事を祝ってやるべきじゃないか?そうだろうエリス」
落ち込む母さんをオスカーやグラントさんが励ましてくれる。
無事……と言っていいのだろうか。俺はあくまでトーマに成りすましているに過ぎない。薬を届けて母さんを助ける、という彼の願いは叶えた。あとは俺の自由だ。
……でも、皆を騙しているという罪悪感はどうしてもぬぐえない。
「トーマ君」
「は、はい」
「トーマ君は母さんの為に街に行って薬を手に入れてきてくれた。それは凄く感謝してる。でも、これだけは約束して。もう、一人で街に行くなんて危険な事はしないで欲しいの」
「母さん。今回は特別だった。トーマだってもう子供じゃないんだ。そのくらいの分別はつくさ。ねぇトーマ?」
「は、はい」
「うん、二人とも約束よ」
そう言うとようやく母さんに笑顔が戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「や~ん!可愛い!この子、トーマ君の従魔なの~!?」
リビングのテーブルに着席し、オスカーがお茶をいれようと席を外している時に、リンを母さんに紹介すると開口一番そう言った。
「ねぇねぇ、この子、なんて名前なの?え、リン?そうなの~!ねぇ、リンリンって呼んでいいかしら?」
リ、リンリンて……。俺と俺に抱っこされたリンを交互に見ながら話しかけてくる。にしてもパナケイアさんから貰った薬の力はすごいな。今まで寝たり起きたりの病人だったとは思えないほど、元気になっている。
「母さんは従魔が好きなんですね。テイマーの知り合いでもいるんですか?」
あまりに熱心な母さんの様子に、お茶を飲みながら聞いてみる。
「昔、従魔のお友達がたくさんいたの。その子たちはあるテイマーの従魔だったんだけど、お互いに喋れはしなかったけど、でも一緒に居るうちに少しずつだけど意思疎通できるようになった。それがすごく嬉しくてね……。本当に素敵なお友達だったのよ。テイマーの人とも信頼しあっていて、あこがれてたのよね……」
「じゃあ、俺とリンがテイマーじゃないのに念話で会話できるのは、あんまりない事なんですか?」
「えっ!?トーマ君、念話で会話できるの!?それってすごいことよ!」
母さんは突然椅子から立ち上がり、テーブル越しに身を乗り出す。近い、近いよ母さん!
「そもそも、人と魔物は言語が全く違うの!最初は簡単な事から教え始めて、少しずつ信頼関係を築いて……長い時間をかけて少しずつ言葉を教えるのよ!ああっ!トーマ君が……そんな素敵な事ができるようになっていただなんて……!うらやましい……」
母さんが熱い眼差しで見てくるので、非常に目のやり場に困る。それにしても、リンと話せるのはすごいスキルだったんだ。異世界でどうやって生きていけばいいのか分からなかったけど、胸を張って威張れるスキルがあるなんて、少し自信になるな。
「この従魔も活躍したな。足が不自由なのによく頑張っていたぜ」
グラントさんがリンをほめてくれる。リンにも念話でその事を教えるとリンもほめられて喜んでいた。そして俺も妙に嬉しい。これが親バカの気持ちなんだろうか?
「グラントさん、大したものもないけど、うちで夕飯を食べていってくださいよ」
オスカーが台所からひょいっと顔を出し、グラントさんを夕飯に誘う。
「いや、このお茶を飲んだら失礼するよ。エリスも病み上がりだ、俺がお邪魔していては休めないだろう?無理はしない方がいい。ヴィランのやつも、このままでは済まさないだろう。俺は万が一に備え、準備をしておく。お前達ももし、何かあったら俺に知らせてくれ。すぐ近くだし、真っ先に助けに向かうからな」
「グータン、今日はうちの息子たちがお世話になったわね。ううん、今日だけじゃないわ。私が倒れてからもその前も、うちの息子たちをとてもよく見てくれて……本当にありがとう」
母さんは丁寧にグラントさんにお礼をする。ん?グータン?
「……エリス、グータンは止めてくれ。とにかく礼には及ばんよ。アゼルさんの息子は俺の息子みたいなものだ。何かあったらいつでも俺を頼ってくれ。まぁ、アゼルさんの足元にもおよばんがな。……さてと、今日は失礼するよ。オスカーもトーマもエリスをしっかり守ってやれよ」
そう言うと、苦笑しながらグラントさんは帰っていった。
グラントさんの姿が見えなくなってから、俺は我慢しきれず吹き出してしまった。あのいかついグラントさんがグータンって……!
「母さん、誰にでもあだ名で呼んだらだめだよ!」
オスカーもとがめるように注意する。
「え~!なんで~?母さんは嫌いな人にはあだ名で呼ばないもの。それくらい、いいじゃない!」
「いやそういう事じゃなくて……まぁいいか。せっかく母さんが元気になったんだし。とにかく夕飯を作るよ!」
「あ、それなら普通のご飯にしてね。もうなんでも食べられるわ!」
「そ、そうなんだ。トーマの薬はすごい効き目だったんだね。うん、分かった」
そう言ってオスカーが夕飯を作ってくると台所にいってしまうと、リンが
『マタ、アノラーメンガ食ベタイナ~。トッテモ美味シカッタンダモン!』
と、念話で伝えてきた。
「今日は、オスカーが作ってくれるよ。どんな夕飯かな?楽しみだね」
会話と同時に念話も発動させ話をする。その方が母さんたちに俺とリンがどんなコミュニケーションをしているか伝わりやすいんじゃないかな。と思ったからだ。
それを見ていた母さんは、心底うらやましそうにしている。
「いいなぁ。母さんも、リンリンとお話がしたい……」
「俺が通訳するから、母さんとも話はできますよ。話しかけてみてください」
「え、本当に?やだ、どきどきしちゃう。えっとね、私はエリスっていうの。はリンリンはとってもかわいいのね。将来美人さんになると思うわ!」
リンに通訳してあげるとリンはうれしそうに照れていた。
「それに、トーマ君の従魔になってくれてありがとう。もしトーマ君が嫌な事したら、私に教えてね。母さんが怒ってあげるからね!」
「それも通訳するんですか?俺、リンのこと大事にしてますってば……」
……一応通訳した。するとリンは楽しげに笑っていた。
「本当に可愛い子ね。ねぇ、リンリンを抱っこしていいかしら?」
俺はリンに聞いてみた。リンはまだちょっと怖がっているみたいだったけど、この人は安心できる人だよと説明する。
『ソレナライイヨ。ミナトガ信頼シテル人ダモンネ』
母さんにOKだと伝える。
母さんはそっと手を伸ばし、優しくリンを抱っこする。胸のところで抱っこしながらゆっくり頭をなでなでした。
「リンリンとトーマ君は、本当に信頼しあっているのね。うらやましいわ……」
俺もリンがうらやましいです。くううう~包まれてぇ~!!
そこへオスカーが台所から顔を出す。
「トーマ、スープはこんな感じでいいかな。味を見てくれる?僕はパンをもらいに行ってくるから、ついでに火も見てて欲しいんだけど」
「あ、分かりました」
リンはどうする?と聞いたらまだ抱っこされていたいみたいだったのでそのままにした。うんうん、仲良きことは美しきかな、だね。
「台所は覚えているかい?この鍋の具材と火加減を見ていて。あまり煮立たせすぎないようにとろ火でじっくり煮込みたいんだ」
「それくらいなら多分大丈夫です」
オスカーに木べらとお玉を手渡される。
「それにしても母さんが従魔好きなのは知っていたけど、まさかトーマまでテイマーになるとはねえ……」
「え、俺はテイマーになったつもりはないんですけど……」
「でもリンを従魔にしたんだから、トーマはもう立派なテイマーだよ」
「やっぱり俺はテイマーになった方がいいんですかね?」
「それはトーマが決めることだよ。でもせっかく会話できるスキルがあるんだから、それを生かせばいいと思うけど。じゃあ、パンをもらってくるね」
そう言うとオスカーは、家を出ていった。
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