4話 リン
『ワタシガミナトノ従魔ニナレバ入レル』
「ああ、なるほど。従魔ね……。いや、でも俺、従魔にする方法を知らないし」
『デモ、ミナトハワタシヲ助クレタカラ、従魔ニナラナイト……』
「いやいやいや、そんな事をしなくてもいいよ。リンは従魔じゃなくて仲間なんだからさ?」
『ミナトハテイマーノスキルハ、持ッテナイノ?』
「テイマー?魔物使いとか魔物の調教師の事?いや、持っていないなあ……」
『テイマージャナイノニ、何デワタシノ言葉ガワカルノ?』
「念話だけは分かるんだよ。普通に喋っている言葉は分からないんだけど……」
考えてみれば不思議な話だ。念話だけ話が通じてるなんて。俺の念話は翻訳機でもついてるのだろうか?リンも俺の言葉が分かるみたいだし。
『テイマーナラ「契約」ヤ「強制」ノスキルヲ持ッテルト思ウンダケド。本当ニ持ッテナイノ?』
「ないよ。見てみて「ステータス」!……ほら、見てよ、ないでしょ?」
リンに俺のステータスを開いて見せる。「契約」はともかく「強制」って、そんな怖いスキルもあるんだな。押しの弱い俺には使いこなせなさそうなスキルだ。
『ミ、ミナト!』
リンが慌てている。あ、そうか。字が読めないのか。
「えっと、これはね、水魔法と回復魔法の適性があるんだって。そして、スキルは『念話』でしょ。『念写』と『マジックバッグ』、『同調』があるけど……ほら、テイマーのスキルはないでしょ?」
『ミナト!違ウ!ステータスハ読メルノ。ソコジャナイ!』
ステータスが読めるのか、すごいな……リン。ステータスにも同時翻訳機能でもついてるのだろうか?……あれ、なんだかリンが怒っている。
『他人ニステータスヲ見セテハダメダヨ!自分ノ能力ヲ知ラレルノハ、弱点ヲサラケ出シテイルヨウナモノナノ!』
弱点をさらけ出す?あ、そうなのか。確かに自分の弱点を相手に知られるのは困るよね。それにつけ込む悪い奴がいるかもだし。
「ごめんごめん。でもリンは仲間だからいいでしょ?」
『エ?』
「それに、一緒に行くなら俺の能力を知っておいた方がいいと思うしさ」
そう言うとリンがまじまじとこちらを見た。呆れているのだろうか?
それから何か考え込んだりしていたが、意を決したように顔を上げてこう言った。
『ミナトガスキルヲ持ッテナイノハ分ッタ。ダカラ、ワタシカラ従魔契約ヲ申シ込ムヨ!』
え、魔物側から従魔の申し込みってできるのか。
「でもいいの?俺の従魔になるんだよ?嫌なら無理しなくても……」
『ダッテミナト、心配ダヨ!コンナンジャ……悪イ魔物ヤ人間ニダマサレルヨ!ダカラワタシガツイテテアゲル。契約シヨウ!」
子供のリンに心配されている俺。これ大丈夫なの?まあ、でも……リンが俺の従魔になっても俺が嫌な命令とかしなければいいのか。仲間になる契約だと思えばいい……のかな?
『ソノ前ニ、確認シタイ』
ん、何でしょう?
『ワタシガミナトヲ守ルカラ、ミナトモワタシヲ大事ニシテクレル?』
「もちろんだよ。リン!」
『ウン、アリガトウ……ジャ、始メルネ』
リンは何かつぶやく。フッと俺の目の前にディスプレイのフレームが現れた。そこには
『ゴブリンが従魔契約を求めています。応じますか はい / いいえ』
「はい」を選択する。すると文章が切り替わった。
『条件を設定しますか? はい / いいえ』(魔物からの申し込みの為、テイマー能力は使用しません)と表示されている。
「条件って?これ何かな、リン」
『テイマーガ従魔ヲ従ワセル為ノ条件ダヨ。条件シダイデ、従魔ガ主ヲ攻撃デキナクシタリ、身代ワリニスル事モデキル。命令ニ逆ラエナイヨウニナル』
リンは悲しそうに言う。確かに提示される条件しだいでは酷い境遇になるからな。
「ふーん。じゃこれはいらないよね」
『エ?』
驚いたようなリンの声。
『ドウシテ?ワタシガ、ミナトノ言ウ事聞カナイデ、噛ムカモシレナイヨ?』
「だって、それじゃあ奴隷みたいじゃないか。それは嫌なんだよ。リンは仲間なんだ。これは従魔契約じゃない、結界に仲間を入れるための契約だ。だから条件なんていらないさ」
条件の設定「いいえ」を選択する。文章が切り替わった。
「それにさ、大事にするって約束しただろう?」
『条件は設定しません。よろしいですか? はい / いいえ』
迷うことなく「はい」を選択する。押し終わるとフレームがフッと消えた。
「これで終了かな?ね、リン……リン?」
俺が振り向くと……あれ、リンが泣いてる?
「どうしたんだいリン?さっきの怪我が治っていないところでもあった?」
オロオロしながらリンに聞く。
『違ウ……ミナトガワタシヲ本当ニ仲間ダト思ッテクレテルンダト思ッタラ……嬉シクテ……』
リンが涙をぬぐいながら言う。
『
きっと緊張の糸が切れたんだろうな。俺は隣に座って、リンの話を聞いていた。
一緒に行かないかと言われた時、従魔になれと言う事かと思ったけれど、仲間がいると嬉しいからと言ってくれて、リンの足が不自由な事も気にせず肩車までしてくれた事。
ミナトの言葉は嘘がなかったと思った事。
自分のスキルを見せて、何の警戒心もないところを逆に心配した事。
そして契約の時に、何の制約もつけずに仲間として見てくれた事。
まるで、お姉ちゃんみたい。何の得もないのに優しくしてくれるのは……そう思ったら何だか安心して泣けてきてしまった。と説明してくれた。
ひとしきり泣いた後、吹っ切れたのかリンはにっこり笑って言った。
『モウ大丈夫ダヨ、マスター』
「大丈夫なら良かった、って……。ちょっと待って、マスターって俺の事?」
『ウン、ミナトハワタシノ契約主ダカラ、マスターダヨ!』
マスター……マスターかぁ。でも気恥ずかしいし、何より……。俺はリンにはっきりと言った。
「リンと契約はしたけど、俺はリンの主人じゃない。わかるかい?俺とリンは仲間だ。だから俺の事はミナトって呼んでほしいんだ」
『マスターデ、イイジャナイ?』
「でも俺はマスターなんてガラじゃないんだよ〜。」
『エ〜、ナンデ〜!』
「いいから〜!ミナトって呼んでよリン~。マスターなんて恥ずかしいんだよ~!」
俺は心の底からお願いした。これではどっちがマスターかわからないな。
リンは不思議そうに首をかしげていたが、とりあえず俺の願いをきいてくれた。
さて、色々あったがやっとリンも結界の中に入って休めるし、食事もできる。夕暮れも迫っているし早く野営の支度をしないといけない。
でもその前に俺にはやりたい事があった。
「リンを洗おう」
今のリンは泥まみれのままだ。このまま放って置くのはあまりにも忍びない。俺も一日山歩きだの、ゴブリンとの闘いだのですっかり汚れてしまったし、このまま食事をするのは気が進まない。やはり、体をさっぱりさせてからの方がいい。
幸いここの結界のすぐ近くに小川が流れていて水のせせらぎも聞こえる。なので水には困らない。
お湯を作るためには、水を火にかけなければいけないが、俺のマジックバッグには、それを可能にする為の物が入っているのだ。
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