第25話 お姉さんにまた気前よく色々プレゼントされる
翌日――
「買い物行く前にちょっと本屋行って見るか」
午後に店の人がエアコンを取り付けに来る事になり、佳織姉さんが応対するから、俺は家をしばらく出てくれと言われ、夕飯の買い物ついでに近くの書店で時間を潰す事にする。
免許の試験も近いから、何か問題集でも買おうかなあ……何て、思いながら、参考書のコーナーに行くと、大学受験参考書の棚がまた目に入った。
「赤本、もう出揃ってるな」
俺が受験した大学の過去問題集は既に発売済であり、ちょっと手に取って見てみる。
ああ、こんな問題あったなあ……なんて、思いながら、また胸が苦しくなって来た。
(今からやれば間に合うかな……)
もう勉強した事も忘れてしまったが、まだ今から始めれば、あるいは……なんて、思いがどうしても捨てられなかった。
未練たらしいな俺……でも、時間はある訳だし、独学でもあるいは……いやいや、佳織姉さんにバレたら怒られる。
だが、金はあるし、ちょっと買ってみる位は良いかと言う誘惑には勝てず、去年第一志望にしていた大学の過去問題集を手に取り、遂に金を払って、購入してしまったのであった。
「ただいまー」
「あ、おかえり。ほら、エアコン来たよ」
買い物から帰ると、業者がエアコンを取り付けに来たらしく、佳織姉さんに案内されて、俺の部屋のエアコンを見てみる。
「ふふん、どう? 涼しいでしょう。私の部屋にある奴より、高くて良いエアコンなんだからね。ついでに扇風機もあるから、これで真夏も快適だよ」
「すみません、ここまでしてもらって。いつかお返ししますんで」
「お返しなら、体で払って貰おうかなあ。家に住み込みで家事の仕事をする条件で。あ、全部で十六万したから」
「じゅ、十六万ですか……」
エアコン、扇風機、更にはスマホ代金など全部合わせてらしいが、そんな金、今の俺にはすぐに返せない。
やっぱり浪人させてくれともこれでは言い辛くなってしまった。
「そう言う事だから、頑張ってね♪ ちゅっ?」
佳織姉さんが可愛らしくウインクしながら、そう告げ、俺の頬にキスをする。
益々、ヒモ生活から抜け出せなくなりそうになり、折角買った大学の過去問題集もすぐにコッソリと資源ゴミに出してしまったのであった。
「ん? はい」
『ヤッホー、野村君』
暇なので、本免試験の勉強をしている最中に、電話が鳴ったので出てみると、米沢さんからであった。
珍しいな……と思ったが、何で電話をかけてきたのかは、だいたい想像は出来た。
『えへへ、元気にしてる?』
「まあね。米沢さんは?」
『うん、元気元気♪ あ、そうだ。免許の筆記試験だけどさあ。来週の月曜日とか大丈夫? ちょうどその日、予定が空いてるんだ』
「えっと……うん、大丈夫」
「良かった! じゃあ、時間は……結構、早く行かないと間に合わないみたいだから、六時半に集まろうか」
と、トントン拍子に来週の試験の日程が決まる。
確か平日でないとやってないらしいので、大学がある米沢さんは予定空けるのに、大変だっただろう。
毎日が日曜の俺には考えられんわな。
『じゃあ、またね』
「うん。それじゃあ」
軽く雑談した後、電話を切り、近くにあったメモ帳に予定を書き込む。
ちょっとだけ楽しみだなーなんて、思ったりしたが、遊びに行く訳じゃないので、あんまり浮かれないようにしないとな。
「何やってんのー?」
「うわっ! な、何ですかいきなり!?」
メモ用紙に予定を書き込んだ後、背後から佳織姉さんがいきなり抱きついて来た。
「何か電話してたみたいだけど、お友達?」
「えっと……あ、はい。今度の月曜日に、免許の試験、受けに行こうって話してまして」
「ふーん……例の元カノかあ……いや、まさか本当に浮気しているとか?」
「だから、違いますって! ただ試験を一緒に受けに行くだけですよ! 信じてください!」
何で元カノだと思われてんだろうな……違うと言っても信じてくれないし、そんなに仲良くしているように見えるか?
「どうだか? 試験終わった後、二人でどっか遊びに行ったり、ご飯食べに行ったりする気なんでしょう? それ、浮気って言わない?」
「う……いや、あの……時間的にお昼ご飯一緒に食べに行くのは許して欲しいなあって……」
試験や交付の時間が午前中いっぱいかかるみたいなので、帰りに二人で昼食を食べに行く事にはなる。
別々に食べるのもおかしいし、それくらいはね……
「良いよー、行ってくれば。お姉さんのお小遣いで、精々、彼女とのランチを楽しむが良いさ、ふん」
「うう……す、すみません」
拗ねた姿も可愛らしくて、全く怖くはないんだが、やっぱり機嫌を悪くしてしまったのは、バツが悪く、ひたすら頭を下げる。
本当に何もしないぞ……試験受けに行って、その帰りに飯を食うだけだ。
米沢さんには悪いが、そこでお開きにしないと
「ふう、いよいよ明日か……」
米沢さんと一緒に試験に行く日が、もう明日に迫ってしまい、ちょっと緊張してしまう。
十分に勉強したし、大丈夫だと思いたい……でも、俺だけ落ちたら、気まずいよなやっぱり。
そうなったら、また次の日に一人で受けなおせば良いんだが、その金も佳織姉さんに頼るとなると、ちょっと気まずいかも。
「裕樹くーん、ちょっと良い?」
「何ですか、佳織姉さん?」
「ふふ、今日、遊びに行かない?」
「今日ですか……別に良いですけど」
「やったー。じゃあ、すぐ支度しようか」
いきなり、どうしたのかと首を傾げていたが、とにかく今日の午後は佳織姉さんと遊びに行く事になり、二人で出かける。
もう彼女と出かけるのも慣れてしまったが、これも一応、デートって事で良いんだよな?
「うーん、どれが良いかなあ……」
佳織姉さんがまじまじと棚に陳列されている同人誌を物色していく。
何処に連れて行かれるのかと思ったら、アキバの同人ショップで、いわゆるBL本をやたらと漁っていた。
「佳織姉さん、こういうの好きでしたっけ?」
「最近、ハマったの。へへ、裕樹君も見てみたら? 原作は面白いよー」
何て俺に説明しながら、気に入った同人誌を何冊か買っていく。
てか、この店、女性向けの同人ショップなんで、微妙に居辛い……商品も、俺の興味がある物がないし、正直、早く出たい。
「佳織姉さんもこういう本、描くんですか?」
「自分で描くのはちょっと……イケメンのキャラを描くのは嫌いじゃないけどね」
「ふーん。何か女の子ばかり描いてる気がするんで」
佳織姉さんのツイッターやブログなんかはたまに見るが、男のイラストって殆ど見当たらなかった気がする。
が、仕事で描く事もあるって事なんだろう。
「んじゃ、行こうか」
「はい」
会計を終えた後、二人で店を出て、しばらくアキバを散策する。
「暑いねー」
「ですね。どっか涼みましょうか」
「ふふん、お姉さんに奢られるのが、もう自然になってきたな♪」
「いえ……何なら、割り勘でも……」
と言おうとしたが、俺の財布の中に入っている金は、佳織姉さんから貰った小遣いがすべてなので、どっちにしろ彼女の奢りなのは変わらない。
まいったな……すっかり、佳織姉さんに財布も何もかも握られている気分だ。
「へへ、まあ良いじゃない。年下なんだから、遠慮しない」
「たまには格好良い所、見せたいんですよ」
「裕樹君は常に可愛い」
いや、可愛いじゃなくて、佳織姉さんに景気よく奢ってやれる男になりたいなって……。
「私さー、夏コミ近いし、他の仕事も入っているから、折角の夏休みなのに忙しくなっちゃうの。ごめんね」
「ああ、やっぱりそうなんですか」
最近、ちょっと仕事の打ち合わせで出る事が多くなってる気がしたので、仕事が立て込んできているのだろう。
毎日、頭が下がるなあ……いつか、恩返ししたいけど、どうすれば良いんだろう?
金稼ぐなら、バイトくらいはせめてしたいが、ただのフリーターになるのも少し抵抗が……
「裕樹君はさ、難しく考えなくて良いんだよ。毎日、家事やってくれてるだけで、こっちは助かってるんだから」
「そ、そうですか?」
「うん。それだけでお姉さんは十分。あ、この店、入ろうか」
佳織姉さんは腕を組みながら、笑顔でそう言い、次第に落ち着いた気分になる。
今のままで良いと言う事か……こんな可愛いお姉さんと同居して、養わられて何が不満なのか。
クーラーや新しいスマホまで買ってくれたし、ずっとこの不自由ないヒモ生活続けてれば良いじゃないか。
そう言い聞かせながら、佳織姉さんとファミレスに入り、軽くお茶した後、家に帰っていった。
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