5-9 一年C組サイド
◆◇◆
お昼休みの時間に桔梗院 エリカが、日和 桜のいる一年A組に新しい勝負を提案しに行った同じ時刻の事。場所は一年C組の教室。
ガンバルンジャーのガンバレッドこと、赤崎 焔は同じ組織に所属しているガンバイエローの萌黄 彰の元へ訪れて、昼食を取りながらお互いの近況を語り合っていた。
とは言っても、一方的に彰が日和 桜の事について焔に聞いているだけなのであった。
「それで焔、最近日和さんとはどうなの? 順調に仲良く出来てるの?」
「うるせえよ彰。基本的には涼芽の方が付きっ切りだから、俺の出番はあんまり無いっての」
彰からの問いに素っ気なく返す焔。しかし、それでは彰は納得は出来ず、周りで話を聞いていたC組の生徒達も彰を援護するように、二人の会話に加わる。
「えぇ~? 赤崎君、出番は無いって言うけど、この前の部活勧誘の時に上級生達から迷惑行為を受けてる日和さんを庇って助けたんでしょ? それで何も無いなんて言わせないよ~?」
「そうだぜ赤崎、何ちゃっかりとイケメンムーブしてんのさ。それに怪我した右手を日和さんに治して貰ったって彰からも聞いてんだぜこっちは」
C組でもその手の話題には興味津々の生徒達が、焔に問い詰める。女子達は焔が桜を助けた状況に興味を持っており、男子達は桜が自身の能力を使用して焔の手を治した事を羨ましがっていた。
「おい、何周りに言いふらしてんだよ」
「だって! 完全に役得じゃないか! 涼芽だって羨ましがってたし、焔だけズルいよ!」
「うるせぇ」
彰が思わず席から立ち上がる勢いで大声を出し、焔に詰め寄る。すかさず焔も席から立ち上がり、桜に治療して貰い完全に治っている右手でゴスリと彰の頭をチョップする。
痛みで頭を押さえながら悶える彰を見て、周囲の男子達のテンションを落とした所で、焔は再び席に座る。
「全く、お前らみたいなのがいるせいで、涼芽の奴があの後すっかり過保護モードに入って日和さんを無理矢理クラス委員長にさせたんだぞ」
そうなったのは、元はと言えば焔が右手を怪我する位の事をしたからじゃないかと、恨めし気な顔で焔を睨む彰。同様に男子達も羨ましい事には変わりは無いので焔を見ている。
そんな男子達を見て、焔の言葉を聞いて入学式でのある場面を思い出す女子達。
「でも、過保護と言っても、入学式の時に日和さんと桃瀬さん見たさにA組の教室に群がる男子達から日和さんを庇ったのは桃瀬さんだよね?」
「そうじゃん、それでその後にお姫様扱いからの騎士宣言でしょ? 初日からそれなら過保護になるのは当たり前だよね~」
一部の女子が涼芽のカッコ良さに熱が入った反応をし、あの時廊下にいた一部の男子がその時を思い出してたじろいでしまう。
焔もその日の事を思い出し、彰の顔を見ながら、こいつの元には行かずにA組に留まっていたらと、軽く後悔している。
その後、他愛の無い話を挟みながら、二人の護衛の話になる。
「それにしてもよ、赤崎の奴は右手の件もだけど、今は桃瀬さんと一緒に日和さんの登下校に付き合ってるんだろ?」
「何でお前だけそんなに役得なんだよー? 正しく両手に花状態じゃねえか! これで羨ましがらない男なんて男じゃねえよ!」
男子達は焔の今の状況に憤る。女子達は焔の顔を見ながら、まあ焔ならそれ位の事は良いかと、彼が二人と一緒にいる事には不満は無い。
確かに涼芽の苗字には桃という単語が含まれているし、文字通り桜の名前は花の名前である。そんな二人を容姿も含めて両手に花と形容するのは、自然とも言える。
だがしかし、桜が実は男だったという事実は、幼少期に同じ孤児院にいた焔を含めてこの学校の全員が知らない事であった。
同時に涼芽の内面を詳しく知る焔は、男子達に酷く呆れてしまっている。
「日和さんは確かに花って言っても過言では無いがな……けど涼芽の奴はそんな大層な物かよ」
内心では初恋の相手である桜に今も尚惚れている焔は、ちゃっかりと桜の事はその通りだと褒めつつも、涼芽についてはぞんざいな評価を下す。
「何言ってんだ赤崎! 桃瀬さんが花じゃないってふざけた事を言うな!」
「そうよっ! 桃瀬さんは私達にも親切だし、強くてカッコ良いけどちゃんと美人じゃない!」
当然その評価には納得はいかない男子女子含めた一斉から焔は詰められるが、涼芽は活発過ぎて花のような御淑やかさには欠けるなと彰も同様に思ってはいるので、この光景を見て苦笑いするしかなかった。
周りからの反論を大人しく受け止めた焔は、花と言う単語で今はこの教室にはいないある人物を思い出す。
「……花と言えば、C組の花の桔梗院はどうしたんだ彰? 用事が無い限りは何時もお前にくっついてる筈なのに、今日は此処にいないんだな」
焔の問いかけに、周囲の生徒達は一斉に固まってしまう。焔としても護衛対象であるエリカは若干苦手意識はあるものの、A組とC組とで教室が離れてはいる為、距離を置きたければそれは容易ではあった。
だが、C組の生徒達は違う。此処には彰がいるので普段のエリカの興味は彼に集中してはいるが、基本的に誰に対しても圧のある対応をするので、彼等彼女等はそれに思い悩んでいた。
「桔梗院さんかぁ……確かにあの子も苗字に桔梗が入ってるもんな……見た目だけなら日和さんと同じ位可愛いけど……」
「授業中みたいに静かにしてる時は、抱きしめたい位に小さくて可愛らしいのに、話すととても怖いのよね……もう少しどうにか出来たら仲良くなりたいのに……」
C組の一番の花である彼女は、同様に生徒達一同の悩みの種と化してしまっていた。これからこの現状をどうしたものかと彰も悩んでいると、話の中心となっていた張本人が、影野という護衛役の少女と共に教室に戻って来る。
焔が教室の時計を見る、時刻は既にお昼休みも後一〇分程の時間。今日は何処かで食事を済ませて来たのかとエリカを見ながら考えると、彼女は彰の方を見て、教室内でさっきまで何の話をしていたのかを問いただして来た。
「ねえ、彰様? 先程まで教室の方が賑やかだったようですけど、一体何のお話をしていらしていたのかしら?」
「えっ!? えーっと、そうだねぇ……俺と焔が話をしてたら、周りがそれに乗っかって来ちゃったって感じかなぁ……」
「何を慌ててんだ彰、俺とお前でお互いの護衛対象についての近況報告をしていただけだろ」
言葉が詰まってしまう彰に、焔が正直に話の内容を伝え、思わず反応するエリカに彼は話を続ける。
「涼芽の奴が、桔梗院とも仲良くしたいってうるさくて、どうにかしろと彰にずっと突っかかっているそうだ。今日は何処に行っていたのかは知らないけど、張り切り過ぎな涼芽と出くわさなかったか?」
自分を心配しているかのような焔の問いかけに、エリカはそれに頷き、数十分前にA組で涼芽と出くわした事を思い出し少し機嫌が悪くなる。
「勿論出会いましたわよ。あの方はどうしてわたくしに対してといい、日和さんに対しても、何故ああいう風な態度を取るのでしょうか? 女同士とはいえ、まず話が終わる前に抱き着こうとして来るのはどうかと思いますわよ?」
エリカは涼芽についての文句を彰と焔にする。ガンバルンジャーも涼芽の行動については手を焼いている場面もあるようで、二人は思わず苦笑いになる。
だがしかし、結果として彼女の行為はしばらくすると事態を好転させるきっかけにもなるので、活動して以来それが大きな問題となる事は無かった。
「まあまあ、エリカちゃん。涼芽のアレは君と仲良くなりたいが為の行動なんだ。俺達が言っても止めないし、本人曰く交友関係を良くする必勝法らしいよ?」
「ああ、あれでいて悪気は無いのは桔梗院にも伝わるだろう? それに、男の俺達には出来ない事でもあるし、涼芽が仲良く出来ないと俺達も困る」
「それは、そうですけど。ですが、まずは仲良くなりたいのでしたら、もう少し控えめにして頂きたいのですわ。フレンドリー過ぎてはしたないとは思わないのかしら」
二人からの説得のような言葉を受けて、エリカはそれを理解しつつも頬を赤らめて涼芽への不満を口にする。
桔梗院家の産まれで、令嬢としての教育を受けたエリカにとっては、幾ら悪気は無かろうがまだ其処まで仲良くなってはいない涼芽の行動は、品が無いようにも見えるのである。
「そうは言っても、涼芽があんな反応をするのは相当珍しいんだ。今と同じ事が前にあったのは、半年位前の異世界での小国のお姫様への護衛任務の時だったかな」
「わたくし達以外にも同じ事をしていらっしゃったの!? それも小国とは言え異世界のお姫様相手にですの!?」
彰からの過去の例に思わず驚くエリカ。お姫様相手と同じ反応と言われて、内心では満更でも無さそうなエリカであったが、それ以上に無礼に当たるのではと疑問に思ってしまう。
「相手は俺達よりも歳が下だったから、最初は無礼だとお姫様本人からも怒られて多少はぎくしゃくしたが、どういう訳か知らない間に涼芽は姉のように懐かれていた」
エリカの疑問に答えるように会話を続ける焔。結果として焔達の知らない間に涼芽が護衛対象に懐かれる位に親しくなっていたという話を聞かされてしまうと、エリカはそれ以上は何も言えなくなってしまった。
同時に自身もいつの間にか涼芽に懐いてしまうのかと思うと、思わず身震いしてしまう。
「でもしかし、涼芽がやり過ぎて無いか俺は心配だよ焔。日和さんの方は大丈夫かい?」
「一回、身体測定の時に着替えの際にやり過ぎてたな……俺が確認に行ったら何故か涼芽が日和さんに土下座していた」
なんだそれと呆れる彰。話す途中でその時に涼芽からこっそりと耳打ちされた桜の事を思い出してしまい、若干顔を赤くする焔。
その時に耳打ちされた内容は、主に桜の身体つきについての感想であった。細い腰に、スベスベの肌に、顔を赤くして恥ずかしがる桜の可愛らしさを自慢気に話す涼芽を、羨ましいと思いつつも好きな子を辱める怒りもあって、あの時の焔はどうにかなりそうになっていた。
それを桜自身と、新しく出来た桜の友人である吉田さんに止められて何とか焔は落ち着き、こんな事で取り乱すようではまだまだだなと、あの日は自宅に戻ると一人で猛省していた。
そんな焔の顔を見てエリカは、生徒会室で取り乱していた焔の姿を思い出す。彰も同様にごく自然と桜の事を話し出して心配もしている。
もしかしたら二人共桜に気が有るのではと、そう考えるとエリカは何だか対抗心が出て来る。生徒会室では涼芽以外からはちゃんとした回答を得られなかったので、教室に大勢の生徒がいる中で、二人に対してつい意地悪な質問をするのだった。
「もしかして、お二人はわたくしよりも日和さんの方が気になっていらっしゃるのかしら?」
この場では敢えて女性としてという一文を省いて二人に尋ねる。思わず身体が固まる二人に、静かにこの場を見守っていた周囲は固まってしまう二人の様子に疑問を浮かべる。
その反応に、エリカは気を悪くしながら続けざまに二人を問いただす。
「わたくしと日和さんでは一体何が違うというのですか? 其処まであからさまにされてしまえば、わたくしで無くても失礼でしてよ」
エリカの後ろにいる護衛役の影野も、今まで静かに様子を見守っていたが、二人の反応に冷たい視線を浴びせる。その視線は、これでよく平等に扱う等と言えたなと、同じ護衛の任に就く者としての訴えの視線でもある。
徹底的にエリカに仕え、始めからエリカのみを護衛する立場であるという、意思表示を周囲に示す影野の方が、護衛としては誠実であった。
影野からの視線に、彰は動揺してしまう。だが、焔は桜への想いを既にガンバルンジャー内では打ち明けている。そういう意味では自分はもう平等に二人を見られないのだろうと覚悟した焔は、真剣な眼でエリカを見ながら、本心を打ち明ける。
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