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「突然取り乱したりして申し訳ありませんでした。僕の方はもう気持ちを切り替えましたので大丈夫です。報告の方を続けていきたいのですが宜しいでしょうか?」


「あ、ああ、桜が落ち着いたのならそれでいい。しかし、お姫様か……ガンバピンクの方は相当桜に入れ込んでいるようだな」


「そ、そうですねぇ、初対面の相手にそう言い切ってしまうなど、余程の事態ですよ……私達の方でも過去に連中に何かあったのか調べておきましょうか」


 何だかレオ様達の様子がおかしい、何かを言い淀んでいるような、思っている事を口に出してしまわないようにしていると言った表情だ。


 向こうでも何かあったのだろうかと考えていると、隣のグレイスさんも三人を見て何も言わずにただムッとした顔になる。


 何だか妙な空気感になりつつあるので、僕は気になっていた事を尋ねる事で空気を換えてみる。


「でも妙ですよね、桃瀬さんはヒーロー特有の物だって言ってましたけれど、本当なのでしょうか? 本人曰く、毛色の違う護りたくなるような特別な女の子に飢えているらしいのですが、まさかヒーロー組織全体でそんな意味のわからない事態になっている程でもありませんよね?」


 何気無く言ったその言葉に、レオ様達は目を見開いて納得がいったかのような顔で僕を見ていた。




「な、何ですか!? どうして僕を見ているのですか? 何か不味い事が起きてるなら教えて下さいよ!」


「ごめんねぇ、桜ちゃん。言われるまで忘れてたけど、実は私も昔にヒーロー側から似たようなアプローチをされたのを思い出したわ。ただ向こうに尋ねて答えを聞いた訳じゃ無いから、いまいち確証が得られなかったのだけど、あの話ってホントだったのね」


 グレイスさんがすかさず僕に謝罪をして、そして自身もヒーロー相手に似たような体験をした事があると告白して来た。グレイスさんの場合は相手が好みでも無かったので軽く一蹴して事無きを得たそうだけれど。


 あの話とは一体何の話なんだろう。聞きたいような聞きたくないような妙な気分になるが、僕の今後の進退にも関わる話なのだろうと思い、恐る恐る尋ねるとグレイスさんは続けざまに話し始めた。


「長い事ヒーローをやっていると、自然と本能でそういう子に強く惹かれていくようになる噂があってね、特に強いヒーロー程そういう傾向が強いらしいのよ。でも所詮噂程度の話だったから、余計な事を伝えて桜ちゃんを不安にさせたくは無かったから教えなかったんだけど、まさかホントの話だったなんて……」


 グレイスさんの言葉に、レオ様達もしまったという顔をして何だか気まずそうにしている。


 ガンバルンジャーは期待の新人ともてはやされる程の凄腕ヒーロー部隊だ。それ位の評価を僕と同じ年で受けているので、最上位では無いにしても警戒するべき相手としては相当なレベルである事は確かである。


 そして、強いヒーロー程僕みたいな子を求める傾向が強いらしい。


 ……そんな人達に目を付けられてしまった事は、ひょっとして今僕は飛んで火にいる夏の虫の如く、相当危険な立場に置かれているのではないだろうか。話を聞いて改めて今後正体がバレでもしたらと思うと、途端に怖くなりぶるりと震えて視界がまたもや滲み出してきた。


「どどど、どうしたら良いのですかぁ……ぼ、僕、もしかしなくても凄い大変な事になっているじゃあないですかぁ……」


「だ、大丈夫よ桜ちゃん! 話を聞いた限りじゃ、向こうが桜ちゃんに危害を与える可能性はほぼゼロに近いから! 安心して? ねっ?」


「ででで、でも、僕は今はこんな姿ですけれど、元は男なんですよぉ……? お姫様なんて向こうのノリで言われた物ですし、いつどんな時に、それも無かった事にされるかわからないじゃないですかぁ!」


「そ、それも大丈夫だから、少なくとも桜ちゃんが今の桜ちゃんのままだったら、絶対に大丈夫よ! 女の子の事で何か困った事があれば私がいるし、もし仮に桜ちゃん自身がガンバルンジャーの前で正体をバラしても向こうも信じようとしないから安心して! それ位桜ちゃんはお姫様なのよ! レオ様達もそう思うでしょ? ねっ? ねっ!」


 思いの外危険かもしれない向こうの入れ込み具合に、恐怖で震える僕を、慌てて宥めようとしているグレイスさん。宥めていく中で何かとんでもない事を言い出している気がするけれど、僕はそれ所では無かった。


 尚も不安な僕を見て、グレイスさんはレオ様達にも同意を求め出した。


 モニターの向こうの三人も剣幕に圧されたのか、僕を見て何か思う所があったのかはわからないけれど、何も言わずに首を縦に振っていた。それでも不安は拭えないでいると、客観的な視点で今の僕がどう見えているのかを、それぞれ語り出し説得が始まるのだった。




◆◇◆




 レオ様達の説得を聞いて、僕は何とか落ち着きを取り戻す事が出来た。そして同時にシャドウレコードの四天王として見ると、余りにも悪のイメージとはかけ離れた姿をしていると端的に言われてしまい、徹底的に打ちのめされた。


 今は恥ずかしさやら、情けなさやら、頼りなさやらで、複雑な気持ちになり、僕はちゃぶ台に突っ伏してしまっている。


 可憐だの、儚いだの、綺麗だの、愛おしいだの、おおよそ悪の組織とは対極に位置するような表現で僕の容姿を説明され続け、最早観念するしかなかった。僕自身はそんな風に思っていなくても、周りからそう言われてしまうのだからもうどうしようも無い。


 これは最早何なのだろうか……褒められているのか、貶されているのか良くわからなくなってしまったけれど、要するにいかに今の僕がヒーロー達にうける容姿をしているのかを説明された。


 倒れていた身体を何とか起こす、まだ恥ずかしさで顔が熱いけれど何とか話を戻さなければ。


「わかりました……今までヒーロー達と何度も対峙し、僕よりも彼等に詳しい筈の皆さんがそこまで言うのなら、僕自身がガンバルンジャーに危害を加えられる可能性が無いと言う事で話を進めます」


 ここで僕が納得出来ないと、安心させようとして更に追加で容姿について言及されてしまいそうな雰囲気だったので、恥ずかしさに耐えつつも無理矢理話を進め、疑問が浮かんだので尋ねる。


「ですが、それだとこのまま行くと僕はヒーロー達と深い関係になってしまうのではありませんか? そうなると情報を集めて抜け出す時が大変だと思うのですが……」


「それなら大丈夫よ。そっちの状況が悪くなれば最悪転校名目で撤退すれば良いだけだから、桜ちゃんはヒーロー達のお姫様として卒業するまで気楽に学生生活を楽しめば良いのよ」


 そう言ってグレイスさんは、起き上がった僕の頬を指でぷにぷにと突いてくる。そうか、転校と言う手段があったのかぁ、でも折角上田さん達とも仲良くなれたのに、そういう手段に頼るのは悲しいなぁ。


 桃瀬さんについてはあらかた一通り話し終わったような気がする。後は勘が鋭い事が能力だと帰りの話の中で出てきたが、それがどれ位の能力なのかはわからないので、話半分程度に得た情報だと前もって言った上で報告してみた。




 この話に一番食いついたのはウルフさんで、前の戦闘での経験も交えて話し出す。


「そうか、ガンバピンクの能力は勘か……確かに、俺との一戦の時、まるで何処を狙って攻撃するかがわかっていたかのように、奴が一番反応良く攻撃を躱していた」


 僕の報告に、ウルフさんが自身の交戦時の体感を踏まえてその手の能力であると頷いている。


「まだ確定した訳では無いがその線はかなり濃厚だな。他の男共は手から炎を出したり、水を出したり、脚に雷を纏って素早く動いていたりしていたな」


 そういえばこの作戦が始まる最初の会議の時の映像で、良く見えなかったけれど何かが光っている瞬間を見た気がする。これで桃瀬さんの能力を合わせて四人は大体の能力が判明した。残るのは学校で見かけなかった五人目になる。


「桃瀬さんの他に、ウルフさんが語って下さったその三人は恐らくですけれど学校で見かけました。その内の一人は僕と桃瀬さんと同じ組なんです」


「えっ、もう一人同じ組にいるの桜ちゃん? それは大変ねぇ、桃瀬さんって子以外は男子なんでしょ? さっき男子絡みで騒ぎが起きたって言っていたような気がするけどその子は大丈夫なの?」


 グレイスさんが途端に心配しだす、まさかもう一人ヒーローが同じ教室にいるとは思っていなかったようだ。


 その時は彼は教室にはいなかったので、何もされてはいないと伝えると、ひとまずはホッとしている。


「ただ、その人僕を見るなり、少し様子が変だったんです。名前は赤崎 焔って言って赤い髪に赤い目をしていましたから、恐らくはガンバレッドだと思うんですけれど、何か僕と一緒の孤児院にいたらしいようで、本人から直接自分を覚えていないかって尋ねられたんですよね」


「ええっ!? あらぁ、敵対組織の男の子ともしかして運命の再開!? 桜ちゃんがとてつもない可愛いお姫様になっているからさぞや驚いたでしょうねぇ! あら、でも幼い桜ちゃんは男の子だったから、今の桜ちゃんにその話をするのって何か変よねぇ?」


 放課後にA組の教室に残っていた女子達と似たような反応をするグレイスさん。ただ、僕についての詳細を知っている為か、彼の反応について疑問を浮かべている様子だった。


 僕と一緒の孤児院に赤崎 焔もいた可能性があると聞いた瞬間、レオ様の顔が真剣になる。イグアノさんとウルフさんも気になるようで今にも尋ねてきそうだった。


 孤児院時代の話はあまりしたくは無いのだけれど、グレイスさんの疑問も解消しなければならない。


 幼かった僕は孤児院ではしょっちゅう女の子に間違えられ、同じ年頃の女の子からもそういう風に扱われていた事と、それで少し年上の男の子達を筆頭に僕を女の子だと思って虐められていた事を話す。




 その話を聞いたグレイスさんは途端に冷ややかな雰囲気になり、赤崎 焔についての追加情報を求めて来た。


「ねぇ桜ちゃん、まさかだとは思うけど、その男の子の中に赤崎 焔って子はいたのかしら……?」


「い、いえ、その中にはいなかったって正直に答えてくれました。ただ、僕の記憶の中だと赤い髪の男の子は孤児院では見かけた事が無くて、その事を伝えると何だか酷く落ち込んだ様子でした」


「えっ? あ、あらぁそうなのー……? 桜ちゃんを虐めてないのなら、それならまあ、いや全く良くは無いのだけど、怒るに怒れなくなっちゃったわぁー、おほほほ」


 グレイスさんは怒りの矛先が迷子になり、変に誤魔化すように笑い出した。それでもレオ様は真剣な顔のままで、何かを考えイグアノさんの方を見ている。


「まさか桜と同じ孤児院にヒーローがいたとはな……イグアノ、悪いがこの件について何か情報を探れないか?」


「フフフ、レオさん貴方ならそう言うと思いましたよ。まあ、調査対象の情報を掴むきっかけを得たのは大きいですねぇ」


 イグアノさんは情報を得る為に進展が得られたと怪しく笑い出し、そのまま僕にも今後の対応策を提案してくれる。


「後は桜さんの件ですが、話通りならしょっちゅう女の子だと勘違いされていたようですので、仮に一緒の孤児院にいたとしても、ガンバレッドも桜さんを女の子だと思っていた可能性が高そうですね。それに、今は髪が赤いそうですが、その頃はまだ能力に目覚めていなかったのだと思われます」


「つまり、赤崎 焔は桜ちゃんを昔から女の子だと思っているし、その頃は能力にも目覚めていなかったから桜ちゃんも良く覚えてないって事かしら? じゃあ作戦続行には何の問題も無いって事で良いわね」




 この件は後で追加で調査をして、何か情報を得られないかの方向で話が進む。僕の件に関しても、もし赤崎 焔が僕に都合が悪い事を言ってきたりしたら、二人の間で所々嚙み合わない所を詰めて無理矢理誤魔化すという、なんとも無茶な方法を取ることにした。


 小さい頃の記憶なので押せばどうにかなるとグレイスさんは力押しして、イグアノさんもいじめっ子の中に赤崎 焔もいたかもしれないと、僕が涙目になって周囲に訴えれば向こうの立場が悪くなると、悪女作戦を推奨して来た。

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