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「言われた通り着替えましたが……これから一体何をするっていうんですか?」


 普段僕は常に仮面を着けて四天王としての業務に務めていた。レオ様達や、僕に近しい部下数人には素顔を晒した事はあるけれど、ここ数か月は自室等のプライベートな場所以外ではずっと仮面を着けていたので、こうやって僕の日和 桜としての顔を周りに見せるのは久しぶりで、なんだかとても恥ずかしくなってつい顔が熱くなってくる。


「久しぶりにザーコッシュ君じゃない、桜君の顔を見たけどやっぱり前見た時と変わらなくってよかったわぁ。ここまでやらせといて男前な感じに成長してたらどうしようか不安だったのよね」


 数か月前と変わりが無いと言われて軽くショックを受ける僕を他所に、僕の頬に手を添えて優しく微笑むグレイスさん。


 確かに育ち盛りなのに僕の身体は余り逞しく育たなかった。お腹とかムニムニしてるし、腕だって細い。とても貧弱な身体なので余り見ないで欲しい。


「うん! これだけ可愛いなら、余裕で行けちゃうわ! 男の子なのにここまで華奢なら身体への負担も少なそうだし、メアリーちゃん! 早速やっちゃって!」


『ギョワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


「ふぇっ!? な、なんですか!? うわぁ! 何この触手!? か、絡みつかないでよ!」


 部屋の奥の扉が突然開いたかと思うと、僕は突然グレイスさんが呼んだメアリーちゃんとかいう謎の触手生物に両手両足を拘束され身動きが取れなくなってしまう。


 表面がぬるぬるしてて生温かく、ぐにゃぐにゃ動くのでとても気持ちが悪い。


「グレイスさん! なんですかこれ!? ちゃんと説明してください!?」


 グレイスさんは満面の笑みを浮かべ、部屋に置いてあった機械のスイッチを押した。


 不気味な起動音を鳴らし始めた機械はどこからか薬品の入った巨大な注射器を取り出したかと思うと、触手に針を刺して中に入っていた薬品を注入し始めた。


『ギャギャギャギョオオオオオオオオオオオ!』


「うふふ、桜君この子はメアリーちゃんって言ってね。最近の生物研究学で誕生した触手生物らしいのよ。名前の通りこの子は女の子でね、お肌のつややスタイルなんかを良くする分泌液と触手マッサージが得意な美容目的で作られた子よー」


 そう説明するグレイスさん。メアリーちゃんと呼ばれた触手は更に動きを活発化させ、腕や脚だけではなく脇腹や腰元にも絡みついてきてくすぐったくなる。


「わひゃ!? ぐ、グレイスさん、この触手身体中にっ、まとわりついてぇっ! と、止めてくださいよぉ!」


「駄目よ桜君、このメアリーちゃんがこの作戦のキモなんだから我慢してね。大丈夫よ、すぐに気持ち良くなって上手く行くから」


 触手はそのまま僕の全身に絡みついていき、遂に吸い付くように僕の敏感な部分に貼りついていき、今まで感じたことのない刺激を与えてくる。


「な、なにこれぇっ! ダメ、ダメですっ! グレイスさん! こんなの僕嫌です! レオ様! 助けてください!」


 今までモニター越しに見ていたレオ様達、突然行われた僕に行われた痴態を目にし、レオ様は眉を寄せ、顔を赤らめつつも僕に申し訳なさそうな顔をして目をそらし、椅子から動かずにじっとしている。


「済まない、ザーコッシュ……いや、桜……本当に済まないがこの作戦、今後の為に絶対に失敗する訳にはいかないのだ。事が終わればお前の為に必ず責任はとる……」 


 この作戦を決行したレオ様は僕を助ける気は無いようだ。役に立つ為ならなんでもやる覚悟はあったけれど、触手塗れになって恥ずかしい目に会う覚悟は全く想定の中には無かった。


 そうしている間にも触手はまるで興奮するかのように僕の敏感な部分へ刺激を続け、恥ずかしさと恐怖心で顔が熱くなり、視界が滲み思わず出る声も上擦ってしまう。


「ぼ、ぼくはぁっ、いつか皆の役に立ちたいと思ってぇ、やっと、その時が来たんだってぇ! そう思ってたのにぃ、それがっ、こんなのってぇ! ああっ、ひぃぁっ! ぼっ、ぼくの身体へんですぅ! ふぁっあっ、やだぁ! 何これぇ! だめですだめですっ!? やだやだやだぁあっ!」




 数分に渡り、触手から出てくる分泌液によってじわじわと僕の身体は溶けるように熱くなっていき、身体の感覚がどんどん柔らかくなっていくかのように変になっていく。


 僕の身体に何かが入ってきて、お腹の辺りで何かが勢いよく出ていったような気がする。


 何が起きているのかわからないまま、そのまま思考まで徐々に鈍くなって来る。僕の身体はこれからどうなってしまうのだろう。


 頭や身体がどんどん熱くなり、もはや泣く事も嫌がる事も出来なくなっていき、触手は満足したのか僕の身体でうねうねし続けている。


「はぁっ……もうやぁだぁ……ぼくの身体にぃ、かってに何かしないでくださぃ……うぁあっああ……」


「ごめんなさいねぇ、桜君。もっとサクッと行けると思ってたんだけど、まさかこんなに官能的になっちゃうなんて……レオ様達に今の姿を見せるのは流石に桜君が恥ずかしいだろうから、モニターの電源は落としておいてあげたわ」


 グレイスさんだろう人の声がする。もう何が起きてるのかわからない。


「メアリーちゃんが張り切り過ぎちゃったのか、イグアノが用意した薬が強すぎたのかわかんないけど、私が用意した患者衣すら引っぺがしちゃって、思ってたよりも桜君が凄い事になっちゃったから、慌てて電源落としたわよ」


 べりべりと音がして、手足が触手から解放される。そのままふわりとグレイスさんに抱きかかえられた後は、意識が遠のいた。




◆◇◆




「う、ん……あれ? ここは……」


「あっ、気が付いたのねぇ。良かったわぁ」


 何だか重たい瞼をゆっくり開け、部屋の明るさに目が慣れるまで数十秒。


 寝ながら首を動かすと見慣れた風景、ここが僕の部屋だと気が付く。その横には普段の戦闘服とは違い、落ち着いた雰囲気の洋服を着たグレイスさんがいた。


「グレイスさん、どうしてここに……」


「桜君をメアリーちゃんから引きはがした後、気を失ってたから私がここまで運んで来たのよ。ついでに身体がべっとべとだったから綺麗にするのに色々確かめちゃったわ~」


 グレイスさんはそう言って笑みを浮かべながら自身の頬に手をあてる。まだ意識がぼんやりとしていて、その行動の意味がよく理解出来なかった。


「そうですか……僕は一体どれ位意識が無かったんですか?」


「大体半日くらいかしらねぇ、だから今はもう深夜になってるわよ。もしお腹が空いてたりしてても、食堂は閉まってるから今日は我慢してね」


 あれから半日は寝ていたらしい。そしてどうやらアレは実際に起きた事のようだ。そうなのかぁ、半日も寝ていたのかと思いながら、グレイスさんが言った事を反芻してると、頭の中であれ? っと引っ掛かることがあったので尋ねる。


「グレイスさん、さっき僕を綺麗にする際に色々確かめたって言ってましたけれど……それってどういう意味なんですか?」


「んふふ~、そんなに気になるなら自分で確かめちゃったらいいんじゃない? 自分の身体なんだし気になるわよね~。着せる物無かったから裸に布団かぶせてる状態なんだけど、今はなんだし私は気にしないわよ~」




「は? えっ……? えええっ!?」


 グレイスさんからの思いがけない言葉に意識がパッと目覚め、勢い良くガバっと起き上がる。


 その勢いで頭の周りにふわりと何か糸のような物が舞うので、手で掬うとそれは伸びた僕の髪の毛だった。


 髪に触れる手に目線をやると、胸の辺りが膨らんでいる。小ぶりながらも確かに揺れ、恐る恐る触ると柔らかい感触があり、この二つの膨らみは僕の胸だと言わざるを得ない。


「はぁああっ!? えっ? えっ?」


「この部屋、手鏡ならあるけど、大きな姿見が無いのよねぇ。自分に無頓着だった男の子だと洗面台で寝癖が無いか位しか確かめないのねぇ。はい、手鏡」


 キョロキョロと辺りを見回すような仕草をしたグレイスさんから、手渡された手鏡で僕の顔を確かめる。


 そこには髪は長いけれど僕と同じ髪の色をして、金色の瞳を大きく見開く裸の少女がいた。視線を下に向けると鏡越しに胸が見えてびっくりしたので、姿だけ確認してすぐにグレイスさんに手鏡を返すと彼女は不意に笑い出した。


「あはは、もう、何その反応。貴女の身体だって言ってるのに何でそんなに驚いちゃうのよ。これからは毎日お風呂だったり、着替えだったりで自分の身体を鏡越しで見ちゃうのよ? 別に誰かの裸をのぞき見してるんじゃないんだから見慣れて落ち着きなさいね


 意識が完全に覚醒した僕に、わざわざ桜ちゃんと呼び方を変えるグレイスさん。この態度とさっきまでの説明で、僕を完全に女の子として扱おうとしている。


「グ、グレイスさん……この女の子は本当に僕なんですか……髪の色や目の色は僕と同じだから本当なんでしょうけれど……じゃ、じゃあ色々確かめたって言うと、まさかこの下も……?」


 ゆっくりと布団の上から下腹部から太ももの付け根まで手で身体を触り確かめる。お腹の感触や太ももの感触はしたのだが、ある部分の感触だけ綺麗に消失している。


 僕は恥ずかしいのでグレイスさんの位置からじゃ見えないように、恐る恐る布団を捲り中を確かめる。


「無い……! 綺麗に消えてる……」


「ホントに綺麗よね、桜ちゃんのそこ。正に穢れを知らない無垢の段丘にある乙女の花園が綺麗に咲き誇ってるって感じだったわ~。処理しようとすると結構大変なのよねぇ、羨ましいわぁ」


「ちょっ!? な、なんですか! そんな意味の分からない表現は! まさか、グレイスさんここも確かめたって言うんですか!?」


 オブラートに包んだような包んでないような独特な表現で、僕の大事な部分の評価したグレイスさん。


 僕にとってとても恥ずかしくて隠したかった事が、この人には全部知られてしまっているので、僕はもうどうしようも無くて布団で顔を覆うしかなかった。


 僕の反応を見て、色々大人なグレイスさんはどうやら地雷を踏んだと察してしまったらしく、困った様な声で申し訳無さそうに話し掛けて来る。


「この作戦は色んな懸念要素を排除する為に、まず桜ちゃんの身体を完全に女の子にする所からスタートするんだから、それは当然ちゃんと大事な部分が女の子になってるかも調べたわよ。ただ、まあ、最初から裸になっちゃってたから確認する前から髪の毛とかムダ毛とかは見えてる訳だしねぇ……」


「言いたい事があるならハッキリ言ってください……」


「うぅ……ごめんね桜ちゃん、お姉さんこの作戦が始まる前々から貴女の事で気になってた事があってね、ほら、桜ちゃんの髪の色ってかなり特殊じゃない……? だからね、その……下の方もそうなってるのかなぁ、ってさー……」


「知りませんよ! そんな事! 僕だって見た事無いんですから!」


「男の子の頃からそうだったなんてとても珍しいわねー……そ、それだったら他のムダ毛もあまり無かっただろうし、いやーほんとに処理の手間が省けて羨ましいわねー……何なら女装でも行けたんじゃないかしらー……」


 どうして大人の女性にこんな事を一々説明しなければならないのかわからず、恥ずかし過ぎてもうそんな話は止めて欲しいと布団で覆ってた顔をグレイスさんに向ける。


 すると、グレイスさんは途端に慌てた顔をし始め、僕に謝って来るのだった。


「って、だからその顔やめてってば桜ちゃん……ほんとにごめんなさい……メアリーちゃんに絡みつかれてた時もそうだったけど、貴女って素顔でそんな顔するととっても心にくるものがあるのね。新発見だわ……」


 そんな顔って、どんな顔だろうか。不意に出てる僕の顔なんて僕には見えないからわからない。


 グレイスさんがとても困った顔になるって事は相当強力なんだろうけれど、多分意図しては出せない。


 人によってはどうかはわからないが、僕にとっては恥ずかしいものは恥ずかしい。心の中ではまだ若いからこれからかもしれないと思っていたけれど、グレイスさんの反応からして多分今の時代の子だと、この年でそうだったならば、今後ずっとそうなんだろう。


 益々恥ずかしくなって、泣きそうになる。


「ああ、もう、そんな顔しないでってば桜ちゃん。お姉さんが悪かったってー……そんなに恥ずかしいならさあ、じゃあ桜ちゃんもお姉さんの恥ずかしい所を見てみる……? それでお相子って事で許して?」


「見ませんよ!」


 胸を寄せ上げるように腕を組んで、人差し指を口元に当て目元を細めて誘惑するように突拍子もない提案をしたグレイスさん。


 乗り気は無いので、僕はきっぱり断る。


 ふと身体が裸なのを思い出し、自分の身体を見る。やっぱりまだ恥ずかしさがあるけれど、別の恥ずかしさが上回り少し慣れてきた。


 このままじゃあ風邪を引きそうだと思い、どうしたらいいのかグレイスさんに尋ねると、女同士になった記念に裸になって一緒に寝る? とか言い出してきたので、僕は頭を抱えてしまった。

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