魔界探偵ファウスト

花道優曇華

第一章「色欲の王」

第1話「色欲に会いに」

魔界、悪魔が大多数住む世界だ。ここでの人間は架空の存在。レイラ・ファウストは

人間であるがそれを隠して生活している。


「人間界へ戻す為に何か知ってるであろう悪魔はこの七柱だ」


人間界でも名の知れた悪魔たちだ。七つの大罪。憤怒、傲慢、嫉妬、怠惰、暴食、

強欲、色欲。それに該当する悪魔たちは魔界で非常に強い力を持っているという。

だがコンタクトは中々取れない。レイラの衣食住を提供しているのはザガンという

悪魔だ。それともう一人。大柄な悪魔だ。


「いないわけじゃないんでしょう。会うのは難しいんですか」


名をベヒーモス、高身長のせいか屋敷の天井が低く見える。この巨体に驚くが

彼は非常に腰が低い。初めて見た人間、しかもレイラは華奢な体格の為

接し方が少しぎこちない。


「中には本当に凶暴な悪魔もいる。アバドンとかいう組織もあったな…」

「テロリストみたいな奴らですね」

「会える確率の高い場所がある。早速動くとしようか。色欲を司り、礼節を

重んじる悪魔アスモデウスに会いに、ね」


七柱の悪魔の中では比較的穏やかな部類に入る悪魔だ。話もしっかり聞いてくれる

だろう。色欲を司るこの悪魔は姿を自在に変えるらしい。


「遠出になるし、その前にレイラには色々準備して貰わないとな」

「準備?着替えとか、荷物とか?」

「それもあるが、もっと大事なこと。ちょっと待っていてくれ。持ってくるよ」


ザガンが席を立ってから、レイラはベヒーモスと共にテーブルで待つ。どうやら

彼はかつては相当暴力的だったらしい。今はすっかりグレていた過去を思わせない

穏やかな性質。ザガンに手酷くやられたとか。


「そのチョーカー、首輪?はずっとつけてるの?」

「はい。戒めみたいなモンですよ。悪魔は元々凶暴なんです。そっちが寧ろ

本性ですので」

「ザガンさんもそんな一面がある?」

「ありますよ。だからこそ、レイラさんは気を付けてください。本当に洒落に

ならない輩もいるんで」


怒り狂うような、感情を爆発させるような姿は想像できないザガンと

ベヒーモス。そんな彼らでも爆発するときがあるようだ。

暫くしてザガンが戻って来た。彼は無言でレイラに近づくと何かを噴射した。


「うにゃあ!?」


香水をこれでもかというほど噴射するザガン。この香水は少し特殊なものらしい。

レイラが人間であることを覆い隠す香水だ。


「出かける前にはちゃんと付けろよ。お前の身を護る為でもある。さぁ、

行くぞ。アスモデウスを探しにな」


レイラは少し鼻をひくつかせる。香水と言っていたが、特に臭いを感じない。

悪魔であれば何かしら感じるのだろうか。アスモデウスがいるであろう場所。

そこでは事件が起こっていた。


「昨日までで三人…どうなってるんだ!?」


一人の悪魔が現状を嘆いた。別荘にて起こっている事件。悪魔が一人ずつ

姿を消している。そして誰もいなくなった…否、まだ完全に消えたわけでは無い。

消えた悪魔たちは何処に行ったのか、誰が起こしているのか、何故

起こしているのか。とある悪魔が呟いた。


「探偵ファウストって知ってるか」

「誰だ、それ」

「ザガン様が連れている悪魔らしい。便利屋みたいなことをしてるらしいぞ」

「ホントか?」

「来てくれねえかな…」


という淡い願いは叶うことになる。光輝荘と呼ばれるアスモデウスの別荘。

そこに集まった悪魔たちは皆、魔界ではそれなりに上層部であるが各々

裏に何かしら考えがある。この交流で自分の地位を向上させるために上に

いる悪魔に取り入ろうとしたり、蹴落とそうと粗探しをしたりする。

いざ、何かしら事件が起これば真っ先に保身へ動く。

そんな場所にレイラはやって来た。

館のインターホンが鳴った。一人の悪魔が出てみると三人組がいた。そのうち

一人の悪魔は非常に有名だ。


「ザガン様!?ということは…貴方が、探偵ファウスト?」


ザガンの隣に立つ少女に確認する。


「はい。ファウスト、レイラ・ファウストです」


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