第28話 お姉さんだけでなく同級生にも奢られる

「ふわああ……もう朝か……」


 朝、いつもの様に目を覚まし、ゆっくりとベッドから起き上がる。


 今日は生ごみ捨てる日なので早めに起きて、さっさと生ごみを纏めてゴミ捨て場へと置いて行った。




「あれ、佳織姉さん、まだ起きていたの?」


「うん……今、寝る所ー……ふわあ……」


 ゴミ捨てから帰ると、佳織姉さんが寝惚けなまこのまま、廊下を歩いて、自室に引っ込んでいった。


 恐らくトイレにでも行っていたのだろうが、最近、徹夜が多いので心配だ。


「大丈夫ですか?」


「平気ー……今、忙しいけど、もうちょっとだから」


 思わずそう声をかけるが、佳織姉さんは微笑みながら言い、クーラーの効いた自室でベッドにくるまって床に就く。


 うーむ、何か佳織姉さんに働かせてばかりで凄く悪い気分だ。


 しかし、仕事の手伝いなど出来ないし、俺には家事やらでサポートするしか出来ない。


 もどかしいなあ……でも、彼女がそれで良いと言うなら、あまり無理強いしてもしょうがない。


 一眠りした後、朝飯食って洗濯に取りかかるか。




「はあ、暇だ」


 昼過ぎになり、家事も一通り終わったので、ベッドで寝転びながら、スマホをボンヤリと弄る。


 ゲームも漫画も興味があるのは大体手を付けたし、かと言って外出するにも今日は暑い。


 クーラーの効いた部屋でボーっと過ごす。


 悪いことではないかもしれないが、何というか空しい気分だ。


 充実感がまるでないって言うのかな……どんどん駄目になりそうで、とにかく何でも良いから趣味でも見つけないとボケてしまいそうだ。


「いかんいかん。どうにかしないと……」


 そう思いながら、部屋にあるパソコンを起動させて、ネットで調べ物を始める。


 バイトの求人かはたまた在宅で出来る内職みたいなのは、無いだろうか……。


 本当なら、せめてバイトくらいはしたい。


 高校の時は郵便配達やコンビニのバイトとかやっていたけど、内緒でやるのは難しいしなあ……。


「何かここに監禁されてる気分になってきた……」


 佳織姉さんのおかげで、金には困ってないが、本当に家事以外やることないのは辛い。


 つか、何でバイトも許してくれんのだろう?


 家事や炊事の時間はなくなるし、俺も大変にはなるだろうが、何もしないよりはマシだろう。


 けど、今更何をしたら良いのか……近くのバイト先でいいのはないかな。




「おっはよー。ちょっと、これから出かけるね」


「っ! は、はい。何処行くんですか?」


 求人サイトを見て、そんなことをボンヤリと考えていると、佳織姉さんがやってきて声をかけてきた。


「ちょっと、印刷所に行かないといけなくて。サークルの子と行くから、帰りは遅くなるかも」


「そうですか。じゃあ、夕飯は……」


「食べに行くかも。だから、裕樹くんも外食とか好きにしていいから。はい、お金」


 そう言って、夕飯代として、財布から五千円、俺に差し出す。


 別に小遣いも貰っているので、夕飯代など、貰うのは悪いと思ってしまうが、受け取らないのも失礼な気がしたので、五千円札を受け取った。


「じゃあねー。ちゅっ」


「っ! い、いってらっしゃい」


 五千円札を受け取った後、佳織姉さんは俺の頬にキスをし、帽子を被って、出かける。


 やっぱり、何も考えなくて良いのかな……彼女にキスされると、将来のこととかどうでも良くなっちゃうし、このまま遊んで暮らしちゃおうかなって思っちゃう。


 でも、遊んで暮らすにしても、やりたいことがないってのが辛い。




 じゃあどうする?


 ソシャゲで課金しまくるとか……電子書籍、買いまくるとか。


「駄目だ。ロクナこと思いつかない」


 本当、俺って駄目な男だな。だから、大学入試も駄目だったんだろう。




「うーーん、何食うかな」


 夜中になり、夕飯を食べに、町に繰り出すが、どこで食べようか考える。


 ファミレスか回転寿司とか……あんまり、高そうな物も食えないし、何より一人じゃな。


 牛丼でも良いかと思いながら、駅前のとおりをブラついていると、


「アハハ、それでさー」


 居酒屋に大学生らしき集団が、入っていくのが見えた。


 どうも飲み会っぽいが、俺も大学に行っていたら、サークルのコンパとか今頃、参加しまくって、バイトしたら友達とドライブに行ったりとか色々していたんかな。


 何でことを考えると、凄く空しい気分になってきてしまい、溜息が漏れる。


 何か食欲無くなってきたので、今晩は軽く済まそうかなと、近くに見えたチェーン店のうどん屋で夕飯を済ますことにした。




「いらっしゃいませー。あ」


「ん? ああっ! 米沢さん?」


「うん。こんばんはー、野村君」


 店に入ると、着物の制服に身を包んだウェイトレスさんが出迎えてくれたので、見てみると、何と米沢さんとバッタリ会う。


「ここでバイトしてるんだ」


「うん。あ、一名様? どうぞ、空いてる席に座って」


 思いもかけず、米沢さんに出会ってしまい、物凄くバツの悪い気分になりながら、彼女に案内されて、空いてるカウンターの席に座る。


 くっそお、何か嫌だな……ただでさえ、知り合いのバイトしてる店には行きにくいのに、よりにもよって米沢さんがバイトしているとは。




「へへ、ご注文はお決まりになりましたか?」


「え? ああ、うん。きつねうどんとカレーのセットとドリンクバーで」


「きつねうどんとカレーのセットとドリンクバーですね。少々、お待ちください」


 座ってしばらくして、米沢さんが満面の笑みで、俺に注文を取りに来たので、出来る限りの愛想笑いをして、注文を告げる。


 いつからバイトしてるんだろう。随分と手慣れているなあ……。




「はあ……」


 うどんをすすりながら、思わず溜息を漏らす。


 いや、美味いんだけど、米沢さんがテキパキと働いてる姿を見て、あまりに眩し過ぎて、自分が情けなくなってしまう。


 バイトに大学に、一生懸命だな。てか、普通なんだけど、俺も大学に受かっていれば、佳織姉さんの家に行くこともなく、今頃……。


(駄目だ、駄目だ。余計なことを考えるなよ)


 大学生活をエンジョイしている、米沢さんや松川なんかを見ていると、本当に別世界の人間に思えてしまい、輝いて見える。


 それに引き換え……。


「はい、チョコレートパフェです」


「えっ!?」


 俄かに劣等感に苛まされながら、ドリンクバーのコーラを飲んでいると、米沢さんがチョコパフェを俺のテーブルに置く。


「あの、頼んでないけど……」


「えへへ、私の奢り♪ 今日は来てくれてありがとう。また、会おうね」


 と、小声で俺に耳元で囁き、米沢さんは厨房へ戻る。


 奢りって……たまたまこの店に来ただけなのに、悪いなあ。


 彼女なりに気を遣ったんだろうけど、凄く悪い気分になってしまい、同時に更に情けない気分になる。


 年上のお姉さんだけでなく、同級生にまで奢られちゃうなんて、どんだけ甲斐性なしなんだ俺。


「ただいま……」


「おっかえりー、裕樹君」


 気落ちしながら、家に帰ると、佳織姉さんが満面の笑みで俺を出迎える。


 その笑顔はどこかさっき見た米沢さんの笑顔に良く似ており、また心が痛くなってきた。


「あ、そうそう。来月の夏コミなんだけど、裕樹君、来る?」


「え? ああ、行きますよ」


「じゃあ、待ってるから。終わったら、二人で、旅行に行かない? 取材も兼ねてだけど」


「旅行ですか? まあ、良いですよ。佳織姉さんの奢りですか?」


「もちろん。じゃあ、ホテル予約しておくから、楽しみに待っててね」


 夏コミ後の予定も早々に決まり、また佳織姉さんの奢りで、旅行に行くことが決まる。


 楽しみだけど……何かせつない気分になってしまい、悶々としながら一夜を過ごしたのであった。

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