第2話「悪魔が消える別荘①」

アズールと名乗った悪魔は今起こっている事を説明した。


「既に三人、ここから消えてるんだ。何処を探してもいなくてさ。不気味で

皆、怖がってるんだよ」


鮮やかな青髪の悪魔は指を三本立てた。その事件もあって、集まった人々は

ピリピリしていた。


「分かりました。私で良ければ助力します」

「その礼と言っては難だが、探している人がいるんだ。一段落したら

色々聞かせてくれ」

「オーケー。僕が知ってることであれば、教えるよ。申し訳ないけど、

失踪者が使っていた部屋しか残ってないけど」


失踪した三人の部屋。二つしか部屋が無い。一つの部屋にいたのは男女らしい。

恋人だったらしい。揃って失踪した。


「ごめんよ、二つしか部屋が余って無くて」

「いいや、流石にこんな場所に女の子を一人で放置なんて出来ねえだろ」

「俺、別の部屋使いますよ。狭苦しいでしょ」


そう言ってベヒーモスは隣の部屋に移った。一カ所に集まって朝昼晩と食事をする。

そのタイミングで全員が一堂に会するのだ。集まっている悪魔たちは皆、何かしら

上層部に属するような悪魔たちだ。政治に携わっている。彼らの中には探偵

ファウストの名前を知っており、安堵している者とあどけない少女ということを

知って幻滅している者がいる。後者はストレスもあってレイラに何かしら不満を

ぶつけるかもしれない。そう考えてかザガンはレイラを端に座らせた。幻滅する者

から離れた位置。レイラの隣にベヒーモスとザガンが座っている。


「それにしてもザガン様の付き従う悪魔とは、何とも頼りないですな。如何にも

貧乏くさい子だ」


嘲笑。


「そう見えるか。そう思っているなら、少々目が疲れているのだろう」

「何?」


蹴落とそうとした者はイラっと来たらしい。レイラは申し訳なさそうに顔を伏せる。

向かい側の席から料理が流れて来た。顔を上げるとアズールがいた。


「気にしないで…なんて難しいでしょうけど、少なくとも僕はあんなこと思って

無いよ。ザガン様もいるし、手を出してこないさ」


この豪邸を散策する。曰く付きな部屋があるらしい。その扉をレイラは開いた。

寂しい部屋。大きな鏡が飾られている。二人組の男女はここに足を踏み入れて、

そのまま帰ってきていない。


「?」


鏡の正面に立ち、レイラは首を傾げる。自分のようだが自分のようではない。

男の骨格に見える。自分に似た、自分をそのまま性転換したような姿。

玉座に座る男には自分が持っている物と同じ指輪がある。彼女にはこの鏡が

何を映し出すのか分からない。

隣に立つベヒーモスには別の姿が見えているらしい。だが彼の表情からして

喜べるものではないようだ。なら、自分にとって嬉しくないものが

映っている…でも具体的に何なのか分からない。頻りに彼は首輪に

触っている。


「どうしたの?苦しいの?」

「あ、いいえ、そうじゃないです…気味悪い鏡だ。あんまりジッと見ない方が

良いと思う」

「そう?そうなのかな…分かった」


彼には何が見えたのだろうか。聞くのは野暮だろうか。他に何か

無いだろうか。ふと周りを見る。テーブルに積み重ねられた本の隙間に

何か挟まっている。


「絵が、描いてある」


寝る直前に見て居たくはない絵だ。醜い怪物の絵。フレームも手書き。この

デザインは目の前にある鏡と一致している。更に積み重なっている本を一冊

手に取った。分厚く、立派な表紙なので書物と勘違いしてしまった。日記

らしい。


「魂の鏡?」


悪魔たちの魂の姿を映し出す鏡。悪魔たちはかつて凶暴だった。その本性を

映し出す鏡。誰かが間違って覗かないようにベールをしていたが、誰かが

興味本位で鏡を盗み出したらしい。その後に取り戻したが、専用のベールは

一点もの。仕方ないので、使われないこの部屋に設置したという。悪魔たちが

その醜い本性を見せつけられるのなら人間であるレイラの本性、魂とは

何だったのだろうか。

ベヒーモスが気味悪いと言ったり、険しい顔をしたりしていたのはその本性を

見せつけられた故か。


「何だろう、あれ」


レイラは隙間に何か光っているのを見つけた。


「ぐぬぅ…届かない~…!」


気になる。もしかしたら失踪した人の持ち物かもしれないし、何か

ヒントを得られるかも。だが置かれている本棚が邪魔をしている。


「これ、退かしましょうか」

「良いの?というか、退かせるの?分厚い本がビッシリ並んでるけど…」


一人で動かせる物では無いだろう。本一冊だけでもそれなりの重さ。ざっと

五十冊はあるはずだ。それを全て一度で動かすなんて。しかも他人の別荘。

家具を勝手に動かしても良いのだろうか。


「失踪した人を探すため、大丈夫だろ。ほら、離れて」


本棚から離れた。細いスキマに手を入れる。抱えるように持つのではなく

掴むように、挟むような恰好で持ち上げた。そのままゆっくり後ろへ下げた。

本棚は床から浮いている。レイラなら入り込める隙間。手を伸ばし、そして

光っている正体を見つけて、掴んだ。確認してから元の位置に戻した。


「ふんぬぬぅ!!…これ、ホントに持ち上げたんだね、凄い!」

「あんまり無茶はしないでくれ。アンタの細腕が折れたら、俺が困ります。

で、落ちていた物は」


小さな針。裁縫目的か?


「まさか、針の先を握ろうとはしてませんよね」

「へ?そんな危ない事、しないって。痛いじゃん」

「…怖いんで、不安になるような持ち方しないでくれ」


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