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「こういう情報は本人達が望めば、素顔や素性等はある程度出てくる物なんですけどねえ……」


 イグアノさんが独自の感性で若者のヒーロー像を分析する。


「我々のような悪の組織を名乗っている組織では身を守る為徹底して素性を隠すよう義務付けてますが、彼らは世界の平和を守るために戦うヒーローなんですよ?」


 自分達とヒーロー達とでは立場が違うのだと語り、どうして素性を隠しているのかを疑問視している。


「若くてお年頃な子達なんて普通チヤホヤされたくて自分からバラしたがって情報も集めやすいんですが、今回の子達は随分と身持ちが固いんですねえ……多少やっかみがいたとしても居場所はピースアライアンスの管轄内、どうにでも出来る筈ですが」


 イグアノさんはそう語るのだけれど、僕としてはヒーローなのだからそこは品行方正でいて欲しいと何となく思ってしまう。


 もし仮に、僕がピースアライアンスに拾われて才能を見出されていたとして、もう少し成長した後彼らみたいなヒーローになっていたとしたら、親しくなった人達には当然教えてはいるだろうと思う。


 チヤホヤされたいかは別として、今みたいに徹底してまで隠してまでやる意味は無いと思う。


 そんな想像をしてみるが、僕の人生がそうだったとしても、レオ様のような大事な人が側にいたのだろうか。その人生ではもしかしたら大事な人がいないのではと思うと、自分で想像してなんだか少し悲しい気持ちになり、レオ様の方を見る。


「どうやら奴らはまだ学生で、年齢でいうとザーコッシュとほぼ同じ年のようだ。我らの表向きの情報網で手に入れた情報だ。他の組織もいずれそのことにたどり着くだろう」


 イグアノさんの問いに答えるようにそう語るレオ様、追加で添付された資料もあるので確認してみると、会議に入る直前にこちらに届いてきた情報のようだ。


「ピースアライアンスの法によりヒーロー活動に年齢制限はないが、素性公開を行えるのはどれだけ活躍しようが十八歳以上にならないと無理なのだから、本人達の意思に関係なくそういう風になっているのが今回の問題点であり、何故あれ程の脅威に対して情報が出回らなかったのかの理由だ」


 僕と同じ年の子達があのヒーローなのか……向こう側にも僕と同年代ながら似たような存在がいる事に驚いてしまう。


 僕のように力は無いけれど、他の三人と相性がとても良いという理由だけで座らせて貰っているという存在では無く、きちんとした実力を備えての立場となる。


 ウルフさんとあそこまで戦える位なのだから、もう少し年上なのだと思っていた。


 どうやらイグアノさん達も僕と同じ考えだったらしく、思っていたよりも歳が若かったのに驚きはしても、そういう理由だったことには納得していた。




 他の四天王達も同様に驚いていて、それぞれの動かせる人材をどうにか使えないかと頭を悩ませている。


「今回の子達って、まだ学生なのよねぇ、それもザーコッシュ君と同じ年って相当若いわよ。これで情報を得るために誰かを送り込まなきゃいけないってなると、その子達が通う学校に直接送り込むのが一番手っ取り早い訳でしょ?」


 まず、グレイスさんがそう話す。学生という訳だから、学校に直接送り込むのが良いと考えてはいるものの、その表情は明るくは無い。


「そうなると私の部隊でも当てはまる子達なんて新人の子でも年齢オーバーになるわよ、あっはは、無理だわぁ」


 自分の部隊ではどうにもならない年齢だとお手上げの様子だった。他のウェイクライシスの組織でもそんな年齢の子なんて果たしているのだろうか?


 今から学校に通える程に若い子を拾って、きちんと潜入や調査を行える適性を育てて彼等の居場所に送り出す事なんて、どれ位の労力が必要になるのだろう。


 そんな事をして、時間が掛かり過ぎてその子を送る前にガンバルンジャーが全員学校を卒業してしまったらそれこそ意味が無い。作戦を行うのだとしたら今この瞬間しか無いと思う。


 そう考えていると、今度はウルフさんが話し出す。


「オレの部隊をあそこまで簡単に倒してみせた腕っぷしのあいつ等がまさかザーコッシュ位の歳だとはな……オレ自身はもっとあいつ等の本気を見たかったが部下どもがいる手前それは出来無かった。腕を見せ合う戦場でならいつでもどこでも行けるが、生憎こういう作戦はオレの部隊は全然役に立たん」


 戦闘任務に特化しているウルフさんの部隊では、こういう潜入して情報を集めるという事は向いていないのだと話す。


 戦場だと頼もしい存在ではあるけれど、今回は戦いは行わない方針なのでいつもなら勇んで胸を張っている所、非常に申し訳無さそうな顔をしてしまっている。


 そんなウルフさんの顔を見て、イグアノさんも難しい顔をしていた。


「私の部隊も全然ダメですねえ、工作や潜入事なら十八番だと思っていたのですが、学生に成りすますっていう条件を満たせる部下は一人もいませんね。年齢を偽る事は可能ですが、二十四時間三百六十五日それを維持するのは無理があります。必ずどこかしらでボロが出るというのが話のオチですね」


 普段ならこういう作戦ならお手の物だと言ってくれるイグアノさんも、まず一番に若さが求められる条件は無理だと言って首を振ってしまっている。


 それ程までに学生になるというのは難しいのだろう。僕は自分の見た目や能力も相まって普通の教育機関に通う事は難しいらしくて、今まで勉強はそういう特殊な事情を持った子供向けの教育課程をシャドウレコード内で済ませて来てしまったので、そういった物はよくわからないでいた。


 イグアノさんは何とかグレイスさんが言った方法への代替案を模索しようとしている。


「教職員として潜り込むという作戦も思いつきましたが、ピースアライアンス直轄の地区で教師をやるには結構な資格や確かな素性が求められるので相当難しいですよ」




 グレイスさん、ウルフさん、イグアノさん、それぞれが自分達の部下を思い浮かべてはどうなるのかを想像し、皆不可能という結論に至る。


「ここに来て困りましたね……まず、学校に潜入できる位に若く勉学等に問題無く対応出来て、レオ様や僕達四天王からの信頼も厚く、シャドウレコードとしての素性がバレていない者なんて……僕の部隊でも僕と年の近い人はいますが、それでも二十歳が限界ですね……」


 僕は頭の中でまとめた潜入できる条件を提示して、他の三人と一緒にああでもないこうでもないと考えてみる。


 この条件をほぼ満たしている人間がいるのを僕自身が何故か忘れているような気がして、何かが引っ掛かっている感じに一人で頭の中をもやもやとしていると、レオ様含めて四天王達がじっと僕の顔を見つめているのに気が付く。


「な、なんですか? 僕の顔がそんなに変ですか?」


「ねえ、レオ様……私、今回の潜入任務の条件を満たせる子を見つけたような気がするんですけど~?」


「おや、奇遇ですねグレイス。丁度私もレオさんにその子を紹介しようと思っていた所です」


 グレイスさんとイグアノさんが僕の顔を見ながら、話を続ける。


「え? まさか僕が潜入任務に行くんですか!? で、でも待って下さいよ、僕も一応四天王になって三年目ですよ! 確かに戦闘力は低いし表に出て活動はして来ませんでしたが、流石に四天王を名乗っている以上、僕の情報だって一つや二つはある筈ですよね?」


 学生として潜入任務を行えと言われたら、他にやれる人がいないのなら恩を返す機会として勇んで向かう覚悟はある。


 戦闘面で役に立たない以上、勉学面では人一倍努力してきた。高校生の範囲なら訳無い位には勉強してきたつもりだ。けれど、四天王として活動してきた以上どうしても譲れない物だってある。


 例えどんなに表立って活動して来ていないとはいえ、噂位はある筈だ。その懸念を回避出来ないなら潜入任務に行くべきではない。


「あ、ありますよね、僕にだって何かしら世間に知られている情報は……」


「ザーコッシュ、すまんが戦闘面においてはオレ達三人の評判は幾らでもあるが、四天王の四人目については未だに存在していないものだと認識されている……」


 申し訳無さそうにウルフさんが呟くようにそう言った。


 未だに存在していないものだと言われて僕は、悲しい気持ちになり、うな垂れてしまう。


 いたたまれなくなったのか、レオ様が何とかひねり出したかのように僕について出回ってる情報を伝えてくれる。


「ザーコッシュ、ザーコッシュについての情報……一つだけあるぞ、シャドウレコードには四天王を自称する年若い少年がいると、どこかの組織がバカにするかのように尋ねて来たことがあったぞ」


「えっ! あるんですか! あるんですねレオ様! 僕についての情報が! 例えとても微妙な評価のされ方でも、確かに僕についての情報があったんですね! ありがとうございますっ……!」


 確かに僕についての情報があった。それだけで僕はこの戦いに勝った。実力の勝負ではない、これは四天王として絶対に譲れないプライドの勝負だった。その勝負に僕は勝ったのだ。


 世間に出回っている僕の情報があった事につい思わず顔から笑みが出る。でも困ったな、これでは僕が潜入任務に行けないとても困ってしまった。


 そんな僕を見つめて、グレイスさんが妖艶に微笑みを浮かべながらレオ様にある提案をする。


「年若い少年ねえ……レオ様、もしザーコッシュ君が年若い少年に該当しなくなったら今回の潜入任務、万事上手く行けそうな気がしませんか……?」

 

「グレイス? ザーコッシュが年若い少年に該当しなくなる? それは一体どういう事だ、年をとってしまうと本末転倒なのでは」


「ああ、なるほど。つまりザーコッシュさんが少年じゃなくなれば、条件が全部満たせますね」


 思わず首をかしげてしまうレオ様に、グレイスさんと何かを理解したイグアノさんが不気味な笑みを浮かべ、僕の顔を見つめる。


 少年じゃなくなれば? つまりどういう事なのかわからないので聞いてみる。


「あの、グレイスさん。少年じゃなくなるってどういう意味ですか? まさか女装して潜入しろなんて言いませんよね?」


 僕の女装という質問に、レオ様が一瞬何かを考えた後、何故か酷く狼狽えてしまう。


 確かに僕の本名、『日和 桜』は女の子みたいな名前だ。自分でもそう思う。


 おまけに僕は孤児院にいた頃、この名前と相まって容姿も女の子に間違えられて男の子達にちょっかいをかけられて虐められていた。


 なんだか嫌な思い出を思い出していたら、腕組みをしながら考え事をしていたウルフさんが僕の言葉の意味をようやく理解したのか、納得したように声を出す。


「そうか! ザーコッシュにメスの格好をさせて学校とやらに向かわせるのだな! 確かにザーコッシュならばオス臭さをあまり感じはしないから、人間はそれで騙せるぞ!」


「いいえウルフ、もっと安全で尚且つ確実にザーコッシュ君を潜入させる方法を思いついたのよ」


 どうやらグレイスさんが思いついた方法は女装じゃないらしい。女装して潜入なんてしたらもしバレた時、僕は四天王を自称する痛い子から四天王を自称する女装した変態にランクアップしてしまう所だった。でも、女装じゃなかったら一体何なんだろう。


「つまりねウルフ、貴方が言うようにあまりオス臭くないザーコッシュ君をね、メスそのものにしてしまえば誰かを騙すなんて事すらせずに安全確実に潜入させられるって訳よ~うふふ」


「そうか! その手があるのか! 流石だなグレイス! ザーコッシュにメスの格好をさせるのではなく、ザーコッシュをメスにするのだな! なんだか良くわからんが更に一つ上を目指すのだな! ハハハ!」


 なんということでしょう。僕は女装して潜入するのではなく、メスになるそうです。


 四天王を自称するメスという事でしょうか、どういうことなのか理解が追い付かないのですが。

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