2-4
◆◇◆
まさかこんな筈では……
学校に向かう途中、同じ学校に通う生徒達に通学路で尋常では無い僕の容姿を一目見て遠ざけられてしまい、独りで不安になっていた所を親切に声を掛けてくれた子がまさか、レオ様達に調査を命ぜられた対象人物の一人だったとは……
校門で突然のハプニングもあったけれど、家を出る前にグレイスさんから貰ったアドバイスで、それを女子の輪に入るきっかけにする事も出来て、我ながら幸先が良いと思っていた手前、こんなにストレートに事が進んでしまうだなんて。
グレイスさん曰く、レオ様達も入学初日で繋がりが出来るとは思っていないと言って下さっていたので、当然僕もそう急がなくて良いと思っていたから、まだ心の準備なんて出来ていない。
組み分け表を見た後、玄関で上田さん達と別れ、桃瀬さんと一緒に一年A組の教室まで向かいドアを開けると、先にA組に着いていたクラスメイト達の視線を一瞬で集めてしまい、今度は教室の女子達に囲まれて質問攻めに会っている。
「うわぁ、日和さんって間近で見るとホントに綺麗だよねぇ……良いなぁ、この髪の毛、先っぽで色が変わってるしなんかキラキラしてない?」
「さっきの校門でのアレも見てたけど、肌もすべすべだよね! ねぇ、化粧水何使ってたりするの? ほっぺもっちもちで柔らかすぎだよ~」
「日和さんって最近引っ越してきたって桃瀬さんから聞いたんだけど、どんな所からやって来たの? セントラルとか? もしかして遠縁に王国の血筋とかいたりして!」
何とか自分の席まで辿り着いたものの、そこで女子達に髪やら肌やらを弄られてしまっている。あれこれ尋ねられても一度には答え切れないので困ってしまう。
「あ、あのっ、大勢に囲まれて身体中触られながら一度にそう色々質問されたら、集中して答えられないというか……」
「うわー、日和さん女子にモテモテじゃんねぇ。でも私が一番最初に声掛けて仲良くなったんだから、日和さんを手に入れたいならまず私を倒してからにして貰おうか~ふっふっふ~」
同じクラスになった女子達に囲まれてまたもやもみくちゃにされ、話を聞く所では無かった僕を助けるように桃瀬さんも身を乗り出してくる。
効果があったのか、僕を執拗に弄り倒していた女子達の手が一瞬止まる。
「あー、桃瀬さんずるーい、そんな事言われたらこのクラスの女子じゃ誰も桃瀬さんに勝てないってー」
「あっはは、冗談よ冗談。まあでも、質問するなら一人ずつ順番にしてあげないと、日和さん答えられなくて困ってたし」
それもそっかー、と僕弄りも落ち着き、色々知りたい女子達の質問に答えていく。
とは言っても聞かれた内容には髪色とか目の色等の生まれつきの物もあるので、そう答えるしか無い物もあったけれど、住んでいた場所はS&Rグループの近辺にして、髪や肌のケアについてはグレイスさんからオススメされて、今現在も使っている物をグレイスさんの存在込みでそのまま答えていく。
まだ若いからか、そこまで種類は多くないのだけれど、それでもやっぱり女の子は体調が変わりやすいから肌には気を遣いなさいとグレイスさんからの指導もあり、化粧水や乳液等、肌に合う物を幾つか試す等の徹底したこだわりで短期間で鍛えられた。その結果今こうして女子達が真剣な顔で僕の話を聞き入っているので、グレイスさんにはつくづく助けられている。
家に帰ったらちゃんとお礼を言っておこう。
「へー、良いなぁ、化粧の事を教えてくれる大人のお姉さんがいるとか羨ましいなぁ。でも、そんな事を教えてくれる人が身近にいるなんてやっぱり日和さんってお嬢様なんじゃないの?」
実際どうなんだろうか……? 僕はひと月前まで男だったので、こういう所でボロが出ないように徹底して教えられていただけなんだけれど、どうにか誤魔化さなければ。
「元々オシャレや身嗜みには厳しい人なんです。私の周りには大人の人ばかりいたので、早く私も大人になろうと勉強ばかりしていたら、それだけでは周りから浮いてしまうと言われて、高校に入る少し前から教わり始めたんです」
「日和さん位に目立つ外見してたら、確かに身嗜みにも気を遣わないと勿体ないよねー。私らはただ羨ましいと思ってたけど、周りからそう思われる位には日和さんも努力してるって事なんだ……ひえー、能力者も大変なんだねぇー」
グレイスさんは四天王の中だとウルフさんやイグアノさんには素っ気ない対応をする部分もあったけれど、元から僕には優しかった。
そして女の子になってからは特段親しくなり始めた。けれど、それと同時に僕の為だと徹底して女の子としての身嗜みを教えてくるようにもなった。
趣味と実益を兼ねて、僕に構ってくるようになっただけなんだけれど、僕自身の外見と能力者特有の特殊な事情も相まって、周りの女子達は何だか僕の話を苦労話だと認識し始めた。
僕の話を聞いた桃瀬さんは、彼女にも理解出来る部分があったのか腕を組みながら頷いている。
「私も能力者なんだけど、発現してるのは目の色程度で、髪の色は普通なのよねー。これで名前の通り髪が桃色とかだったら、今頃この世を呪ってたかもしれないわねぇ……日和さんみたいな髪の色の雰囲気と性格が一致してる能力者って、なかなかいないのよねー、あっはは」
「えー、そうなんだぁー、でもチュンちゃんも髪の色の雰囲気と性格が一致してない? それより髪の毛ピンク色のチュンちゃんかー……うげぇ、想像したら気分悪くなってきた……」
「おぉー? もしかして喧嘩売ってるー? 髪がピンク色した私がどんな性格しているかって想像したんでしょー? ちょっとー、教えなさいよぉー」
女子達が気になっていたであろう質問にもあらかた答え終わり、桃瀬さんが自虐的に自身の髪の毛事情を語り、元々桃瀬さんの友人の子がそれに乗っかる形で女子達の話題も桃瀬さんに流れ始めていく。
僕はシャドウレコードの中で生活の殆どを済ませて来たようなものなので、四天王を名乗っている割には実は外の事情はあまり知らない。なので、桃瀬さんの言った事が本当なのかどうかが気になってしょうがない。
髪の色の雰囲気と性格かぁ、グレイスさんは妖艶な感じだし、イグアノさんは怪しい感じだし、レオ様は王子様な感じだと思っていたのだけれど、皆それぞれ僕も知らない様な性格を隠しているのかな。
そんな事を考えながら僕は自分の髪の一部を摘まんで、それをぼんやりと見つめてみた。さっき桃瀬さんが言った事が気になる。一体僕は今、周りからどういう子だと思われているのだろうか……?
「あれ? どうしたの、日和さん? 自分の髪の毛眺めてるけど何かあったの? もしかしてさっき私達が滅茶苦茶触ってたから、何か悪い事でもしちゃった……?」
僕の側で桃瀬さんと女子達の絡みを楽しそうに見ていた小柄で大人しめな雰囲気の子が、僕が自分の髪を摘まんで見ていたのに気が付いて声を掛けて来た。
この子は僕の髪を触る際に、恐る恐る大事そうに眺めていた子なので、万が一の事が起こってしまったのではないかと不安そうな顔で尋ねて来る。
「いえ、そう言う訳では無いんですけれど、先程の話を聞いて私って一体周りからどういう風に見られているのかなって、改めて少し気になっただけなんです」
「い、いや何も無かったなら良かったよ! そ、そうだねぇ日和さんをどう思ってるのかなんだよね、さっきも聞いてくる子がいたけど私も最初は日和さんの事、綺麗で可愛いしどこかのお嬢様なのかと思っちゃったよ!」
僕は自分がどういう風に見られているのかが気になり、ふと話し掛けて来た彼女に尋ねてみる。彼女は彼女で僕に話を振られる事を想像していなかったのか、少し慌てた様子で僕をどう思っているのか答えてくれる。
女子達の評価は概ね高評価なのだけれど、どういう訳か僕の想像以上に評価が高い気がしてしまう。グレイスさんの気合の入りようが凄かったのかと考えていると、突然桃瀬さんがグイっとやって来る。
「いいえっ! 日和さんはお嬢様ってレベルじゃないわ! 実は亡国のお姫様なのよ! 今は無きサクラ王国のサクラ姫とかそんな感じのお姫様なのよ! 最初は私もお嬢様がお忍びで入学してきたのかと思ったけど、私のヒーローとしての勘がビビッと感じて、日和さんのランクを更に上げる事にしたわ!」
友人とふざけ合っていた桃瀬さんが、いきなり勢い良くそう言い放つ。僕の隣にいた大人しそうな子はその勢いにびっくりして、後ずさってしまった。
というよりか、サクラ王国のサクラ姫って何なんだ一体。僕は少し前まで男だったからそんなお姫様は元より実在しないし、ネーミングがあまりにも適当過ぎる。桃瀬さんの発言に若干呆れてしまうが、どう思われているのかは少しは把握出来た。
「ちょっとー、チュンちゃーん? 何その王国。日和さんがお嬢様通り越してまるでお姫様みたいだってのはわかるけどさー、適当にも程があるよー。日和さんだって若干引いちゃってるじゃん」
桃瀬さんの側にいる友人の子も、そのネーミングセンスには呆れた表情をしていた。でも、そんな事はお構い無しに桃瀬さんは自身の右手を握り、周囲に声高にアピールし始める。
「私のネーミングセンスについてはどうだっていいのよっ! 大事なのは日和さんがどう見えるかって事よ! 私はね、通学路で日和さんを一目見た時に何か強い使命的な物を感じ取ったのよ。それで話して名前を聞いて運命まで感じたわ!」
何だか桃瀬さんがやたらとテンション高く凄い発言をしている。さっきまで友人とふざけ合っていたりはしていたけれど、一体どうしたのだろうか。
桃瀬さんは僕との出会いに使命や運命を感じたと説明し始める。もしその感じた物がヒーロー特有の特殊能力の類いであるならば、僕は自分の身を守る為にも警戒度を引き上げなければいけないと注意深く話を聞く。
「ヒーローとしての勘が彼女に何か強い物を訴えているのだから、多分日和さんは私にとってのお姫様で、私は彼女を護る
僕をお姫様に例えて、自信を騎士だと表現する桃瀬さん。どうしよう、話について行けない。僕のような反応をする生徒が大半の中、桃瀬さんの話に憧れの眼差しを向けている生徒もいるのも事実。突然どうしてしまったのだろうか。
何だか周りに威嚇するように話している風に感じられたので、僕は周囲を見渡す。すると廊下には無数の男子の人だかりが出来ていた。
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