第26話 元同級生との距離が縮まってしまう
翌朝――
「ふあ……えっとここかな?」
「野村君、オハヨー」
「ああ、おはよう。もう来てたんだ」
待ち合わせ場所に行くと、既に米沢さんが来ており、俺に手を振って挨拶する。
可愛らしい服着ているなあ……何かデートみたいで、ドキドキしてきた。
「悪い、待った?」
「今、来た所。じゃあ、行こう」
テンプレの様な挨拶を交わした後、二人で電車に乗り、試験場である免許センターまで行く。
デートじゃないぞ……あくまでも試験を受けに行くんだからな。
「くす、こうやって二人で出かけるの初めてじゃない?」
「え? そう……だな、うん」
電車に乗りながら、米沢さんがそんな事を言ってきたが、確かに彼女と二人で何処に出かけるのは初めてだ。
「何か不思議な感じだね。同じクラスだった時は、こんな機会も無かったのに」
全くだ。米沢さんとは仲の良い方だったと思うが、一緒に遊びに行ったりとかは一度もなかった。
「その……試験終わったらさ……どっか、遊びに行かない? あ、二人が無事に合格したらだけど!」
「う……うん、良いよ」
「やった。じゃあ、約束ね。あ、今は試験に集中しないとね、はは……」
やば……試験終わったら、すぐに帰るつもりだったのに、つい受けてしまった。
佳織姉さん、絶対に怒るだろうなと思いつつ、断り切れなかった事への罪悪感より、米沢さんに誘われた事が嬉しくなってしまい、今まで以上に彼女を意識するようになってしまったのであった。
「では、はじめ」
手続きを終えた後、試験を行う教室に入り、いよいよ本試験がスタートする。
大丈夫だ……ちゃんと勉強したんだから、全部解ける筈だぞ。
「んーー、終わったね。どうだった?」
「ああ……まあまあかな」
試験が終わり、米沢さんと一緒にロビーで結果を待つ。
自信はある……けど、解答がズレていたとか、そんな事もあるかもしれないので、蓋を開けるまではわからない。
「あ、来たよ」
「どれどれ……あ」
あった。
遂に結果が電光掲示板に掲示され、俺の番号もあり、無事合格出来た。
「やったーー、あったよ。野村君は?」
「ああ、俺もあったよ」
「良かったあ。へへ、これで二人とも免許持ちだね」
二人とも無事、合格出来て、心から安堵し、これで完全に自動車免許獲得が確定した。
ムフフ、早速、運転してみたいな……今度、親の車でも借りて、ドライブしようっと。
「交付の手続き、一時半からだって。その間に、お昼食べちゃおうか」
「うん。何処で食うか……」
「食堂が地下にあるみたいだよ。だから、そこで食べよう」
「へえ。じゃあ、行こうか」
免許センターの地下に食堂があるなんて、初めて知ったので、米沢さんと一緒に行ってみる。
何処か外に出て、食べに行く手間が省けたので、助かったわ。
「んーー、やっぱり混んでいるね」
「だな」
食堂に行くと、試験の合格発表を終えた人や、試験場の職員達でごった返しており、賑わっていた。
一時間もしない内に、交付が始まるから、あんまりゆっくり食えないな。
「へへ、私、定食にしようっと」
「じゃあ、俺はカツカレーでも食うかな」
値段も安く、まるで学食の様な雰囲気だったが、高校の時を思い出してしまい、ちょっと懐かしくなる。
昼は学食も多かったので、こんな風に食券買うのに並んて、松川なんかと良く食べていたな。
「それにしても、本当に良かったよー。ちゃんと二人とも合格出来て」
「はは、本当。俺だけ落ちたら、気まずかったよね」
「それはこっちの台詞だよ。私、あんまり自信なかったから、落ちたら、どうしようかなって思って」
何て他愛もない事を、昼食を食べながら話していく。
こうやって、笑顔でランチタイムを迎えられて、本当に幸せだ。
「この定食、美味しいなあ。ウチの大学の学食、安いけど、味がイマイチでさあ」
「へえ……」
大学の学食か。俺も、大学に受かっていれば、昼は毎日、学食だったのかなーなんて。
弁当は……流石にないか。大学生で弁当なんて聞いた事もないし。
「野村君はさー、今度、何処の大学受けるの?」
「え? ああ……きょ、去年、受けた所をもう一回かな……」
「そっか。ウチの大学は……ううん、何でもない。頑張ってね」
「うん……」
恐らく、米沢さんは自分の大学に来ないかと誘おうとしたのだろうが、それ以上に、俺の方が気まずくて、言葉を濁してしまう。
浪人しているとウソを付いているのだが、取り敢えず、米沢さんと会うのは、今日限りの筈だ。
だから、今日だけやり過ごせば……そう言い聞かせて、この嘘を付いている罪悪感から、必死で逃れようとしていた。
「くす、どうしたの? 何か顔色悪いけど?」
「なんでもない。あ、もう時間だね。急いで食べないと」
「うん」
顔色に出てしまったのか、
「くうう……遂に免許ゲットか」
免許の交付を終え、自分の顔写真が写っている免許証を見て、感極まる。
今は無職のヒモだが、これで身分証はゲット出来たので、色々と出来るぞ。
ほんのちょっとだけ、ランクアップした気分になり、心を躍らせながら、免許センターを後にしていった。
「あー、これで完全に終わったね」
「うん。米沢さん、車どうするの?」
「取り敢えず、親の車を借りて、しばらく練習しようかなって。大学の友達に入学祝いに車買って貰った子いてさー。そう言うの聞くと、凄く羨ましく感じちゃうんだよね」
入学祝いに車か……金持ちの大学生って、そんな物なのかな。
つか、俺も佳織姉さんにクーラーやスマホ買って貰ったりしてたよな。
考えれば考える程、今の俺の境遇がレア過ぎて、笑えない。
年上の親戚のお姉さんに養われて、ヒモ生活なんて、誰にも言えないけど、人によっては羨ましがるだろうが、他人にはとても軽々しく言えないので、やっぱり恥ずかしい境遇なんだろうな。
「それより、これから何処に行こうか?」
「あ……そうだな……この辺の事、よくわからないからなあ」
「へへ、じゃあ二人で、カラオケにでも行く?」
カラオケか……まあ、たまには良いかな。
「うん、良いよ」
「やった。じゃあ、行こうか」
ありきたりではあったが、米沢さんと一緒に近くのカラオケボックスに行き、簡単な打ち上げをする。
無事、免許を取得出来た事により、開放的な気分になり、俺もすっかり舞い上がってしまっていた。
「んーーー、ちょっと遅くなっちゃったね」
カラオケで二時間程、騒いだ後、繁華街を適当にブラついて買い物をし、帰る頃にはすっかり遅くなってしまった。
「じゃあ、そろそろ……」
「うん。あのさ、野村君」
「ん?」
駅の改札を出て、いよいよ米沢さんとお別れしようとした所で、彼女に呼び止められ、
「また、一緒に……ううん、今度は、ドライブでもしようか」
「あ、ああ……車、どうしよう……」
親父の車でも借りないといけないが、米沢さんとドライブに行くなんて、何か絵に描いた青春みたいだ。
いや、彼女より、俺は佳織姉さんと……。
「じゃあ、またね」
「う、うん」
俺の手をがっしりと握り、絶対にまた会おうと言い聞かせるような目で、米沢さんがそう言い、思わず頷く。
も、もしかしなくてもこれ……米沢さん、俺の事を?
いや、まさか……でも、今までの態度を見ると、そうとしか思えない。
「ただいま……」
パアアンっ!
「うわっ! な、なんですか!?」
「へへ、合格おめでとう。これで、裕樹君も一人前だね」
米沢さんの事を考えながら、家に入ると、佳織姉さんがクラッカーを鳴らして、満面の笑みで俺を出迎えてくれた。
「ふふん、今日は裕樹君のお祝いにお寿司を取ったよ。いつか、車に乗せてねー」
「はは……ありがとうございます。すみません、遅くなって」
「まあ、元カノと遊んで来たんだろうけど、今日は大目に見てあげる。さ、上がって」
「は、はい」
彼女と遊んで帰りが遅くなったのを知りつつ、笑顔で出迎えて、免許取得を祝福してくれた佳織姉さんを見て、胸が熱くなる。
そうだよ、俺には最高のお姉さんが居るじゃないか。
「はい、あーん?」
「あ、あーん……」
リビングに行くと、テーブルにはお寿司やチキン、フライドポテトやショートケーキなどの料理がならべられ、更に佳織姉さんが俺の隣に座って、あーんして食べさせてくれる。
何かイタレリつくせりで悪いな……
「ふふん、食べかす付いてるぞ、ちゅっ?」
「も、もう……へへ、ありがとうございます」
時折、こうやって佳織姉さんが頬にキスし、その度に俺も彼女にハグして、胸や太ももを触ったりする。
本当、バカップルだよなあ……
「そうだ、裕樹君にプレゼントがあるよ」
「え? 何ですか?」
「じゃーん、プールのチケット♪」
佳織姉さんがポケットから、近くにある総合プールのチケットを二枚、俺に手渡す。
「友達から貰ったんだ。良かったら、使ってね」
「は、はい。てか、一緒に行きましょうよ」
「うん、良いよ。じゃあ、暑くて時間が空いた日にね」
貰ったと同時に佳織姉さんをプールに誘い、即了承してくれた。
これで夏の予定も決まり、佳織姉さんの水着を楽しみに夢想しながら、彼女との打ち上げは過ぎていった。
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