第29話 お姉さんの奢りでスポーツジムに行く
やっと終わったーーーっ!!」
廊下を歩いていると、佳織姉さんがそう叫ぶ声がしたので、部屋に入ってみると、
「夏コミの原稿、ようやく終わったよー。褒めて、褒めて」
「おめでとうございます。後は印刷所に送るだけですか?」
「うん。へへ、まだグッズの発注とか、やることは色々あるんだけど、山場は何とか超えたよ」
夏コミに出す新刊がようやく完成したらしく、心底安堵した顔をして羽根を伸ばす佳織姉さん。
良かったなあ、本当に……最近、ずっと籠もりっきりだったから、心配していたのだが、一段落したなら、何よりだ。
「新刊、どんななんですか?」
「へへ、当日まで内緒♪ 見たかったら、ウチのブースまで買いに来てね。お金は渡すから」
「はーい」
佳織姉さんの小遣いで、彼女の新刊を買うのも変な話な気はするが、今は佳織姉さんの金に頼るしかないので、もどかしい。
けど、段々と慣れちゃってるんだよな、佳織姉さんに金をもらうの。
「じゃあ、新刊完成した記念に今日は外食して、パーッと過ごそうか」
「はは、良いですね」
ということで、佳織姉さんと一緒に夕飯は外で食べに行くことにする。
「うーーん、ここのワイン美味しいー♪」
ちょっと電車に乗って遠出し、高そうなイタリアンのレストランに行き、佳織姉さんも結構なお値段のするワインを舌鼓する。
当然のことなら、俺はまだ未成年なので、ジュースだが、来年になったら、一緒にお酒を飲めるかな。
「ん? もしかして、ワイン欲しいの?」
「いえ……」
「ふふん、流石にだめだよ。後、一年我慢しようね。そしたら、好きなだけお酒飲んで良いし、一緒に飲み会もしようね」
「はは、楽しみにしていますよ」
グラスでワインを一気飲みしながら、佳織姉さんはそう言い、俺も笑いながら、注文したドリアとサラダを食べる。
遠慮しないでどんどん頼めと言ったが、やっぱりあまり高い物は頼みにくく、出来る限り、価格を抑えたはずだが、それでも数千円はしそうであった。
そんなに稼いでいるのかなあ、佳織姉さん……具体的な収入はわからないけど、忙しそうにしているから、少なくはないけど、ちょっとだけ気になる。
「商業の方の仕事も立て込んでいるから、まだあまりゆっくり出来ないんだけどね。モデリングの仕事もあるし、ちょっと詰め込み過ぎちゃったかも」
と、パスタを食べながら、佳織姉さんは話すが、正直仕事のことは俺にはよくわからないし、手伝えることが何もないのが、やはりもどかしい。
佳織姉さんは毎日、頑張っているのに、俺は何をやってんだよ全く……。
「あ、そうそう裕樹君。前にスポーツジムに入会したいみたいなこと、言ってたよね」
「ああ、その話ですか? 別にどうでも良いですよ。お金かかりそうですし」
「そんな遠慮することないよ。桜さんから、スポーツジムの無料体験チケット貰ったからさあ。明日にでも一緒に行こうよ」
無料体験チケットかあ……初芝さんも気を使ってくれたのかな。
まあ、それなら一回は行ってみても良いか。
運動不足だし、体を動かさないと、どんどん太って、変な病気にでもなりそうだ。
「じゃあ、一緒に行きましょうか」
「うん。あ、デザートのショコラ、追加でね」
即了承し、佳織姉さんも満面の笑みで頷き、デザートを更に頼む。
そんなに頼んだら、太るぞと言いたくなったが、グッと我慢し、佳織姉さんの奢りのイタリアンを存分に楽しんだのであった。
「へえ、スポーツジムって、こんななんだ」
翌日の昼過ぎに、佳織姉さんと隣町にあるスポーツジムに入り、様々なトレーニングマシンが置いてあるのを見て思わず感心してしまう。
「裕樹君、スポーツジム入ったの初めて?」
「はい」
「そっかあ。実は私、前に友達と一度だけ行ったことあるんだよねえ。でもなんか合わない気がして、続かなかったんだ」
一度来たことがあるのか。
でも、佳織姉さんはスポーツなんてやりそうな子じゃ無いし、実際得意じゃない、
「私も少し太り気味だから、ダイエットも兼ねて頑張るよ。だから、裕樹君もよろしくね」
「は、はい」
ダイエットも兼ねてか……佳織姉さん、スタイルは良いから、あんまり体型の事とか気にしないのかなと思ったら、やっぱり気にしてるんだな。
まあ、女子なら当然だろうし、俺も体が鈍らないように少しは運動頑張らないとな。
「ひい、はあ……」
トレーニングウェアに着替えた佳織姉さんは必死にランニングマシンで足を動かし、早くも息切れし始める。
運動をしている姿も可愛いなあ……思わず応援したくなるくらいに愛らしい。
「俺も頑張らないと。んしょ……こ、こうか? んんっ!」
ダンベルを持ち上げようとすると、想像以上の重さで落としそうになる。
これ、思ったよりきつっ! 俺、こんなに筋力なかったのか……いや、ここ何ヶ月かまともに運動もしてないし、体が鈍って当然か。
「佳織姉さんは……」
「ぜえ、はあ……も、もうダメ~~……」
早くも息を切らして、グッタリしていた。
俺以上に運動音痴だから、ダウンするのは早いのはまあ当たり前か。
「うーーん、やっぱりプールは気持ち良いねえ♪」
その後、二人でプールに入り、軽く泳ぎながら、汗を流す。
温水プールだが、汗を流すにはちょうど良いし、凄く入っていて心地よい。
「佳織姉さん、泳ぎ、少し上手くなりました?」
「私だって、少しは泳げるんだよ。裕樹君ほどじゃないけどさ」
「ですよねー。えい♪」
「きゃあ♪ んもう、止めてよお。誰か見ているよ」
佳織姉さんが俺に背を向けて泳ごうとした所で、背後から抱きつき、さり気なくお尻を触ってやる。
一応、周囲の視線を気にしながらやっているが、まるで変なプレイをしているみたいで、スリル満点でドキドキしてしまう。
「もう、ここじゃ、めっ」
「はーい。じゃあ、俺ももう一泳ぎしますかな」
「うん。うわあ、やっぱり泳ぎ上手いなあ。さすが、男の子」
お痛が過ぎると、スポーツジムの監視員に怒られてしまいそうなので、さっと泳ぎを始める。
うん、今日は調子良いぞ。つか、泳ぎやすくて良いな、ここは。
やっぱり入会しようかなあ……佳織姉さんの水着も見れるし、良いストレス解消になりそうだ。
「うーーん、疲れたなあ……」
プールに入り、サウナでゆっくりと汗を流して、シャワーを浴びた後、ジムの無料体験は終了し、二人で背伸びしながら家路に着く。
うん、今日は久しぶりに運動したな。
筋トレして泳いで、体が引き締まった気分だ。
明日、筋肉痛になりそうだから気を付けないと、いかんがいずれ治るだろう。
「明日は筋肉痛かなあ、トホホ……裕樹君、どうする? 入会したい?」
「入会したいです。佳織姉さんがお金出してくれるならですけど」
「ふふ、ハイハイ。じゃあ、明日にでも申し込もうか。私も申し込もうかなあ。たまには体鍛えたいし」
月額の会員費は決して安くはないが、佳織姉さんが出してくれるというので、お言葉に甘えて、入会することに決める。
もはや、何から何まで佳織姉さんに金を出して貰ってしまっているが、彼女が出すというなら、とことん甘えてやるぜ。
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