11話 ヴィラン②
「……と、これが5年前にあった出来事だ」
グラントさんは話し終えるとため息をついた。
「ヴィランって、控えめに言ってもどうしようもないクズですね」
正直そうとしか言いようがない。よくもそんな自分勝手ができるもんだ!グラントさんがこの事を話すと気が重くなると言うのも分かる。俺も過去の話とはいえヴィランのあまりの馬鹿さ加減に、腹が立ったり呆れたりで、何とも言えない気持ちになった。
しかし、ひっかかる点がある
「グラントさんと残った村の人達で、山賊達を追い出す事はできなかったんですか?」
たとえ戦力が減ったといっても、村の人達が力を合わせれば山賊といえど何とかならなかったんだろうか?
「俺も最初はそう思った。山賊と言ってもそれほど人数がいるわけじゃない。村人が力を合わせれば追い出せるだろうと。しかし警備隊を再結成した後、警備隊員や隊員の家族が、妙な怪我や事故に巻き込まれる事が多くなった。建物の修復をしていると、建材をまとめていた綱が切れたり、町に行けばその帰りに暴漢に襲われたり……」
「ひょっとして奴らの
「俺もそのあたりを調べたんだが、用意周到に計画していたのか、なかなか尻尾を掴ませなかった。そんな事が続いたあと、またヴィランが領主に手回ししたんだろう、不祥事のあった警備隊は解散させ代わって新たな組織を作れとの通達があってな。そして、ヴィランが新しく私兵隊を設立させた。その隊員ってのが……」
「例の山賊達だったと」
「そうだ、よく分かったな」
「そのくらいは想像がつきます。その後の事も……。ゴロツキのような連中が、馬鹿なボンボンのヴィランに「金をやるから俺を守ってくれ」と頼まれて、素直に従うはずはないじゃないですか。最初は従うふりをして村の内部に入り込み、そのうち我が物顔で悪事を働きだす。山賊に支配された村はやがてシロアリが巣くう大木のように食い尽くされるでしょう」
「そうだよ。トーマの言う通りの事がこの村で起きている……。見てごらんよ、この村の様子を」
オスカーが悲しそうにそう言った。
彼に言われて改めて村を見渡す。点在している家は簡素な家が多く、あばらやのような家も見受けられる。手入れがされていない家や、傾きかけている家もある。そういえば村に入ってから新築に近い家は一軒も見ていない。畑に人が見えているがやせ細って栄養状態も悪そうだ。満足に食事もとれていないのかもしれない。そして村全体に活気が感じられない。
「私兵隊の奴らは巡回と称して2、3人でこの村を見回って、村人を監視してやがる。反抗する奴はその家族ごとひどい目にあう。だが、もちろん俺達も何もしていないわけじゃないがな」
「グラントさん、この話は……」
オスカーがそれ以上は話さない方がいいと、グラントさんを制した。聞かれてはまずい話なんだろうか?
「とにかく、トーマが薬を持ってきてくれたから……この薬でまずは母さんに元気になってもらって、話はそれからです。トーマ、よく頑張ったね」
オスカーは嬉しそうに俺の頭をなでた。その仕草、初めてなのになんだか懐かしい気分がする。
「さ、もうすぐ家だよ」
少し行ったところに一軒、他の家より大きな石造りの家が見えた。納屋や物置もある。
早く薬を渡さないと。トーマもそれを望んでいた。もう少しだからな!
その時、リンの念話が俺の頭の中に響いてきた。
『ネェ、ミナト。トーマノ家族ッテ、タクサンイルノ?』
リンは気配探知で周囲を警戒していたらしい。家の中に気配が四つあるという。
「兄さん、家に何人か人がいるみたいですよ?俺達の他にも誰か住んでいるんですか?」
その言葉を聞いたオスカーとグラントさんの顔色がさっと変わった。
「うちは三人家族だよ!まさかヴィランが!?」
「急ぐぞ、オスカー、トーマ!」
俺たちは家に向かって走り出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「グラントさん、もし三人が敵の場合、何とかできますかね?」
入口の扉の横で、特殊部隊よろしく壁に張り付きながら小声で聞く。
「屋内なら問題ない、相手も長剣は振れないからな。俺が敵を抑える。その間に二人はエリスのもとへ行け」
もし、母さんを人質に取られてしまえば、かなり不利な状況になる。俺は戦闘では役に立たないと思う。対人戦なんて全く自信がない。兄さんも不安そうな顔をしていた。どうやら俺たち兄弟は勇ましいアゼルの血が薄かったらしい。……いや、元のトーマは分からないけど。
「よし。二人とも覚悟を決めろ。もし敵なら一気に制圧するぞ」
グラントさんは、なんだか生き生きしているように見える。こういう状況に怯まないのはうらやましいな。
グラントさんが扉の取っ手に手をかける。すると、開けようとした扉が勝手に開いた。
「ん?何だお前ら」
出てきたのは三人の男達。
一人はいかにも金持ちっぽい悪趣味な衣装の中年の男。痩せ気味でマッシュルームカットのいけ好かない感じ。あとの二人はガラの悪そうな顔をして、腰には帯剣をしている。
悪趣味な衣装の男は、俺の顔を見るなり驚いた表情になった。
「ああっ?トーマ、生きていやがったのか!」
普通ならあり得ないような失礼な言葉を吐き捨てるように言った男の顔を見た途端、背筋がゾクゾクと粟立つ感じがした。そして俺の中でトーマの記憶と、激しい怒りの感情が湧き上がってくるのを感じる。
……こいつがヴィランだ!
突然、理性が怒りで吹き飛びそうになる。アイツをぶん殴ってやりたい衝動が体を燃え上がらせる。なんとか抑えようと、こぶしを強く握り締めた。
……くっ静まれ、落ち着くんだトーマ!
俺が心の中のリアル中二病を必死に抑えている横で、オスカーがにこにこと答える。
「ヴィランさん。僕たち、村に戻って来たトーマを迎えに行っていたんです。この様に無事に帰って来たのでほっとしています。ヴィランさんは、母のお見舞いに来て下さったんですか?」
家族に散々嫌がらせをしてきた奴にこんな対応できるなんて、オスカーもなかなかやりおる。
一方、俺はなんとか怒りの感情を押さえ込む事に成功した。しかし、外に出てきてしまったか。そうするとさっきの想定と変わってしまうな。相手は三人。しかも剣を持っている。こっちはグラントさんがいるとはいえ武器なしだ。奴らに剣を使わせないようにするには……。
……よし!ちょっと危険だけどやってみよう。
「兄さん、誰なんです?このオッサン達」
俺の言葉にグラントさんが思わず吹きだした。
「ちょっ、ちょっとトーマ!すみません、ヴィランさん!トーマは今、昨日より以前の記憶を失っていて……」
オスカーが慌ててヴィランに詫びを入れる。
「なにぃ、記憶を失った?ほぉ、記憶をなぁ……」
ヴィランは訝しみながら俺を見る。だがその顔には少し安堵が浮かんでいるように感じられた。
「実はそうなんですよ~。この人が兄さんだって、家に来る途中で教えてもらったんです~」
ヘラヘラ笑いながら、オスカーの方を指さす。俺はあえてヴィラン達を挑発するような態度をとった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます